第31話 謎の招待状 前編


 鼻血事件からおよそ一週間を過ぎようとしていた。結局、あれ以降僕の中の特別な力は開眼した便利眼と口寄せのみに留まった。あの日以降父様からの話は無かった。しかし次の日の朝、いつも家にいる時に見せる柔和な父様の顔はなく、あの角の個体と対峙していた時と同じ顔がそこには有った。


 一体どうしたのだろうと思った僕は、『母上』と声を掛けようとしたのだが、彼女の姿を見てとても声を掛けれるような状態ではない事を悟った。


「メディウス、今日は父と母からお前に大事な話がある」


「……」


「お前も自覚がもう有るとは思うが、お前は普通の人間とは違う、鑑定書の表記は出鱈目で解読が出来ないが、恐らく何か意図があるのだろうと思われる」


「意図? って誰のですか?」


「私達のお祈りする神様よ、メディウス」


「神様?」


「ええ、そうよ。お母さんもお父様から森での出来事について聞きましたが、アナタはどうやら特別な力を持って生まれて来たみたいです」


「でも、僕は英雄、勇者のどちらの素質もありませんよ」


「ああ、その通りだメディウス」


「なら、僕はちょっと変わった子程度じゃないでしょうか?」


「私も母さんもそう思えるならそう思いたい、だがな私はあの時見てしまった。5つになったばかりのお前が、シルバーウルフを仔犬の様に扱っていたのを。それは幾ら英雄や勇者の素質がある人間でもだな、お前の年齢で出来る芸当ではないのだよ」


「そうよメディウス、子どもの頃からそんな事をできる人間は見た事も聴いた事も無いの。それにプラチナウルフをテイムするなんて、とても信じられない話なのよ」



 僕が家に着くなり庭で彼女を腕輪から解放した時は大変だった。シルビアを見た母様いつものお淑やかな女性では無く、戦神宜しく雷の槍を持って構えて居た。そう、一触即発の状態である。


 しかし、僕が彼女に伏せを命令すると素直に従ったのを見て、母様は大きく口を開けたまま固まってしまった。そして庭の戦闘はすぐさま休戦となった訳だが……


 だからと言って、それくらいで何故僕が特別に?


 それにあんな奇跡的な事を未だに自分がやったなんて信じる事が出来なかった。


 何故ならあの時の記憶が全くないのだ……。


 目覚めた時にはシルバーウルフの一匹は既に事切れて居て、シルビアがまるで飼い犬の様に大人しく伏せをしていた。僕はてっきり父様達が力を合わせて倒したのだと思った。


 彼女が脳の中に直接語りかけて来た時はびっくりした。けれどあの時はまだ意識が朦朧としていたから、その衝撃は少なく済んだのだけれど。


 しかし、しっかりと意識が回復すると、父様に逆に質問をされたのだ。話を聴いて信じられなかった。この僕が父様もメルさんの命を救ったのだから。あの戦闘中、父様は危うく腕を引きちぎられそうだったという、生涯片腕となる事態は避ける事ができたが、残念なことに腕の動脈を切られた為、血が止まらず死を間近に感じていたそうだ。


 瞳を閉じてシルバーウルフの追撃を覚悟していたのだが、それは不思議と訪れず、逆に泣き叫ぶ猛獣の声が森林に木霊した。


 そして何よりと呼ぶ様な声が聞こえ、それが余りにも息子の声と一致している為、躊躇いながらも声のする方へ目を向けると、顔は息子だが5才とは思えない筋骨隆々の幼児が、その個体を赤子を捻る様に蹴飛ばしていたと言うのだ。


 当然そんな馬鹿げた話を信じられるわけもなく、町でもそうだったが、色々サプライズなことをされたのもあり、今度は皆で僕に誕生日のサプライズイベントをしてくれたとさえ考えた。


 でも、それは違っていて、本当に僕一人で記憶が飛んでいる間にシルバーウルフを完膚なきまでに叩いて居たのだと教えられた。


 改めて真剣な眼差しで語られたので、もう自分が普通の人間では無い事を実感するほかなかった。いや、本当は自分でも気付いて居たのかもしれない。何故なら、僕にだけ元勇者ルーザーマケルシカナイトさんが見えるのだ。


