後輩ちゃんと入学前の楽しみ
妹と妹の友達侍らせてるやべーやつ?
「ひまりちゃん。先輩ったらほんと女の子の扱いなれてないよね!」
「先輩って、お兄ちゃんのこと?それは分かる!」
「だよね!私なんか、なにか食べにいこうってなった時真っ先に焼肉なんて言われたんだよ!?」
「うわー、ないわー。我が兄ながら、ないわー!」
「それに、ついたらついたでどんどん頼むんです!私女の子!そんなに食べれませんよ!食べざかりだから食べるだろ?じゃないんです!」
「でも全部食べたじゃないか」
何故か責められているので、思わず反論してしまう。焼肉に連れていき、最初こそ不満そうな顔をしていた咲ちゃんは肉を焼いている匂いに食欲を刺激されたのか、「食べられない!」と言っていた量を簡単に完食し、何ならもっと注文しまくって、俺より食べていた。
「それとこれとは話が別ですよ!もっと先輩は私を女の子扱いしてください!」
「私もだぞ!」
妹と後輩は俺の前に仁王立ちする。二人共俺より背がかなり低いので、全く威圧感がない。咲ちゃんはかろうじてむっとした表情を作れているが、ひまりは崩れてる。もう笑ってるじゃん。
はあ、とひと息ついて、ココアを入れ、テーブルに置く。
「二人共、こっち来な。何をすればいいの?」
諦めてそう言えば、二人して子供のように目をキラキラさせてテーブルに座った。
「よしきた!私達がやってほしいのは……」
●●●
そんな話をした一時間後、俺は寒い中駅前のベンチに座り、二人が現れるのを待っていた。一応上着も羽織っているが、そんなの関係ないと言わんばかりの寒さに体の芯から冷える。
「さむっ……あいつら、もしかして俺を凍死させる気か?」
あれから俺は一緒に出かけることを言い渡され、「待ち合わせするからお兄ちゃんは駅前で待ってて!」という言葉から家を叩き出され、かれこれ一時間だ。正直早く来てほしい。
俺がかたかた震えていると、遠くから聞き慣れた足音が聞こえてきた。……やっと来たか
「ごめーん!お兄ちゃん流石に時間かかりすぎた!」
「すいません先輩」
ひまりは悪びれていないが、咲ちゃんはしゅんとして、反省をありありと感じさせる。……咲ちゃんは許してやろう。
「ひまりは今日夕食後のプリンはなしな」
「そんなあ!」
それにしても二人はまた、きれいに着飾って気合い入れてるな。隣を歩く俺が浮きそうだ。二人共小柄だが、それによく合うおしゃれだ。兄、先輩的に、おしゃれを優先して寒そうになっていないのも高ポイントだ。
さて、と座っていたベンチから立ち上がる。行こうか、と歩きだすと、後ろから大きめのコツコツという音がする。ひまりのお気に入りのハーフブーツの音だ。聞き慣れすぎて、その音だけで一瞬で分かる。
「本当にお前は足音だけで分かるな」
「そう?まあお気に入りだしね」
ココン、という音とともにステップを踏む。少々大きめであるため、ブーツであるとは思えないほど身軽に動く。本人が運動が得意なこともあるのかもしれないが。
「なかなかいないぞ。彼女はともかく、妹の足音分かる兄貴は。お前は俺を色々連れ出し過ぎなんだよ」
「えー!いいじゃん!仲いいのは悪いことじゃないでしょ!」
そうやってひまりと雑談をしていたら、後ろを歩く咲ちゃんの足音が大きくなり、そして近づいてくる。
「むー……ひまりちゃんだけずるいですよ。先輩も私の足音覚えててください。お気に入りの靴だから、すぐ分かるようになっててください」
「はいはい。……にしてもそのローファー、おしゃれで似合ってるよ」
「今褒めるんですか!?うーん。嬉しいですけど……!」
咲ちゃんの足音はひまりより小さい。慎重に歩いているのかもしれない。よく聞けばカツカツと、若干ブーツより軽めの音がなる。それに……歩幅が小さいかな?よし!覚えたと思う。
