ファイブ

仲仁へび(旧:離久)

ファイブ本編



「アカリア」


 ある日、主人公の少女は、存在していたクラスごと異世界召喚された。

 彼女の名前はアカリア。


「いったい、何が起こったの?」


 ごくごく平凡で普通な少女だった、


 異世界に召喚された者は他にも数十名ほどいた。

 放課中だったので、全員ではなかったのだ。


 目立つ存在。それはカガリという少年と、ホノカという少女だった。


 彼らは双子だが、カガリが兄で、ホノカが妹だった。


「なんだ? 一瞬で変な場所に移動しちまった」

「お兄様、私怖いですわ」


 他にも様々な者たちが召喚された。

 召喚されたショックで、失神した者もいれば、何も理解できず呆然としているものもいる。


 召喚された場所は、異世界のラザイアという町。

 そのにある赤いお城の中。


 その中でアカリア達は、混乱していた。







「ようこそ異世界へいらっしゃいました勇者様たち!」


 アカリア達に声をかけたのはネーデという王女。


 中学生であるアカリア達より、一回り上の世代の人間だった。


 ネーデは、この世界を脅かす邪神を倒してほしいと言う。


 アカリア達は、その後元の世界へ帰してもらえるらしい。


「非常に心苦しいですが、今はどこ見ても手いっぱい。送還用の魔法を用意する時間がないのです」


 しぶしぶだが、元の世界に帰るため、アカリア達は協力するしかないと判断した。






 その日からアカリア達は、修行を行うことになった。


 異世界から召喚された者たちには、召喚された瞬間から、特別な力が宿るらしい。


 優れた資質のものならば、その瞬間に才能に目覚めて、瞬時に特別な力をふるえるらしい。


 しかし、勇者でもそんなものはひとにぎり。


 だから、それを鍛えるため訓練を行うのだった


 アカリア達は、魔法を行使することに少しだけ胸を躍らせていた。


「元の世界ではこんな事なかったから、ちょっとだけ楽しいかも」


 城の者たちは、みなそんなアカリア達に親切だった。


「勇者様、自分たちに何かあれば遠慮なくお申し付けください」


 そのため、次第に状況を受け入れるようになっていた。






「兵士」


 訓練が終わった後。


 使われた木剣や、的を回収するのは、見習いの兵士たちだ。


 彼等は、汗を流しながら、作業に集中する。


 しかし、訓練のあと片づけをしていた兵士は首をかしげる。


「こんなところで誰かが訓練していたんだろうか?」


 訓練場から離れたところに、壊れた木剣のかけらがころがっていたからだ。


 兵士は首をかしげつつも、人数が多いからそういう見逃していた事もあるだろうと考えて、そのかけらを回収した。








「カガリ」


 カガリは若干の不信感を抱いていた。


 ファンタジーには憧れていたが、彼はほかの者たちより冷静だった。


 だから、この世界の事を詳しく知るために、積極的に兵士に声をかけ、彼等の話を盗み聞いていた。


 その結果、気になる事があった。


 赤い城には、洗脳の魔道具というものがあるらしく、それが城の保管庫に保管されていると聞いたからだ。


「俺だけは奴らの動向に注意してないとな」


 その事は、妹であるホノカにも知らせない事にしていた。


「あいつに余計なことで悩ませたくないからな」


 兄として生真面目な妹を守らなければと思っていた。


 それはそれとして、女好きであったために、たまに城の兵士にからんでは妹を困らせていた。


「そこのお嬢さん、俺とお茶しない?」

「何やってるんですか、お兄様」

「げっ、ホノカ」

「まったく、こんな時に」

「見逃してくれよ~」







「調理人」


 一方、城の厨房では、食材がなぜか消えていた。


「おかしいなあ、計算が合わないぞ」


 毎食、調理人達は首をかしげていた。


 計算通りに料理を作って、アカリア達に出したのに、なぜか計算が合わない。


 料理人たちは調べてみたが、原因がわからなかった。


 彼等は不気味がり上司に報告するが、上司はことなかれ主義だったので、もみけされていた。


 だから、ネーデはそのことを知らない。


 しかも問題はそれだけではない。


「聞きましたか、料理長。城の備品や生活用品が盗まれているらしいですよ」

「本当か、気味が悪いな」


 盗難事件も発生していた。


 犯人はよほど知恵の回るものらしい。


 証拠になるものは何ひとつ残されてはいなかった。








「アカリア」


 そんな中、アカリア達は練習でモンスターと戦う事になった。


 アカリア達の初めての実践戦闘だった。


 城を出て、町の外へ。


 兵士達に護衛されながら向かった。


 雑魚モンスターばかりだったこともあって、アカリア達は難なくモンスターを撃破した。


「さすが勇者様!」

「本当に、戦えるようになっちゃったんだ。なんだかびっくり」


 順調に成長していることがわかった。


 そんな中、共に召喚された勇者の一人ネズが、治癒魔法を使えるようになった。


 ネズは怪我をした兵士たちを治療していくが、その時アカリアの目には、兵士達が少しだけ罪悪感を抱えているようにみえたのだった。


