【完結】犯人にされた落ちこぼれ令嬢ですが、イケメン騎士団長に四六時中監視(プロポーズ)されてます•••!!!

来海ありさ

第1話 犯人にされました

華奢な肢体は、鎧を着込んだ何人もの屈強な兵士たちに取り押さえられ、腰まで伸びた美しいライラック色の髪が地面に垂れる。煌びやかなドレスがヨレて皺くちゃになる中、女の栗色の瞳だけは真っ直ぐと前を見据えていた。



王子シャーロウは、侮蔑に染めた緑色の瞳で女を睨む。そしてウェーブがかった金髪を左右に揺らし、まるで周囲に群がる野次馬貴族たちに言い聞かせるかのように、目の前の女に宣言した。

「アネラ・バイオレット・サン、お前には、もう1人のわが妃候補を殺した容疑がかかっている。よって、お前との婚約は、今この場で解消とし、代わりにお前の妹、ジェラリアを俺の唯一の婚約者とする。」


王子は、右手に持つ、この国の王位継承者の証である銀の紋章が刻印された剣を、目の前で、無様に兵に取り押さえられているアネラの鼻先に無遠慮に向けた。そして先ほどからずっと、グラマーな胸を王子の左腕に押しつけるようにして、傍らに佇んでいたアネラの義妹、ジェラリアに顔を向け、愛おしそうに目を細める。


ジェラリアは、シナをつくるように毛先がカールした豊かなブラウンの髪を王子の方へ傾け、「シャーロウ殿下、私、姉様がこんなことするなんて恐ろしくて•••」と、青い目を潤ませた。


「大丈夫だ、ジェラリア、犯人は捕まえた。」と、王子は左腕をジェラリアの肩に伸ばし、ギュッと抱きしめ慰める。そして、こちらに顔を向けたかと思うと、フンッと鼻を鳴らす。

「おい、アネラ、かつてはお前も、俺の妃候補だったし、バイオレット家のこれまでの功績に免じて、軟禁扱いにしてやる。牢屋にぶち込まないだけありがたいと思え•••! そもそも、お前みたいな万年最下位の奴が俺の妃候補だったなんて、何かの間違いだと思ってたんだ。少しくらい容姿が良いからと言って、調子に乗った罰だ。何か、申し開きはあるか?最後くらい聞いてやろう。」


王子は、口の片端を上げ、得意げに語る。よほど腹に据えかねていたことがあったのだろうか? 私が泣いて許しを乞うのを期待しているようだ。



(そもそも私は妃になんてなりたくなかったのを、女好きのあなたが無理やり妃候補にねじ込んだのでしょうに•••。そして、私の実家の後ろ盾が欲しいから、牢屋にまで入れることができないだけでしょう? )


ため息が思わず出そうになるのを、寸前で堪える。言いたいことは山ほどあるが、まずは、、、スゥッと息を吸い、途中で遮られないうちに一気に述べる。

「シャーロウ殿下、最後も何も、私は殺人などやっておりません。やっていないことに関して、申し開きもできません。私の髪飾りが犯行現場に落ちていただけで、私が犯人とは、いささか短絡すぎではないでしょうか? ただ、婚約者候補でなくなったことは素直に嬉しいので、これについては感謝しますわ。」


最後にニッコリと笑って、王子を見返すと、王子は眉を吊り上げ顔を真っ赤にして、「なっ•••、お前みたいな落ちこぼれが、生意気なッ!おい、お前たち、こいつを早く連れて行け。」と怒鳴り散らした。


ーーーーー落ちこぼれ、落ちこぼれって、うるさいわね!!! 確かに私の魔力はどんなに努力してもほとんど増えず、この国では最低レベルの魔力量かもしれないけれど、、、、無限大の伸び代があると言って欲しいわ!可能性の塊なんだからっ•••!!


周りを取り囲んでいた兵たちが、私を立たせようと腕を掴むが、余計な気遣いは不要よ。

「私、自分で立てるわ。」

好奇の目が不躾に私を凝視するが、それがどうしたって言うの? 見たいなら見ればいい。でも、どうせ見るなら、今だけでなく、私が真犯人を捕まえるところまで見届けて欲しいわっ!




自分の足でスクッと立ち上がった女性は、髪型もドレスも兵たちに崩されてしまったが、姿勢を正し、優雅に歩く。その姿は、妃教育の賜物か、見る者を惹きつけ、また、愛らしい顔立ちは、すぐ周りを兵たちが取り囲んでいなければ、どこかのお茶会にでも行くような微笑みさえ浮かべていた。


◇◇◇


連れてこられたのは、城内の外れにある物置に使用されていた小屋であった。壁は隙間風が入るほど崩れかけ、屋根も見るからに見窄らしく雨が降ればすぐに雨漏りしそうだ。小屋の周りには雑草が生い茂っていた。


「まあっ、ここ?」

確かに、ボロボロの建物かもしれないけど、、これまで王妃教育で朝から晩まで予定が詰められて、部屋の中に籠るばかりだった。ここは、こんなに自然が身近で、まるで子どもの頃に戻ったような自由を感じられる!!

