第6話 一緒にお弁当

 九郎と玉枝は、家に帰ると玉枝は料理を始める。九郎は、4日後に提出が迫っているレポートに手を付ける。

 食事ができると玉枝は九郎に抱き着き

 「私を食べて。」

と、いろいろ誤解されることを言う。九郎は赤くなり、椅子から立つ。

 そして、部屋の中央に置かれた小さなテーブルに置かれた料理を見る。今晩はご飯とみそ汁、アジの塩焼きである。

 九郎は玉枝に

 「いただきます。」

と言って食べ始める。

 みそ汁はだしがきいており、アジの塩焼きは焼き加減が絶妙である。アジのひれには飾り塩をして、身には隠し包丁を入れて丁寧な仕事がされている。

 玉枝は九郎に聞く

 「お味がどお。」

 「おいしいです。」

 「良かった。」

玉枝は満足そうな顔をする。

 彼女はさらに

 「足りなかったら私を食べてね。」

と付け加える。

 九郎は

 「結構です。」

と答え、そんなこと言わなければ、素直に感謝できるのにと思う。

 玉枝は何かにつけて九郎を誘うようなことを言い、彼の反応を見て楽しんでいるのである。

 九郎が風呂に入ると玉枝が裸で入って来る。ドアにカギをかけても無駄である。ドアや壁をすり抜けてくるのである。

 九郎は諦めて玉枝のされるがままにされている。全裸の美女に体を丁寧に洗ってもらえるので最高のサービスのはずである。

 九郎の体は、素直に喜んでいるが・・・彼は怨霊に体を洗われるのは良くないと思っている。

 玉枝が九郎を洗いながら言う

 「明日、社本あやめの隣に座ったらいいと思うわ。」

 「そんななれなれしいことできないよ。」

 「九郎ちゃんは奥手ね。もしかして、私に手を出さないのもそうなの。」

 「いいえ、玉枝さんのは違います。」

玉枝は九郎の言葉を聞かなかったように

 「いつでもいいのよ。」

と彼を誘う。

 九郎は風呂から出るとレポートを始めるが、玉枝のネグリジェ姿が気になって進まない。結局、レポートは進まないまま寝ることにする。

 玉枝が布団に入ってきて添い寝する。九郎は玉枝の添い寝に何とか慣れてきた。

 しかし、欲望に負けないために精神統一をするのは変わっていない。

 朝起きると玉枝はフレンチトーストとオムレツを作ってくれる。玉枝のオムレツは、九郎のお気に入りである。

 彼女は今日も弁当を用意してくれる。

 大学に行く時間になると玉枝は服を変える。今日は青いチュニックにベージュのスリムパンツである。

 玉枝は九郎に感想を聞く

 「似合っている?」

九郎には分からないが

 「似合ってますよ。」

と答えておく。

 講義を受けるため席に着くと隣にあやめが座る。あやめは九郎に挨拶する

 「おはよう。昨日はごめんね。友達と約束していたから。」

 「おはよう。気にしていないよ。」

九郎はあやめがなぜ隣の席に座るのかわからない。

 「席、僕の隣でよかったの。」

 「隣ならすぐ消しゴム拾ってもらえるでしょ。」

 「九郎ちゃん、良かったね。」

玉枝が言う

 「私、九郎ちゃんを応援してあげるね。」

九郎は、玉枝がどんな応援をするのか気になり、そのうち不安になってくる。

 九郎とあやめは、講義について話すだけで進展はない。九郎にとっては、あやめと話をするだけでうれしいが、玉枝は物足りない。

 玉枝は九郎に言う

 「お昼、誘いなさいよ。」

九郎はあやめが隣にいるので玉枝に答えることはできない。彼にとって昼食を誘うことは大仕事である。

 講義が終わって昼休みになる。九郎はあやめを誘おうとするが言葉が出ない。

 あやめが九郎に言う

 「翼君、お昼一緒に食べよ。」

 「僕、お弁当だけどいいかな。」

 「私もお弁当よ。」

2人は学食へ行き向かい合って弁当を広げる。

 あやめが言う

 「お弁当、お母さんが作っているの。」

 「一人暮らしをしているよ。」

 「そのお弁当、翼君が作ったの。」

 「まあ、そうなるかな。」

怨霊が作っているとは、口が裂けても言えない。

 「社本さんのお弁当はかわいいね。」

 「ありがとう、料理の勉強しながら作っているのよ。」

 「すごいなー」

 「すごいのは君の方でしょ。」

 「そうかな。」

 「誇ってもいいと思うわ。」

玉枝が言う

 「あやめちゃん、わかっているわ。」

九郎は、玉枝が嬉しそうだと思う。

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