第24話 本に記されし予言の言葉 後編


 彼は鑑定書を持つと、まるで難しい文献を読む様な顔で、真剣に一つの漏れを逃さない様に、それに眼を通した。



「ノラン殿、この子が産まれたのは何時だね?」


「何故それを?」


「お前さんは確か、この子は普通で十分な様な事を先程言っておったの?」


「はい」


「この子はなっ、神が遣わした子じゃ」


「「「えっ!?」」」


「いやっ、何を言ってるんですか?」


「わしゃはな元冒険者であり、様々な魔眼で書かれた文献を読んで来た。そしていま彼が手にしている預言の本もしかりじゃ」


「それが息子と何の関係が?」


「息子さんが産まれたのは恐らくじゃが、勇者が亡くなった年の49日目に産まれとらせんかね?」


「……どっ、どうしてそれを?」


「その預言書にはこう記されておるんじゃ。


いつか勇者堕つ七夜が九つ過ぎし時、

魔眼と異をなす救世主現る。


その者、魔眼持たず、異能にて五星数えこの預言書読めたり。


その者は、魔を打ち滅ぼす魔導士であり、

剣士であり、賢者であり、支配者である。


その者幼く、記憶亡き。

願わくば、最初にこの書読む者、

この者の叡智となることそれ望まん。


とな」


「それじゃあ、アナタは息子がそれだと」


「そうじゃ、『勇者堕つ七夜が九つ過ぎし時』これは49日目を表しておる。


『魔眼持たず、異能にて五星数えてこの預言書読めたり』息子さんは、5歳で便利眼が開眼しこの書を読んだ。


『魔を打ち滅ぼす魔導士であり、剣士であり、賢者であり、支配者である』これは恐らく、全ての可能性を秘めているという意味じゃろう。


そして、この書を最初に読んだのは、間違いなくわしゃじゃ。」


「わっ、凄いですねノラン様!? メディウスさんは救世主ですよ」


「本当に今日はとてもめでたいわい」


 喜びはしゃぐ彼女らと対をなすように、ノランの顔は複雑な表情に変わった。それはまるで黒い雲が集まるかの様だった。


 彼の口から擦れた音は、悲痛な叫びへと変わる。

 明るかった室内の空気は静かに散った。



「全然……めでたくなどない、私達の息子は普通の子でよかったんだ……」



 彼の声を聴くと、メルは手を叩くのを止め、その姿勢のまま彼を見た。

 猶も、室内には静寂が流れた。


 自らこの静けさを壊す様に、ノランはまた話し始めた。



「私と妻は正直恐れていたのだ。息子がよりにもよって、勇者ルーザー様が逝去してから数え、49日目に辺境の地で誕生したことを」


「それって、どういう?」


「この世界の歴史の勇者には、共通する法則が有った。寿命で亡くなる、他殺に関わらず、次世代の勇者や賢者などは49日目に誕生している確率が高い。そして、『魔物に狙われ難いよう、辺境の地にその魂は齎されるじゃったな』そう、その通りです。ロンベル殿」


「そして、何よりメディウス。私はお前の鑑定書を見て身震いした」


「それは、どうしてですか? 父上」


「よいか、メディウス。先ずお前の加護の数だ、此処に来る前にも話したが、歴代の勇者でも7つ有るか無いかだ」


「はい、確かにそれは聞きました。でも、僕の加護は殆どが意味不明だし使えません」


「確かにそうだな。今日ようやく一つの加護が使用できるようになったばかりだしな。だがな、父が震えたのはっ、そこではないんだ」


「えっ?」



 すると、父様は先ほどの鑑定書をロンベルさんから受け取ると、問題の部分について説明し始めた。あの日鑑定後に、鑑定団の人々を中心に結果を見ていたのだが、当然父様もその結果が気になり、横から覗き込む形で確認したのだと言う。その中で、鑑定団の一人が記載されている一部分を見て笑い出したのだと言う。最初どの部分を見て笑っているのか? 分からなかったが、仲間の一人が尋ねると、その男はを指し示していたことが判明した。


 それを見た他の仲間も、これを見て笑い出した。数字で8はちと書かれていたからだ。『数字の8ってもう加護じゃねーじゃん』通常なら魔法の属性は、火や水などの文字が記されていないとおかしい、そこに来て意味の分からない数字が書かれているのだ。彼等にとってはさぞかし可笑しくて仕方が無かったに違いない。


 だが、それを見た父上は違っていた。どうして、彼はその時震えたのか? それは、彼が偶然横からの角度でそれを見たから気付いたそうだ。


「いいか、お前の鑑定結果の表示はどれもこれも出鱈目だと見たほうがいい、お前の魔法属性について、この角度で見たらどうだ?」


「えっ、すっ、数字の8ですが」


「私にも数字の8にしか見えません」


「では、ロンベル殿にはどう映ってみえますかな?」


「な、なな、なんと!? 何という事じゃ、先ほどは正面から見ておったでの、見事わしゃとしたことが見落としたわい」


「「ロンベルさんまで、どういうことですか?」」


「わしゃもさっきまでは、数字の8として見ておったんじゃが。これは無限じゃ!?」


「「えっ?」」


「これは無限の可能性が有るという意味の∞のマークじゃわい」


「ロンベル殿、その通りです。幸い、王国の鑑定団の使者には気付かれませんでした。メディウス、お前は全ての魔法属性いや、それ以上の力が有る事をこの結果は表している。次の勇者はお前かもしれない」



次の勇者はお前かもしれない

 次の勇者はお前かもしれない

  次の勇者はお前かもしれない

   次の勇者はお前かもしれない

    次の勇者はお前かもしれない

     次の勇者はお前かもしれない



 次の勇者は……


 僕は何処か遠い昔にこれと似たセリフを聴いた様な気がした。

 その場で固まるしかその時には出来なかった。

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