老保母の生甲斐・新たな「仕事」
与方藤士朗
第1話 デパートの食料品売場から
時は、1986(昭和61)年7月初旬の土曜日の昼過ぎ。
夏もいよいよたけなわへと向かう、そんな時期。
梅雨明けはまだ少し先だが、蒸し暑い日々。
ここは、岡山資本のテンヤマデパート本店。
その地下は、今日も多くの客でにぎわっている。
大宮哲郎氏は、進物用の酒を買って、ついでに食料品売場に立寄った。
特に何かを探していたわけでも、ない。
別に食料品を買う予定はなかったのだが、久々に来たので、ちょっと寄ってみようと思ったところ。
大阪の梅田あたりのデパートほどではないが、こじんまりとした中にも活気が感じられる。どちらかというと、他のスーパーマーケットよりも客層が、いい。
そんな食料品売場の客の中でも、いささか人目を引く高齢の女性が、子世代の男女とともに買物をしている。今日は、家族で何やら食事会でもするのだろうか。
大宮氏は、彼女の後姿を見て、ひょっとこの人は知った人ではないかと感じた。
その予感は、当たっていた。
品のよさそうな洋服を着た女性が、彼の姿を見つけたその矢先、彼に声をかけてきた。
「大宮哲郎さんですね?」
「あ、山上先生じゃないですか。お久しぶりです」
やはり、そうだった。
彼女に同行している男女は、娘夫婦であるという。聞けば、今日は娘夫婦が実家に戻ってきていて、夕方には食事会をするとのこと。
「もしお時間ありましたら、階上の喫茶店で少しお話できませんか?」
この話を切り出したのは、山上女史のほうだった。
何か話したいことがあるような、そんな雰囲気を大宮氏は感じ取った。
「いいですよ。私は今日と明日は特に予定ありませんし、岡山におりますから」
大宮氏と山上女史、そして彼女の娘夫婦は、階上の喫茶店へと向った。
館内は冷房が行き届き、涼しくさわやかな風が流れている。
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