 今も語ることは無いが、彼は僕の目の前に立っていた。


 もうこの事も隠していてもしょうが無いだろう。僕はこの事実は両親に告げる決意をすると、僕が体験した話を彼等に話した。


 本来ならとても馬鹿げた話だろう。だって、5才の語るお伽噺の妄想だと捉えられてもおかしくないのだ。でも、それを聞いた両親は逆に一切笑うことはなく、寧ろ二人とも見せたことない苦悩の表情へと変わっていった。



「なんてことだ!? どうして神は我が息子を選んだのだ」


「どうして、この子にそんな過酷な運命を……」


「父様、母様……僕が語った勇者の話を信じてくれるんですか」


「当たり前だ!?」

「当たり前です!?」


「お前はなメディウス、嘗ての歴代の勇者冴え授からなかった加護を神から受け取ったんだよ。賢者には魔眼持ちが居た。だが、勇者にはそれが無い。勇者と共に戦った魔法使いは攻撃魔法として全ての属性を扱えた、しかし勇者には縛りが有った。聖女には超回復の魔法の加護が有るが、勇者にはそれが無い。言いたいことは分かるね、メディウス」


「はい、僕は魔法に対して無限の可能性が有るみたいです」


「しかし、勇者には有るけどアナタに無いものが有るわ」


「……剣術や体術ですね」


「そうだ、だからこれから毎日私の剣術、母さんの槍術を徹底的に叩き込む。お前は父さんが成しえなかった剣聖、剣豪、剣王、剣帝、この何れかにも届く人間に成りなさい、いや越えなくてはならない。理由は何故だかわかるね」


「魔王との戦いのためですね」


「いや、お前が死なない為だ」


「死なない為?」


「そうだ。お前は魔王と戦わないと行けない運命にあるのかもしれない。だがその前に、自分の生命を守れるだけの力を身に着ける事が先決だ。そのための剣術を身に付けると思いなさい」


「魔力は有限だが、剣術はある意味無限だ」


「でも……いつ魔王が攻めて来るかなんか」


「もしそうだとしたら、今の剣聖達が戦うまでだ。私も含めてな」


「父様もですか、どうして父様まで?」


「それはお前の便利眼で見れば分かることだ」



 その言葉を聞いて父様の意味する事が何となく分かった。いや、便利眼など使わなくとも今の父様の身体を見れば一目瞭然なのだが。



 僕は便利眼に瞳を切り替えると、父様を見た。


 ━━確認しますか?


 思った通りのメッセージが空間に表れる。

 僕は即決で"はい"と心の中で捉えた。


 ━━畏まりました。ようやくかよ!?

 ━━ステータスをオープンします。


 名前:ノラン・アーネスハイド


 身分:元男爵、一級剣士

 レベル:73

 ※体調異常が無くなりましたので、レベル成長の制限が解除されました。


 HP 3300 MP 2000 +300

 STR 6000 ATK 3000 +500

 DEF 2000 +500 AGI 1000

 LUK 1000 INT 1500

 CHR 2500

 * +は改心時に加算されます。



 EXP 200(次のレベルまで経験値が30000必要です)


 加護:戦神、神速、剛力改、風、光、雷

 ※キマイラ戦の傷が回復した為、加護の常態が無くなりました。


 魔法属性:3


 剣技: 回天(風の属性が必要です)、首狩り、絶角音死後、刺突

 ※その他は魔力を必要としません

 神速技:レイン、シャドー、ライオット(雷の属性が必要です)

 剛の技:剛力殺ごうりきあやめ、金剛修羅

 走技: シオン(風の属性が必要です)

 防御技:サイレン(雷の属性が必要です)、スパーク(光の属性が必要です)

 


 勇者確率:65%

 英雄適合率:80% (剣王)


 ……これは。


 何と言えば良いのだろう。これもあの時の僕の回復魔法で治癒してしまったと言うのだろうか? 


 ……この事を話したら父様達は喜ぶだろうか。


 父様はまた剣王の道を目指せる。そして王国の騎士団にも戻れる。でも、これを聞いて母様は果たして喜ぶだろうか・・・・・・。



「どうだったメディウス、私のステータスは見えたのか?」


「どうだったのメディウス?」


「え〜と」



 そうだ、あの時宿で見た父の背中の傷を先ずは確かめなくちゃ。もし、あの傷が全く残って居なかったら、あのキマイラ戦の時の傷は完全に癒えている。でも、それと同時に彼等の出逢いのきっかけと言うか名残りも無かった事になってしまうのでは無いのだろうか?


 僕は意を決して父様に上着を脱いで貰うよう提案した。

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