「ネズ、あんまり頑張りすぎないでね」

「ありがとうございます。アカリアさん」


 ネズは召喚初日からずっと、目覚めない少女シズを気にかけていた。


 シズはネズにとって、親友だったからだ。


 異世界召喚された時、まれに世界を超えたことで体調を崩すものがいるらしい。


 大半は一週間を過ぎれば目覚めるらしいが、その少女シズは二週間たっても眠ったままだった。






 数日後。


 赤い城の宝物庫で王女ネーデは、英雄の証についてアカリア達に説明していた。


 それは選ばれた勇者が身につけると、光を放つというものだった。


「さあ、これを身につけて見てください」


 言われるがまま身につけたのは、戦闘訓練などでいい成績をおさめた者達。


 英雄の証が光ったものは、アカリアとホノカ、ネズ。


 遅れて、カガリ。


 そして最後にネーデだった。


 ネーデは、「一緒に世界を守るために頑張りましょうね」と言った。


 そして、使命感に満ちた表情で、世界の平和について熱く語った。






「ホノカ」


 その日の夜。


 ホノカは、携帯が通じていることに気がついた。


 異世界の品である携帯は使えないものばかりだと思っていたが、そうではないようだった。


 携帯をのぞきこんだホノカは驚いた。


 そこには、驚愕の事実が記されていたからだ。


「まさか、こんなことが真実だったなんて。はやくお兄様に知らせなくては」


 ホノカは兄の元を訪ねた。


 相変わらず女性を口説いているようだった。


「君の瞳は宝石のようだ」

「まあ勇者様ったら」

「お兄様! 馬鹿なことをしている場合ではありませんわ! 大事なお話がありますの!」

「いててて、なぜ殴るんだ。後もうちょっとでいい雰囲気にもちこめたのに!」







「アカリア」


 カガリが一部の者達を集めて重要な話をしたその日の深夜。


 城が何者かに襲撃された。


 城の兵士達は、それらの対応でどたばたしている。


「進入者だ!」


「勇者様たちをお守りしろ!」


「くそ、野蛮な賊め!」


 そんな中、アカリア達の前にネーデがやってきた。


「このお城はもう持ちません。ですから早く逃げてください」


 その言葉は悲壮感に満ちていた。


 危機的状況を示すように、あちこちで爆発が起きる。


 そんな城からアカリア達を逃がすために、ネーデ達は最後まで城に残るといった。


 そして、ネーデは別れを惜しみながら、アカリア達に指輪を差し出す。


「お守りです。どうかこれを一緒に持って行ってください」


 しかし、それは洗脳の魔道具の指輪だった。


 指輪をつけたものと、つけさせたものに、確かな信頼関係がある場合はーー。


 指輪をつけたものが洗脳されてしまうというもの。


 アカリア、カガリ、ホノカ、ネズはその指輪をはめる。


「なっ、どうして洗脳されないのよ!」


 ネーデは驚く。


 その結果は、魔法の不発だった。








「こうなったら、力ずくで言う事をきかせればいいだけだわ」


 ネーデは良い王女の仮面をすぐに捨てた。


 そして、襲撃犯と、それに対応していた兵士たちも演技をやめる。


 それらは、始めから芝居だったのだ。


「洗脳されていたほうがましだったと思えるように、教育を施してあげるわ」


 嗤い声をあげて、ネーデ達がアカリア達に襲いかかった。


 この世界では、王族も勇者と同じような力を持っている。


 だから王女も、戦うことができた。







 ネーデ達は強かった。


 追い詰められたアカリア達は、ネーデを人質にとることで、事態の突破を考えたが、それもうまく行かなかった。


 アカリア達は、兵士たちに深手を負わされてしまう。


「このままじゃ負けちゃう」

「あははっ、これで終わりよ!」


 しかし、不可視の一撃がネーデを襲った。


 背中に剣が突き刺さる。


「がはっ、ばっ。ばかなっ」


 それは、見えざる勇者の一手だ。


 その人物は、眠ったままの少女シズの魔法によって、透明化したまま解除されずにすごしていた。


 シズは強い才能の持ち主だったため、すぐに魔法を扱うことができた。


 そんな彼女は、召喚当時にすぐ、城の者達に不信感を抱いたため、クラスメイトの一人を透明化させたのだ。


 不可視の存在。それはノミトという少年だ。そんな彼は、城の中で自由に行動できたため、なんとかしてアカリア達に真実を告げようとしていた。


 それが、一食分余分になくなる食事だったり、たびたび発生する盗難事件の原因だった。


 そしてその人物は、携帯を使ってホノカにコンタクトをとることに成功。


 アカリア達は、ネーデの企みを知ることができたのだった。






 ネーデを人質にとったアカリア達は、城を脱出。


 人里離れた場所でネーデを開放し、ラザイアを逃れることになった。






 アカリア達の前にはまだまだ問題が山積みだったが。


 彼女たちは一つの困難を乗り越えた事で、厳しいこの世界で生きていく覚悟を固めたのだった。


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