第2話 君は何処へ 2 ―白い靄―
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10階建てのビルに降り立つと、セイギは白い靄に向かって走り出した。
その白い靄は完全に人型をしていた。背は高くなく、昨日セイギ達が見た白い靄と同様に子供の様な体型だ。何かを探しているのか、それとも何かを警戒しているのか、辺りをキョロキョロと見回しながら、妙な動きで屋上を動き回っている。
セイギはそんな白い靄にダダダダダッ!!っと近付いた。だが、これも前回同様だ。白い靄はセイギが近付けば近付く程に薄くなっていく。
初めは雲の様に白くハッキリとした人型を見せていた靄だったが、セイギが手を伸ばせば触れられるくらいの距離に来た時には、タバコの煙ほどの薄さになってしまった。
「……このッ!!」
セイギは『逃がしてたまるか!』という気持ちで手を伸ばすが、ダメだ。靄は消散……触れもせずに夜の闇に消えてしまった。
「ちきしょう!!」
セイギは伸ばした手で虚空を殴った。空しさで叫ばずにはいられない。
「何で消えちまうんだ!!」
……と。
「セイギ!!」
そんなセイギにユウシャが声をかける。
それは落ち着いたものではない。彼もまた叫んでいた。何故なら、ユウシャには見えているからだ。
「悪態をつくにはまだ早いぞ! よく見ろ、他のビルにも白い靄はいる!」
……そうだ。これもまた昨日と同じだった。白い靄が居たのは10階建てのビルだけじゃなく、目を凝らせば、周辺のビルにも靄は沢山居たのだ。
「俺は他を行く! お前も早くしろ!!」
ユウシャはそう言ってセイギの背中を叩くと、隣のビルに向かって跳んだ。
「せっちゃん!」
次にセイギに声をかけたのはアイシンだ。彼女もまた、次に向かっての行動を取ろうとしていた。
「ビルの上だけじゃない、道路にも居るよ! 私はこっちに行く!!」
アイシンは10階建てのビルから飛び降りた。
「ギッチョン! 私は鳥になって空から探すね! 捕まえられたら連絡する!!」
ドリッチは黄色い光にその身を包ませた。
「俺も空から行くボッズー! 昨日は何も出来なかったからな、今日は頑張るぞボッズー! セイギ、遅れを取るなよなボッズー!」
ボッズーも夜空を飛んで行ってしまった。
「あっ……と! 素早いな、みんな!」
取り残されたセイギは笑うしかない。
「へへっ! でも、頼もしいぜ!」
そして、セイギは思った。
― はじめは俺とボッズーだけだったのに、今じゃ勇気もいるし、愛もいる、夢だって来てくれた……
「ヨッシャ!! 負ける気がしねぇぜ!!!」
居合の入れ直し。
空しく、悔しく、虚空を殴った手で、セイギは自分の頬を叩くと、彼もまた別のビルへと跳び立った。
しかし、彼らは後々知る事になる。
白い靄の正体は、戦うべき存在ではなく、救うべき存在であったと。
そして、その中には、大切な"友達"がいた事を。
これから一人一人が抱く疑問が、事件を加速させていく………
―――――
英雄達は散り散りになって本郷の夜を行った。
ユウシャが見付けた白い靄は、大きな屋上看板の陰に体を屈めて隠れていた。
しかし、看板の後ろに隠れるのではなく、広告面を前にしてビルの外側に隠れているのだから、10階建てのビルの方からはその姿は丸見えだった。
「………」
隣のビルに跳び移ったユウシャは、白い靄と同じく屋上看板の前に降り立った。ユウシャは走りはしない。白い靄から距離を取り、ホルスターから二丁拳銃を取り出す。
「隠れるのが下手だな。俺達に見付けられたくなければ、看板の後ろに隠れるべきだ……悪いが、俺はお前に近付かなくても攻撃が出来るぞ……」
ユウシャは二丁拳銃を白い靄に向けた。
「………」
しかし、白い靄は驚きもしなければ、ユウシャの方を見ようともしなかった。それどころかユウシャを無視する様に、看板の横から屋上の内側をチラリと覗いた。
すると、この直後、この白い靄は不思議な行動を見せた。
「ん?」
その行動にユウシャは驚く。その行動とは何か、それは、屋上の内側を覗いた白い靄はビクリと肩を揺らすと、ユウシャが居る方向に向かって走ってきたのだ。銃を構えて明らかな敵意を見せている筈のユウシャの方に……
「お……おい!」
ユウシャは戸惑った。
そして、ユウシャに近付いてきた白い靄は、雲の様にハッキリとしていたその体を徐々に薄くして、ユウシャにぶつかるか、ぶつからないかの所で消えてしまった。
「な……何なんだ? 銃を向けた俺の方に何故来た? 撃たれる前に消えられると考えたからか……」
ユウシャはそう呟くが、
「いや、ちょっと待て、そう言えば……」
と気付く。
― そう言えば……さっきのビルに居た白い靄も俺達が現れても何も反応を示さなかったぞ。何かを探しているのか、何かを警戒しているのか、キョロキョロとしていて俺達は無視……今の奴もそうだ、銃を向けても無視………そして、明らかな敵意を示している俺が居る方向に無防備にも向かってきた。まさか……奴等には、俺達は見えていないのか?
