大人たちの「保母さん」に 2
第13話 アールグレイの香りとともに・・・
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アールグレイの紅茶は、独特の香りを持っている。
そこには、飲もうとする人間には好き嫌いを、紅茶側からしてみれば、人を選ぶような要素が見え隠れするでもなく正面切って表明させようとするかのようだ。
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「大槻君もあの米河少年もそうですが、このアールグレイの香りのような、人を選ぶところが強烈にありますね」
大宮氏の弁に、3人とも妙に納得感をもって頷く。
「ひょっと哲郎君、あなたは、それを私たちに知らせるために、あえて?」
山上元保母の疑問に、大宮氏が答える。
「そこまで意図してどうこうするつもりは、ありません(苦笑)。ですが、これも言うなら、シンクロと言いますか、話の流れの中に妙にはまってしまったようですね。この紅茶の香りは、確かに、人を選ぶような節があります。ぼくは好きですけども、これを敬遠したい、それどころか蛇蝎のごとく嫌う人もいましょう」
「ぼく自身は、アールグレイは好きです。とはいえ、あのお話は、ね(苦笑)。しかし、そんな中にあえて飛び込んだ方が、吉村先生ってことでしょうか?」
元保母の娘婿の弁を、大宮氏は苦笑しつつ肯定した。
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そういうことに、なるかな。
これはあくまでも私の意見だが、吉村さんという保母さんにとっては、山上さんとお話することによって、昔と今の橋渡しを託されるという、そんな立ち位置での役割を果たさねばという使命感をお持ちになったのだと思われます。
私生活のほうは私がどうこう申上げる立場にはありませんが、正義君、あなたがその役割を否応なく追うことになったわけだ。
御存じの通り、山上先生には息子さんもいらっしゃる。ここにはそのお二人の上になるお姉さんという、実の娘さんも、ね。
もっとも、お孫さんたちはまだ幼いから、吉村さんや正義君のような役目を負わせるわけにもいかないでしょう。かと言って、血のつながった特定の息子や娘に託せる性質のものではない故、山上先生は、あえて血のつながらない、娘婿にあたる正義さんに、よつ葉園での吉村さんと同じ立ち位置の役を求めたのではないか。
これはぼくの憶測に基づく勝手な分析にすぎないが、どうでしょうか。
「となると私は、山上先生に足からアリジゴクが泥沼に引きずり落とされたような立ち位置みたいですね(苦笑)」
「でも、マサ君は殺されたわけじゃないから、いいでしょ(苦笑)」
「そりゃあ、恵美ちゃんの言うとおりだけど、正直、えぐい話ばっかりな印象しか残っていないのよ、ね。大槻さんという園長さんのお話、ぼく個人としてはどこにでもいるやり手のビジネスマンのように思えたけど、ただ、その人とやりあっているのが自分の身内になる人だとなった暁には、テキメン、かなわんわ」
アールグレイを飲みながら、今度は娘婿が当時の山上保母を回想していく。
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