何て素敵なんでしょう!



「ホウッ」と、ガタゴト鳴る椅子に座り、窓の外を眺めていたら

「アネラ様ッ!ご無事でしたかっ•••!」と、心配するような声とともに、侍女のクレールが1人息を切らしながらドアを開けて中へ駆け込んできた。


「クレール!あなた、どうしてここに•••?」

クレール含め、城で仕えてくれていた侍女たちは、全て一度父上のところに戻されたはず•••?



「旦那様が特別に殿下にお願いして、寄越してくれたのです!旦那様も真犯人が捕まっていない以上、表立って動くことは出来ませんが、アネラ様が早くここから解放されるよう手を尽くしておいでです。」


余程急いで来てくれたのだろう。クレールの髪は乱れ、ゼェゼェと今も肩を上下に揺らしている。


「父上が•••? 」


王子の婚約者から解放されたのは嬉しいけど、私がこういう立場になることで、父上にも迷惑がかかってしまう•••。このまま犯人にされてしまうのだけは、何としても避けなければ•••。


クレールは私の姿を見て、目に涙を浮かべた。

「おいたわしいッ。こんなみすぼらしい小屋にアネラ様を押し込めるなんて、シャーロウ殿下は人の情けもない方ですッ! ジェラリア、あの女が仕組んだに決まってます! 本当にどこまでも欲深いんですからっ•••。」話してるうちに興奮してきたのか、怒りに声を震わせる。


「クレール、私のために怒ってくれるのはありがたいけど、滅多なことはいうものじゃないわ。まあ確かに以前の場所に比べると、笑っちゃうくらいのボロボロの屋敷だけれど、牢屋に比べたら天国みたいでしょ? 私はこうなってむしろ良かったと思ってるのよ!だって、あの女好きの殿下の妃候補から外れることができたし、あとは真犯人さえ捕まれば万々歳じゃないかしら•••?」

笑みを浮かべて、クレールの顔を見るが、あまり納得していないのか顔を振り、まだうっすらと目に涙を溜めていた。

「アネラ様•••。アネラ様があの2人を許しても私は決して許しません!! •••っ••そう言えば、、、こちらに来る前に、ジェラリア様より荷物を預かって来たのです。『姉様に贈り物』と図々しくおっしゃってましたが、つい先ほど中身を確認しましたら、こんなものが••••。」


クレールが、小包の中から何着ものワンピースを取り出して広げる。グレーや茶色の地味な色の、庶民が着るような服ばかりだ。


「本当にアネラ様を何と思っているのか?今あの女があんな豪華なドレスを着ることができるのも、旦那様のおかげなのに•••! 旦那様もお人好しだから、あんな女を養子にしてまで、人助けなんてする必要はなかったんですよっ!! 人を見下すにもほどがありますッ!! •••!?•••••???•••アネラ•••様???」

父上がジェラリアを養子にして、私と同じ実の娘のように育ててきたのは、父上の政敵であったルーセント伯夫妻が亡くなり、身寄りの無くなったジェラリアを不憫に思ってのことだ。「子どもに罪はない。」と言う父上に私も賛成だ。ただ、彼女が養子となったのが15歳と言う、「子ども」で一括りにするにはいささか無理がある年齢だったというだけだ。家に来てわずか一年しか経っていないのに、度重なる浪費、同年代の令嬢たちとのさまざまな確執、使用人たちへの無礼な振る舞いなど、父上がいくら口を酸っぱく諭しても聞き入れなかった。


そんな彼女の贈り物••••私は、一着一着手に取り、眺める。だんだんと自分でも、目が輝いてくるのが分かる!! 嬉しさについ頬が緩んだ!!!

「すごいわっ、クレール!! 私って何て運が良いのかしら!! フフッ•••私、ちょうど変装するための服が欲しいと思っていたところなのよ!本当になんて良いタイミングっ!!! 見張りは屋敷の門の外に1人いるだけだし、、、私、自分で犯人を探すわ!」


(本当に最高の贈り物だわ!! 私にはまだ出来ることがある!! 泣いてる暇なんかないのだから•••!!!)