もし、ユウシャがセイギであったならば、今の彼は頭をガリガリと掻いていただろう。
―――――
白い靄の行動に疑問を抱いていたのはユウシャだけではなかった。
「待てっ!!!」
アイシンは道路に降りて白い靄を追い掛けているのだが、彼女の目の前には二体の白い靄がいた。
一体は中学生くらいの身長で、もう一体はずんぐりむっくりで小さな体だ。この二体の行動が不可思議だったのだ。
二体は前後に分かれて走っているが、前を走っている中学生くらいの白い靄は、後ろをキョロキョロと見て、明らかに後ろの白い靄との距離を気にしているし、後ろのずんぐりむっくりの白い靄は、走りながら手を伸ばして、前を走る白い靄を捕まえようとする動作を何度も見せていた。
この二体の行動を見てアイシンは首を捻った。
「何してんの!! 鬼ごっこでもしてんの!!」
……と。
―――――
そしてその頃、《
「えぇ? なにぃ?」
黄色い鳥になって白い靄を探していたガキドリッチは、駅近のオフィスビルの中に白い靄を見付けた。
これもまた二体。照明が落とされて真っ暗な通路を白い靄は走っていた。
「え? 追いかけっこ?」
二体の白い靄は背の高いビルの10階くらいにいる。ビルの外を飛んでいるドリッチはまだビルの中への入り方を見付けられてはいないが、彼女は二体の白い靄が走る理由をすぐに察した。
「何それ? 遊んでんの?」
ドリッチは白い靄に向かって問い掛けるが、ドリッチはビルの外、白い靄はビルの中、ドリッチの声は白い靄には届かない。
「ねぇ、ねぇ? 何してんの?」
それでもドリッチは白い靄達と並走しながら問い掛け続けた。
そして、白い靄が通路の突き当たりに来た時、
「え???」
彼女は不思議な現象を目撃した。
白い靄が突き当たりに来た時、逃げていた白い靄がもう一人の白い靄に捕まえられてしまったのだ。……が次の瞬間、もう一人の白い靄が殴る様な動作で右手を振り下ろすと、捕まえられた方がその右手の中に吸収される様にして消えてしまったのだ。
「え? 消えたぁ? つか、吸い込まれたぁ???」
ドリッチは目の前で起こった現象に首を捻った。鳥の姿だから良く回る首をクルクルと……
―――――
夜空を高く飛ぶボッズーは、白い靄を何体も見付けた。
そして、ボッズーは判断した。
「白い靄には二種類いるボズな……」
……と。
それは、アイシンとドリッチが目撃した逃げる者と追い掛ける者の二種類。
「屋上やビルの陰に隠れている奴も、追い掛ける靄が現れれば逃げていくボズ。まるで鬼ごっこかかくれんぼをしているみたいだボッズー」
ボッズーは飛び回りながら、白い靄を観察しながら、自分の頭の中にメモを取るように独り言を呟いていた。
「"逃げる靄"と"追い掛ける靄"には身体的な特徴もあるなボッズー……"逃げる靄"は大きくもなければ小さくもない中学生くらいの大きさで……"追い掛ける靄"はずんぐりむっくりで小さな体だボズ……しかし」
頭の中にメモを取ってみてボッズーは思った。
「しかし……コイツ等はいったい何をしてるんだボズ???」
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