第10話 料理
『ピンポーン』
いつもより早くそのインターホンは鳴った。
顔を洗っていた俺は鼻に泡洗顔料が入り、目が潤んだ。
だが、桜を待たせるわけにもいかず急いでドアを開けた
「おはよう、桜、今日は早いな、なんかあったか?」
鼻が痛みを我慢して挨拶をする
「いや、何もないよ、、ただ、ちょっと早く来てみただけ。」
桜の顔は薄い赤色になっていた、
前に一度『俺の勘違いじゃない』と結論づけたが、自分の感情がはっきりした今、逆に深く考えて慎重になってしまって、また思考がスタートに戻ったところだ
「俺、準備にもう少し時間かかりそうだけどどうする?上がって待っとくか?」
とりあえず外で待たすわけにもいかず、部屋に入ってもらう
「フミくん、今日弁当は?」
「あー、陽菜が作ってくれるって言ってたから、頼むことにした。なんか料理の練習がしたいんだとよ」
「ふーん」
桜は少し悔しそうな表情になっていた。
==========
陽菜ちゃんに出し抜かれてしまいました。
私はできるだけフミくんと一緒にいる時間を増やそうといつもより早めに来たのですが、陽菜ちゃんも何かアクションを起こしていました。
しかも攻撃力高めのものを、、
私は何とかしてみようと
「そういえば今日は火曜日だよね、久々に私が作るよ」
火曜日と木曜日は夕食を一緒に食べる約束をしていたのを思い出し、フミくんに言ってみました。
最近は私が作るつもりでフミくんの家に行ってもフミくんがすでに料理しているのです。
まぁ、フミくんの料理はおいしいので文句はありませんが、できれば陽菜ちゃんのお弁当を上書きしたいのです。
「いいのか?じゃあお願いするけど」
フミくんはあまり表情には出しませんでしたが、声から喜んでくれた様子が分かりました。
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今日俺死ぬのかな?
一日の間に美少女二人からご飯を作ってもらえるってことはなかなかにない。
逆にこの反動的なもので、何か良くないイベントが起こるのがラブコメあるあるだし、何か起こるのではないかと心配になった。
今日一日は少し警戒しておこう。
『別にフラグじゃないからな!』と自分に言い聞かせたが嫌な予感がした。
――――――――
「フミ~、昼ごはん食べよ~」
「おう、桜も来るか?」
俺は桜に問いかけたのだが
「私は美郷さんたちと食べるから気にしないでいいよ」
「了解」
そう言って俺と陽菜で前と同じベンチに行った。
「これがフミの分だね」
「ありがとう」
そこには可愛いウサギの風呂敷に包まれた弁当があった。
「「いただきます」」
二人で声をそろえて言うと俺はメインであろうから揚げを口に運ぶ
「うまっ」
「よかった~」
そういった陽菜の目の下にはクマができていた、料理の練習と言っていたが、多分そうではなく、俺のために作ってきてくれたのだろう。
そう思うと俺はから揚げがもっとおいしく感じた。
俺は食いながら陽菜は俺のことが好きなのではないかと思った。
確証は得られないが彼女の行動がそうとしか思えないのだ。
一度フラれていることを加味しなければ、俺は確信を持っていただろう。
そんなことを考えていたら、自分の分の弁当は空になっていた。
陽菜の弁当はおいしかったが、本音を言うと少し足りなかった。
陽菜はそれに気付いたのか
「ほら、フミ口あけて」
そう言って陽菜は俺のほうに前日と同じく『あーん』するような感じになっていた、ただ、頬は前日より赤くなっていた
「いや、別にいいよ」
俺は拒否の意を伝えたのだが
「食べなよ、もしや、、私の料理おいしくなかった?」
彼女は少し落ち込んだ様子で俺に言ってきた。こんなこと言われたら俺は拒否できるわけなく、
また彼女の箸で挟んだから揚げを口に運んだ。
俺と陽菜の顔は茹で上がったように赤くなっていた。
俺はここで『陽菜は俺に好意を寄せている』と確信した。
――――――――
結局あのあと、何も問題など起きず家に帰ってきたわけだが、、次は桜がキッチンにいる、
桜に何を作るのか聞いたのだが
「まだ内緒」
そう言われた俺はそれ以上聞けずにただテレビを見ていた
そのニュースでは
『高校で一クラスの生徒全員が行方不明』と今までに見たことないニュースが流れていた、これに『異世界召喚かよ』と心の中にツッコんだ。
このツッコみはあながち間違っていないのだが、、、まぁ、秀文はそれに気付くことはないだろう
そんなことをしている間に桜の料理ができたようで、俺も食べるための用意を始める。
今日の料理は肉じゃがだった。
「桜、ありがとう」
「どういたしまして、じゃあ」
「「いただきます」」
肉じゃがに箸をつける
「どう?」
まだ箸すら持たず俺のほうをじっと見ていた桜が聞いてきた
「うん、おいしいよ」
俺はお世辞なしで答える
その瞬間、桜の表情が明るくなった。
「フミくんの好きな料理だもんね」
「あぁ、そうだな、、、え?なんで俺の好きな料理知ってんの?」
俺は今まで一回も桜の前で好きな料理を言ってないし、肉じゃがも桜の前では食べたことがない。
だが桜は知っていた。
「えっと、、ユウさんに聞いたの」
彼女は少し恥ずかしそうに言った。
「そういう事か、俺のためにありがとうな、桜」
俺は改めて感謝を伝えたのだが、なんかこそばゆい気持ちになった
一方感謝を伝えられた桜のほうも、顔を赤くしてさっきより恥ずかしそうにしていた、
だがその恥じらいよりもはっきりと分かるぐらい喜んでいた。
―――――――
「じゃ、今日はありがとな」
「うん。おやすみ、フミくん」
「おやすみ」
そう言って桜は部屋を後にした、部屋には俺と寂しさが残っていた。
俺は今日一日と自分の気持ちについて整理することにした、
俺は桜のことが好きだ、これは間違いないだろう。
陽菜のことはどうだ、俺は陽菜と居る時間が長くなれば長くなるほど陽菜への感情の戻りを感じるようになった。
正直、俺は陽菜に対しても恋心を持っているかもしれない。ただ、桜に対するものよりも弱いだけ。ここから強くなるかもしれない。
もしそうだったとき、俺はしっかりと自分の感情に向き合えるのだろうか、俺は逃げてしまわないだろうか。
そう考えてるうちに時針の
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