第3話 慟哭 4 ―我に返った勇気は……―

 4


 ハァ……ハァ……ハァ……



 ねぇ、母さん、母さんどこ?



 どこに行ったの?


 なんで誰もいないの?



 ハァ……ハァ……ハァ……



 僕は今どこにいるの?


 なんでこんなに真っ暗なの?



 走っても、走ってもどこにも着かない


 怖いよ……怖いよ……


 僕は……僕は……僕は……………俺は、俺は………



「俺は何をしているんだ!!」


 ―――――



 セイギの前から消えた勇気は、ガラス細工の様な虚ろな瞳で、山の中を彷徨い続けていた。



「どこ……どこ……僕は……僕は……」


 ボソボソと誰かに問い掛ける様な言葉で、勇気は独り言を呟き続けていた。しかし、彼は突然、


「俺は何をしているんだ!! 俺は……俺は……」


 まるで目を覚ましたかの様な声で叫んだ。悪夢から目覚めたかの様に……


 いや、『目を覚ましたかの様な』ではない。彼は確かに夢を見ていたんだ。山の中を彷徨いながら、勇気は夢の中にいた。

 おそらく彼は『そんな訳ない』そう言うだろう。だが、勇気は確かに悪夢の中にいたのだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 勇気の呼吸は大分乱れていた。治めようとするが、治まらない。乱れた呼吸が止まらない。

 勇気は胸を押さえて地面に座り込んだ。

 どしゃ降りの雨に濡れた土の気持ち悪さも、今の勇気は気付かない。全身もびしょりと濡れてしまっているが、それにも勇気は気付かない。それよりも、吐き気が凄い。今の勇気の頭の中は靄がかかった様で、全てが不明瞭だった……しかし、吐き気だけは明瞭で、自分がまだ生きている事を勇気に教えていた。


「はぁ……はぁ……うぅ……」


 胃液が込み上げて喉を焼く。


「クソ……何が、何が起きたんだ……母さんは何処だ……」


 勇気は頭の中の靄を振り払おうと頭を振った。目眩がする。砂嵐が見える……


「何か、悪い事が起こった事だけは分かる……何が……何が起こったんだ」


 勇気は目眩を抑えようと頭に手を置いて、目を瞑った。


 ―――――


 俺は……俺は……そうだ、あの後俺と母さんは十文寺じゅうもんじに向かう為に林道に入って……

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