クレールが目を丸くし慌てて私の手を握り、

「ダメですッ!!! お願いですから、危険なことだけはやめて下さい!」と、すでに涙が滲み赤くなった目で、心配そうに私を見る。


クレールの心配は分かるけれど、、

「大丈夫よ。王子の指揮下の兵たちが真面目に犯人を探すとは思えないし、父上たちは父上たちで出来ることをやってくれてるだろうし、私もジッとしてはいられない!!」

このままここにいるだけで、誰かが真犯人を都合よく見つけてくれるのを待つだけなんて•••。


「アネラ様••••。」


私は、私の手を握ってくれているクレールの手に、さらにもう片方の手を重ねる。

「お願い、クレール!クレールはここで誰かが来たらその人の相手をして欲しいの。私のことは、気分が悪くて寝てるとでも言ってくれたらいいわ。十分に注意すると約束するからっ!! 」思わずギュッと肩と手に力が入る。


クレールはしばらく私の目を見つめていたが、フゥーとため息をつくと、「アネラ様は言い出したことは、必ずやり遂げる方。分かりました•••。ただし、、、アネラ様に何かあれば、私の命もないと思ってくださいっ!本当に何かあればすぐに逃げて来てくださいね。」と、手を握り返してくれた。


「ありがとう。クレール、大好きよ!」

私は立ち上がり、クレールを両手で抱きしめる。侍女とは言え、ずっと、幼馴染のように一緒に育って来た。



その後、クレールに手伝ってもらい、ジェラリアが贈ってくれたワンピースに着替える。髪は動きやすいように、クレールが、高い位置で一つに結んでくれた。私は、窓から抜け出し、ある場所へと向かった。


◇◇◇


城内のことなら大体分かる。真犯人を探すとは言っても、どこからどうすれば良いのか分からないけれど、取り敢えず現場に行ってみましょう。もう1人の妃候補だったミシェル様に充てがわれていた部屋は二階だ。部屋の中で、ナイフのような鋭利な刃物で刺されていたと聞いたわ。ミシェル様の部屋の外には今回の事件を受け、衛兵がいるかもしれない、、、。


(でも、その部屋の真上のサロンからなら、窓から侵入できそう•••。)





実際、サロンは解放されていて、簡単に扉は開いた。真夜中を過ぎ、この時間は流石に誰もいないわね。窓を開けるとバルコニーには気持ちの良い風が吹いている。月明かりだけしかないが、満月が煌々と輝き、外の方がむしろ明るい。身体を乗り出すと、下の部屋のバルコニーを見ることはできた。


(どうやって移動しようかしら? 端切れ布やロープを使えば簡単かもしれないけど、誰かに見つかる可能性も高くなるし、そんな時間はないわよね。仕方ないっ•••!)



私は、バルコニーに手をかけ、手すりの外側に立つと、慎重に手を引っ掛け、ぶら下がる。足を少しずつ揺らし反動をつけ、エイヤッと下のバルコニーの内側に飛び降りたっ!!



ーーーーーーこ、これはっ、、、ワンピースの裾がもたついて落ちそうになり、ヒヤリッとしたっ!! 高所恐怖症ではないけれど、少し心臓に悪い•••。ドレスより大分マシとはいえ、ワンピース姿も動きにくいっ•••!



中の様子を伺う。人の気配はない。窓をガタガタッと動かしてみると、、、!!! 開いているっ!! なぜ•••??? 確か、この部屋で死体が見つかった時、ドアも窓も鍵がかかっていて、密室状態だったと聞いた。中には誰もいないようだけど、、


気配を窺いながら、そっと足音を忍ばせて中へ入••••!?






大きな影にいきなり後ろから襲いかかられ、ドガンッと足で踏みつけられ、床にうつ伏せに倒される!! 顔のすぐ横に、鋭い刃が床に突き立てられた•••。もの凄い衝撃に身体が痺れる。先ほどまで気配は全くなかったはずなのにっ!!! 本能的に恐ろしい!と思ってしまった。姿は見えないけれど、全身の皮膚にビリビリッとした殺気が飛んでくる今にも全身の皮膚をナイフで引き裂かれそうだ!!


「お前、何者だ。」



深い夜の響きのような声がした!! 頭を上げたくても背中を踏みつけられてるせいで、身動きが取れない。背中を踏みつけられているせいで息が苦しい•••。何とか横を向き、目だけでその人物の姿を下から捉える。



!?



(この国の騎士の服装???)


顔は、、、現実とは思えないほど美しい。長い睫毛に縁取られた瑠璃色の瞳がこちらを見下ろしている。耳元まで伸びた漆黒の艶のある黒髪の隙間から、精巧に刻印された金の細工が両耳を飾っている。この細工は、騎士の中でも序列がかなり高位を示す印•••




(この人は、誰???

そしてなぜここにいるの???)

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