「多分覚えられたよ。……ていうか、なんで足音を覚えなくちゃいけないんだよ。俺はお前らの彼氏じゃないんだぞ」
「えー!今日だけは私達の彼氏なの!」
「は?」
なんでも、今日のこのお出かけはデートであるらしい。なんで?ひまりも咲ちゃんも機嫌よく話しているので楽しんでいるのは分かるのだが……
「それじゃあ、俺、妹と妹の友達侍らせてるヤベー奴じゃねえか!」
流石にやばいぞ。妹だけなら「仲いい兄妹なんですよー」で済むかもしれないが、そこに後輩とはいえ、妹の友達が混ざると途端にヤバさが出てくる。何よりその二人がまだ中学生であるのがやばい。
そう思って二人に何がやばまずいのか説明しようとしたが、
「え?今更ですか?」
「お兄ちゃんは事実じゃなくても、既に妹と妹の友達侍らせてるヤベー奴だと思われてるよ?」
と言われてしまった。なんでも、この駅の近くの商店街に俺と妹でよく行く。そこに妹と咲ちゃんもよく行く。というわけで、この商店街では俺とひまりは仲のいい兄妹、ひまりと咲ちゃんは仲のいい友達同士だと認知されていたそうだ。
それが、俺がひまりちゃんと勉強するようになって、帰り際にこの商店街に寄ったりしたときに、俺が奢ってやったコロッケやらを受け取ったときにかわいいはにかみをするものだから、俺が彼氏だと思われる。
それにひまりも奢ってやると調子よく「お兄ちゃん大好き!」とか言うので、俺は妹と妹の友達を侍らせてるヤベー奴だと思われてるらしい。
「終わった……」
俺がその事実に項垂れていると、ひまりは爆笑しながら背中をバンバン叩いてくる。いたい。お前らのせいでもあるんだからな……!
「まあ、行くか……」
気は乗らないが、商店街に入っていく。時代の流れに逆行しているとまで言われている商店街だが、この街においてはかなりの賑わいを見せており、このあたりで遊ぶならここ、といったような感じである。
何かを食べるのもいいし、買い物するのももちろんあり。運動するならちょっと離れたアミューズメント施設に向かえばいいので、この場所はショッピングを楽しむ若者から、昔からの利用客の老人まで仲良く賑わっているのだ。
「うーん、視線が……」
「まあ、しょうがないんじゃない?」
周囲から謎の視線を向けられている。なんだか落ち着かないな……まあ俺の印象的にしょうがないか。確かに、さっき聞く限りではあまりいい印象は受けないだろう。……ま、そんな感じはしないのだが。
「とりあえず、どっか行きたいとこあるか?」
「うーん、先輩。この前のコロッケ、また食べたいです」
「まだ食べるの!?」
おかしい。昼に山程焼肉を食べたはずだろ!?さては隠れ大食いキャラか!?まあ良いけどさ。
「食べざかりですもん!」と少し怒ったように言うが、流石にやりすぎでは……?お腹壊すよ……?
「ひょいっとね」
「きゃ……!何するんですか!」
「いや、抱っこして重いって言ったら多少考え直すかなって思ったけど軽すぎてびっくりした」
軽いといった瞬間機嫌良さそうになり、「先輩はわかってますね!」と言い始めるので、きっと体重はやっぱ地雷だったのだろう。重くなくて良かった。俺のデリカシーのなさのせいで怒らせてしまうところだった。
咲ちゃんを降ろして後ろを振り返ってみると、じとっとした顔をしたひまりが立っていた。
「お兄ちゃん、正直ここでの噂とか評判、気にしてないでしょ」
「うん。そりゃそうよ」
だってこの目線だって見てみたら明らかに「妹と妹の友達を侍らせてるヤベー奴」に向けるものじゃないもん。この生暖かい目……これは「仲のいい兄妹が仲のいい友達を連れてきてる」くらいにしか思われてないだろう。
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