第18話 対決、蜘蛛怪人!
立身出世を夢見て田舎町から旅立った冒険者3人組。
剣士のクレイ、魔法使いのエイス、世界樹の祈り手であるリジアは、王都に到着した初日にさっそくひとつの依頼を達成した。
と言っても依頼料はたったの銅貨7枚。蓋を開けてみれば、救出対象のロッキーは幼女がかわいがっていた野良犬であったし、見つけたときにはゴブリンに噛みついて反撃していたので、放っておけば勝手に帰っていたのではないかという微妙なものだったが。
幼女の村はそこそこ遠く、王都に戻ってきたときにはすでにとっぷりと日が暮れていた。だが、クレイたちが生まれ育った田舎とは異なり、王都の夜は明るい。そこかしこで飲み屋や屋台が営業しており、そこから漏れる灯りによって照らされているのだ。魚油が燃える生臭い臭いと引き換えではあるのだが。
「はあ、宿も取らずに出かけちゃいましたから。まずは寝床を探さないといけませんね」
「どっかの熱血バカが後先考えずに暴走するからねー」
「まあまあ、王都に来てさっそく人助けができたんだからいいじゃねえかよ」
「自分で言うなっ!」「それは自分で言うことでは……」
クレイの弁解に、エイスとリジアが声を揃えてツッコミを入れる。
ともあれ、宿賃の蓄えもろくにない。屋台で腹ごしらえをして、どこかの馬小屋で屋根を借りよう……と相談しながら歩いているときだった。
「きゃー! 誰かー! 助けてー!」
「あー! 家宝の聖印がジャークダーに奪われてしまいましたー!」
どこか平坦な悲鳴が夜の街に響き渡った。
「エイス、リジア、行くぞっ!」
「言われなくても!」「もちろんです!」
クレイたちは一斉に駆け出す。
行く先はもちろん悲鳴の源だ。ついさきほどひどい目に遭ったにも関わらず、人助けに懲りるということはないようだった。
大通りを駆け、道を曲がって路地に入ると、まるで貴族のように上等な服に身を包んだ少女と、その付き人らしいメイドが石畳に膝をついていた。
そして、少女とメイドの前にいたのは――
「クーモクモクモクモクモ! 我が名は悪の秘密結社ジャークダーの怪人がひとり、蜘蛛怪人スパイディ・ダーマだクモ!」
『イーッッッ!!』
全身を赤黒のタイツで身を包み背中から4本の副腕を生やした一体の異形と、全身黒タイツの男たちが10人ほどという謎の集団だった。異形のタイツには、蜘蛛の巣を思わせる放射状の意匠が施されている。
「あんたたち、大丈夫か!?」
「後ろに下がってて!」
「なんですか、この怪しい連中は!?」
クレイが先頭に立って謎の集団に対峙し、剣を構える。
その後ろをエイスとリジアが固め、少女たちをかばう陣形を取った。
「クーモクモクモクモクモ! 今をときめく悪の秘密結社ジャークダーを知らないとは、よほどの田舎者クモね!」
「ぐっ、たしかに俺たちは田舎もんだけど、秘密結社っていうんなら知らなくったってしょうがないじゃないか!」
「……あっ」
殺伐とした空間に、一瞬気まずい空気が流れた。
「ジャ、ジャークダーは長年王都に根を張り、最近になって表に姿を表した悪の秘密結社ですの! それまでは何十年もずっと地下に潜んでいたのだから十分に秘密結社なのですわ! そんなことより、当家の家宝である聖印が奪われてしまいましたの! 当家の守り神のことは秘密だったのに、そんなことまで調べ上げていただなんてジャークダーはなんて恐ろしいのかしら! どこかに聖印を取り返してくださる
貴族風の少女が、ものすごい早口で気まずい空気を押し流した。
「そ、そうだクモ! 何十年も秘密にできてたんだからすごい秘密結社なんだクモ! そ、そんなことより聖印はいただいたクモ! ヴラドクロウの守り神の力が失われれば、もはやこの王都はジャークダーが手に入れたと言っても過言ではないクモよ!」
「なっ、ヴラドクロウだって!?」
ヴラドクロウ家と言えば、平民だろうが田舎者だろうが知らぬものはいない大貴族である。クレイたちは、目の前の事件が予想以上に重大であることに気が付き、こめかみから冷や汗が垂れるのを感じていた。
「クーモクモクモクモクモ、この聖印を秘密基地に持ち帰り、儀式を行えばもはや取り返しはつかないクモよ!」
「そんなことはさせるかっ!」
蜘蛛怪人がこれみよがしに
しかし、蜘蛛怪人はそれを理外の動きであっさりと躱す。
計8本の手足を使い、まるで地面を走るかのごとく壁を這ったのだ!
「なっ、どんな動きだ!?」
「クレイ、危ないっ! 《
蜘蛛怪人の動きに気を取られたクレイに、戦闘員たちが飛びかかろうとしていた。しかしそれは、瞬時にして現れた光り輝く蔦の壁によって遮られる。
世界樹の祈り手たるリジアが奇跡を顕現させ、クレイを守ったのだ。
「クレイのバカっ! ぼやっとしてる場合じゃないでしょ! 《
続いてエイスが
天然には存在しない重い水を創り出し、凄まじい圧力で発射する魔法だ。それがうねり、鞭のように敵を打ち据えるのである。低位の魔物であれば、5~6体は一度になぎ倒せる威力がある。しかし、黒タイツの男たちはバク転や側転、飛び込み前転などの軽やかな動作でそれをかわしきった。
「嘘でしょっ!? あんなナリなのに雑魚じゃないっていうの!?」
「戦闘員だからといって侮ってはいけません! 彼らも立派なスーツアクターなのです! 日々の鍛錬で基礎体力をつけるのはもちろん、主役であるヒーローたちの魅力を最大限に引き出すための
貴族風の少女が、ものすごい早口で黒タイツたちの強さを力説した。
言っている意味はよくわからなかったが、とにかく一筋縄ではいかないことだけは理解できた。
「クーモクモクモクモクモ! 戦闘員にも歯が立たないとは、このスパイディ・ダーマの相手ではないクモよ!」
「ぐっ、がっ、ぐわっ!?」
蜘蛛怪人は、路地の壁を使って三次元的に動き回りながら攻撃を仕掛けてくる。その様子はまるで猫が昆虫をなぶるかのようだ。やろうと思えばいつでもトドメが刺せるのに、わざと時間をかけて楽しんでいるようにしか見えない。
そして、直接刃を交わしているクレイには理解できてしまった。
――自分の実力では、絶対にこの怪人たちには勝てない……と。
だからクレイは、叫んだ。
「エイス、リジア! ここは俺が食い止める! その隙にふたりを連れて逃げてくれ!」
「ばっ、何言ってんのよ!?」
「馬鹿なことは言わないでください!」
「馬鹿はお前たちだ! 俺はパーティの盾だぜ! 俺の背中にいるやつに、傷ひとつ負わせないのが俺の仕事だ!!」
クレイたち三人は、押し問答をはじめた。
気のせいか、その間は怪人も黒タイツたちも攻撃の手を休めている。
「あなたたちになら、これを託してもいいかもしれませんね……」
「お、お嬢様、それはー! いけませんー!」
「ええ、我が家の秘宝、《
侍女らしき少女は、貴族らしい少女が懐から取り出した
「さあ、心をひとつにして叫ぶのです! 『ジャスティス・チェンジ!』と!!」
全員が腕輪をつけたことを確認すると、貴族らしき少女は血走った目で叫んだ。
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