第63話

 久しぶりに見るダリミルは、記憶の中の彼よりも大人びて見えた。背丈や顔立ちは変わらないはずなのに、纏う空気が学生のときとは違っていた。

 もしかしたら、彼が着ている仕立ての良いスーツのせいかもしれない。ややゆったりとした王立学校の制服とは違い、彼の体形に合わせたそれはかなりタイトに作られていた。しっかりとついた胸筋と広い肩幅を強調し、腰にかけてキュっと絞られていた。


「シャルロッテ様、お久しぶりです」


 差し出された手を握り、軽く握手を交わす。

 思えば王立学校にいるとき、何度も彼と二人きりになったことがあるが、こうして触れ合ったことはなかった。

 シャルロッテよりも大きな手はやや熱く、優しく包み込むように握られると離された。


「お久しぶりです。ダリミルさんの卒業式以来ですよね。またこうしてお会いできて嬉しいです」

「そう言っていただけて光栄です。ところで……」


 ダリミルはそこで言葉を切ると、はっとしたような顔で口を閉じた。夜色の瞳が足元に落ち、照れたように細められる。


「……ダメですね、シャルロッテ様のお顔を見ると、つい会長……ブリュンヒルデ様のことを尋ねそうになります」

「奇遇ですね。私も、ヒルデちゃんのことを探そうとしてしまいます」


 二人でクスクスと笑っていると、ダリミルの背後からシエラが顔を出した。


「そう言えば、ブリュンヒルデ様はシャルロッテ様のお兄様と結婚されたんですよね? 確か……リーンハルト様、ですよね?」


 それまで無言で成り行きを見守っていた彼女が、自信なさげに語尾を濁しながら首を傾げる。シエラの中では、双子の見分けがついていないようだった。

 肯定の意を込めて頷けば、シエラがほっと安堵したように微笑んだ。


「シエラ嬢、ちょっとこちらに来ていただいても?」


 無事にメイドを呼び終わったらしいパーシヴァルが、扉の向こうから声をかける。シエラは弾かれたように顔を上げると、軽やかな足取りで彼のもとへと走って行った。


「実はお聞きしたいことがありまして……」


 パーシヴァルがそんなことを言いながら、こちらに目配せをする。パチリと投げられたウインクに、二人きりにしてあげるので上手くやってくださいねと言う意味を感じ取り、シャルロッテは眉間にしわを寄せた。

 上手くも何も、ダリミルと何を話したら良いのか分からないのだ。彼と話す時の話題はいつも、ブリュンヒルデのことだったのだから。


「それにしても……シャルロッテ様、とてもお美しくなられましたね。……いえ、元々お美しかったのですが、何と言うか……大人になられたと言うか……」

「おそらくですが、ドレスのせいかと」


 シャルロッテはそう言うと、ドレスの裾をつまんで見せた。

 王立学校の制服は体形を隠すような大き目のつくりをしており、凹凸のない体つきはどこか子供っぽく映っていた。その点、今着ているドレスは胸元を強調し、腰の細さを際立たせるような形をしているため、体の曲線が如実に出ていた。


「あぁ、確かに……」


 ダリミルが感心したようにシャルロッテのドレスを眺め、すぐに不躾な視線を向けていたことに気づくと顔をそむけた。眼鏡のフレームが邪魔をしてその瞳の色までは見えないが、赤く染まった耳が彼の心境を雄弁に語っていた。

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