特オタ令嬢は異世界で悪の秘密結社を作ります!~婚約破棄?はいはい、どうでもいいんでとりま書面にまとめてもらっていいっすか?~
瘴気領域@漫画化してます
第一章 食い止めろ!内乱編
第1話 婚約破棄、そして前世の記憶復活
「イザベラ・ヴラドクロウ公爵令嬢、本日をもって婚約を白紙にさせてもらう!」
貴族学校で開かれた夜会で、唐突にそんなことを告げられた。
発言の主はイログールイ・ハレム殿下。このハレム王国の王位継承権第一位にして私の婚約者である少年だ。
その彼が、なぜ突然にこんな大胆なことを?
「イログールイ殿下、それはどういうことでございましょう? まず、この婚約は家同士の約束。いくら殿下でも一存で覆せるものではありませんわ。そして、何より婚約破棄の正当な理由がどう考えても見当たりません」
「ふん、この期に及んでしらを切るか。ネトリー、こちらにおいで。イザベラに何をされたのか、正直に話すんだ」
イログールイに呼ばれて前に出たのは桃色の髪をした少女だ。
歩くたびにその大きな胸が揺れ、会場の男たちの視線を集めているのがわかる。彼女は平民だが、教会学校での成績が抜群であり、また魔法の才能もあったために特例で貴族学校への入学が認められた珍しい存在だ。
正直、私にはそこまで才気走ったものは感じられなかったけれど……。
それよりも問題だったのは、平民ゆえに貴族の礼儀や作法を知らなかったことだ。すでに婚約者がいる男性にも誰彼かまわず遠慮なく近づき、気軽に声を交わしていたりする。そういった態度はトラブルのもとだ。慎むように注意したことが何度もあった。
「あ、あの、じつは……言いにくいんですけど、イザベラ様は私がお嫌いなのか、いつも睨んできたり、嫌味を言ってきたり……」
はあっ!? 私の注意は嫌味だと思われてたの!?
「あと、最近は持ち物がなくなってたり、汚されたりすることもあって……」
そんなん知らんわ。自分の不注意だろ。
「それで、それで、気のせいだと思いたかったんですけど、つい昨日、階段から突き落とされそうになって……」
「ああ、僕が居合わせて受け止めなければ大怪我をするところだった。そして、犯人がいたであろう階段の上に残されていたのがこの証拠品、イザベラのハンカチだ!」
イログールイは懐から1枚のハンカチを取り出して、夜会に集まった貴族子弟たちに見せびらかすように振った。それはいつだったか、私が使用人のひとりに下げ渡したものだ。その後は捨てようが売り払おうが知ったことではない。
「さあ、動かぬ証拠もある! 言い逃れはできないぞ! いくらネトリーが平民だと言っても、それを階段から突き落とそうなんて真似は――」
イログールイが続けて何かを言っているが、ダメだ。頭に入らない。話している言葉自体はもちろんわかるが、内容がめちゃくちゃすぎる。なぜそれが動かぬ証拠になるんだ? それは私が手放した品物だし、ネトリーを突き落としたという犯人が落としたものだとも限らないじゃないか。
いや、そもそもネトリーは本当に突き落とされたのか?
イログールイの気を引くための狂言だったのでは?
ついでに婚約者である私に濡れ衣をかぶせようとして――
ここまで思考が至ったところで、ネトリーの顔を見た。
そこには、
思わずギリッと奥歯を噛む。
目の奥が沸騰しているような感覚だ。
怒り。
呆れ。
羞恥。
悔しさ。
さまざまな感情がないまぜになって、腹の下からせり上がり、濁流と化して頭の中に押し寄せてくる。馬鹿馬鹿しすぎて、何から口にすればいいのかわからない。視界まで霞んでくる。歪んだ景色の中で、イログールイがまだ何かを言い立てているが、同じ人間の言葉とは思えない。理解できない。気が遠くなる。比喩じゃない。この世から重力が失われたかのように、地面がふわふわと頼りないものになっていく。
――そのときだった。
頭の中に、見たこともない――いや、しかしよく見知っている記憶が蘇ったのは。
そこは令和の日本。窓から見えるビル群、机の上にはスマートフォンとさんざん苦労して自作したデスクトップパソコン、それを取り囲むフィギュアの群れ。あっ、これは正義戦隊ジャスティスイレブンだな。
それと対峙しているのが斬殺怪人キルレイン様。ジャスティスイレブンの宿敵、悪の秘密結社ジャークダーの女幹部だ。鎧武者を連想させるが、それでいて女性的な曲線を持つ造形のバランスが実に美しい。
それにあっちの棚にあるのは格闘戦隊バキレンジャーと忍者戦隊シノブンジャーの怪人たちなどなど。そして「
「あれ? ここ、乙女ゲームの世界?」
思わず、そんな言葉が口から洩れていた。
「なんだ、何か申し開きがあるのか! それなら言ってみろ!」
「あー、ないっすないっす。婚約破棄? オーケーオーケー。それじゃ私……じゃなかった、わたくし、急用を思い出しましたので失礼しますね」
「なっ!? なんだその態度は!? ネトリーに対する謝罪はないのか!」
「ちょっと何言ってるかわかんなかったんで、あとで書面とかにまとめてもらえると助かるっす……ですわ。ですの?」
「おい! ま、待て! 本当に何も言うことはないのか!?」
私はイログールイに背を向けて、さっさと夜会の会場をあとにした。
会場のあちこちからクスクスと忍び笑いが聞こえた気がするが、いまの私にはどうでもいいことだった。
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