第3話 裏世界へ 22 ―カイドウと子供は睨み合う―
22
「それから優くんは、俺に手を差し伸べると、エレベーターがある方を指差して『逃げて!』と言いました。そして、」
「ん?」
剛少年が話している途中、正義が小さく首を傾げた。
「どうしたの、せっちゃん?」
そんな正義に気が付いて愛が問い掛けると、正義はこう答えた。
「いや、『もしかしてこの戦いって俺が見たやつかな?』って思ってさ……」
「せっちゃんが見た?」
「うん。ほら、柏木を倒した日に俺は白いモヤモヤの中に"戦うモヤモヤ"を見ただろ? そのモヤモヤが優なのは分かったけど、『もしかして俺が見たのはこの日かな?』って……」
「え?! 正義さん、俺達のすぐ近くにいたんですか?」
剛少年は正義の発言に驚いた様子。大きく目を見開いた。
「あぁ、もしかしてだけどさ。……つっても、居るのは表世界と裏世界で別々だから、俺に見えてたのは白いモヤモヤだったけどね。なぁ、剛くんはあの後戦いがどうなったのか知ってる? ……俺が知ってるのは、優が剛くんを助けて《魔女の子供》と戦い始めたところまでなんだ。あの後すぐに丑三つ時が終わった、二時半が来ちまった、白いモヤモヤが見えなくなっちまって、俺には優がその後どうなったのか分かんないんだよ。剛くん、知ってる?」
正義が問い掛けると、
「あ、はい」
剛少年はコクリと頷いた。
「俺は優くんから『逃げて!』と言われると、一度はビルの中に逃げ込みました。でも、すぐに戻ったので……」
「逃げなかったのか?」
これは勇気からの質問だ。
質問を受けた剛少年は再び頷いた。
「はい……その理由は金城くんを思い出したからです。『自分だけ助かって、それで良いじゃダメだ。金城くんの救助を優くんにお願いしなきゃ』って思ったからです。そう思って引き返すと、俺は屋上の扉の陰から優くんの戦いを最後まで見ました。確かに、正義さんの言う通り、その日はすぐに二時半が来てしまいました。だから、優くんの戦いは翌日に続いたんです」
―――――
タイムリミットが来て、二日に分けられる事になったガキカイドウと《魔女の子供》の戦いは、睨み合って終わった前日そのままの状態で再開された。
「ギギギギ……ギギギギ……」
右手に柄を、左手に鎖を、ガキハンマーを両手に握ったガキカイドウは歯軋りをしながら《魔女の子供》を鋭い眼光で睨む。
睨み合っているのだから、それは相手も同じだ。
「ギギギギ……ギギギギ……」
《魔女の子供》も歯軋りをしながらガキカイドウを睨んでいた。
― さてさてぇ……
カイドウは考えていた。
― 藤原さんや旭川さんを助けた時は、アイツらは藤原さん達と距離があった。だから僕は不意打ちをくらわせられたし、すぐにアイツらを遠くにブッ飛ばせた……でも、今回は違かった。今回は、子供が剛くんを捕まえていたから、僕も本気のパンチが出せなかった。ブッ飛ばせなかった……睨み合う形に持ってかれてしまった……嗚呼、飛び掛かって来てくれれば、僕の方がリーチが長いからカウンターパンチをやれる自信はあるのに………でも、でも、どうやらコイツはその気は無いみたい。もしかしたら、コイツは前に僕にカウンターパンチをくらった奴自身なのかも………こっちを睨んで、僕がどう動くのかを見ている。安易な先手を打つ気はないみたいだ。そうなるとやってきそうなのが、地割れを起こすパンチだよな……アレは厄介だ。もしここでやられたら、このビルは倒壊……僕は瓦礫に埋もれる。こっちが動き出そうもんなら、すぐにでもソレをやってきそう………でもでも、ここまでは昨日のタイムリミットから、今日の午前二時までの間に考えていたよ………だから僕はこうするんだ!!!
カイドウは歯軋りをしていた口を開いた。
やるのは攻撃……いや、口撃だ。
「やいやい! 《魔女の子供》やい!! お前は今こう考えているんだろ!! 『このまま睨み合いが続くのならば、自分のパンチをこのビルにくらわせてビルを壊してやろう!』って!! 握った拳がその答えだぞ!!!」
《魔女の子供》はガキカイドウを睨みながら拳を強く握っている。
「でもでも、そんな攻撃は無意味だぞ!! 何故なら、僕は強い!! たとえビルが倒壊して、瓦礫の山に埋もれても、強い僕にはノーダメージだ!!」
― これは嘘。普通に嘘。全然ダメージくらっちゃう! でもでも、言ったもん勝ちだ!!
「それに! お前がパンチをしてくるのが分かっているなら、僕はその前にジャンプするぞ!! お前は倒壊するビルと共に落下し、僕はお前の頭上だ!! そうなったら分かるよね? 上からドンッって攻撃するだけ!!! パンチは悪手だ! やらない方が良いぞ!!!」
― おっ……と、アイツの拳が少し開いたぞ。"半開きの半開き"くらいだけど、よしよし。じゃあ、ここから僕はどうしようか? もっと拳を開いてくれたらなぁ……ハンマーをぶつけられるんだけど。今の半開きの半開きだと、ハンマーを振る素振りを見せた時点で、アイツはまた拳を握ってしまいそう。う~ん、一歩近付いてみるか……
コツッ……カイドウは右足を一歩踏み出した。
「バリ……ホゥ」
― あっ……ダメだ。アイツは一歩後退した。僕に距離を縮めさせないつもりだ。それに、半開きの半開きがまた握られてしまった……う~ん、どうすれば良いのだ………
「バリ……ホゥ」
「う~ん……」
「バリ……ホゥ」
「う~ん……」
鋭い眼光でカイドウを睨む《魔女の子供》もまた、どんな手段を使って睨み合いを終わらせれば良いのか考えているのだろう。
だが、カイドウ同様に答えは出ないのだろう。
両者の睨み合いは続く……
「う~ん……」
「バリ……ホゥ」
「う~ん……」
「バリ……ホゥ」
「う~ん……ん?」
動きを止めて《魔女の子供》を睨むカイドウは首を傾げた。
― 何だアレは?
カイドウは《魔女の子供》の腰の辺りに目を留めていた。
― 今まで、こんな風に立ち止まって睨み合った事が無かったから気付かなかったけど、アイツ……腰に巻いているベルトに小袋をぶら下げているなぁ。確か、僕達を封印すると魔女が言っていた《絶望の壺》は、アイツらのローブのポケットに入っていたよな? じゃあ、アレは何だ? 何が入っているんだ?
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