第3話




 のんびりした毎日を繰り返し、三ヶ月が経った頃。



「瑞樹ちゃん、そろそろ自宅の改装が終わるの、来月からは手芸教室も自宅で再開できそうだわ」



 手芸教室終わりの、悦子さんとのおしゃべりタイムでそう言われた。以前から聞いていたが、これまでも自宅で手芸教室を行っていたが、手狭になってしまい、一部リフォームしていたらしい。リフォームの間は、この市民センターの一室を借りていたが、リフォームが終われば、また自宅での手芸教室を再開するということだ。



「瑞樹ちゃん、よかったらぜひ来てほしいわ」



 悦子さんの提案に頷くも、顔を曇らせてしまったせいで、悦子さんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。



「何か心配事?もちろん無理しなくて大丈夫なの、気が向いたときだけでも…」



 悦子さんのしょんぼりした表情を見て、慌てて訂正する。




「違うんです!手芸教室は楽しいです!手芸は難しいけど、集中しているとスッキリするし、悦子さんや他の生徒さんとお話しするのが好きなんです」



「よかった、そしたらどうして…」




 うぅ…私は恥を忍んで話すことにした。


 運転免許も車も持っているが、職場と家との往復だけにしか使っておらず、遊びにも行かない12年だったので、車の運転にはかなり苦手意識がある。買い物はあの野菜直売所に歩いていくし、それ以外の買い物はネットショッピングに頼りきりだ。この市民センターに来るようになって、ようやく行動範囲が広がったくらいだ。


 以前改装の話があった時、悦子さんの自宅の場所は聞いていたから、ネットで行き方の確認をしたのだ。悦子さんの自宅は山の方にあり、明らかに私の運転テクニックでは難しい、幅の狭い道を通らねばならず、どうしても「行きます!」と言えなかったのだ。




「確かに、家までの道は運転が得意じゃないと難しいわよね。私も、免許返納するまでは嫌だったわ~雅也が免許取ってからはすごく嬉しかったのよ。代わりに買い物行ってもらえる~ってね」


 悦子さんは悪戯っ子のように明るく笑った。


「だけど、手芸教室には通いたいんです。だから、少しずつ運転の練習をしていて」


 そう、最近は市民センターの先のショッピングセンターまで行けるようになったのだ!駐車場が狭い、小規模のお店にはまだ入れないけど、駐車場が大きい施設はチャレンジできるようになった。



「すぐには無理そうなんですけど、運転に自信がついてから、必ず行きますのでお願いします!」



 悦子さんも頷きながら聞いてくれていたが、そこで、片付け作業をしていた雅也さんがいつも以上に眉間に皺を寄せて、顔を強ばらせて近づいてきた。今にも怒りだしそうで、頭から湯気が見えそうだ。今の時間は、本当なら片付ける時間なのだが、ついついおしゃべりメインで楽しんでしまった。まずい。





「ま、雅也さん…ごごごめんなさい。いつも、おしゃべりばっかりしちゃって。すぐ!片付け…」







「迎えに行く」





「……へ?」





 雅也さんが何を言っているか全く理解できず、ぽかんとアホ面になってしまった私と、変わらず激怒の表情の雅也さんを、悦子さんがニンマリと笑って見ていた。

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