第2話 絶望を希望に変えろ!! 17 ―正義の心で悪を斬る!!―

17



 それは何か。



 それは、さっきまで何も持っていなかった筈の少年の手に巨大な剣が握られていたのだ。

 銀色の柄に、鳥の翼に似た真っ白な刃を持つ1m以上もある巨大な大剣。少年はその大剣を軽々しくヒョイと持ち上げて、刃の背面、『みね』と呼ばれる所で肩をポンポンと叩いた。


「おっと、驚いたか? でも安心しろ、この剣でお前を斬る事はしねぇよ。コイツは人間に向ける訳にはいかねぇんだ! でも、その危ねぇモンは取り上げさせてもらう!!」


 少年は男に向かって走り出した。


「クソがぁ!! 意味分かんねぇ! 意味分かんねぇ! お前ら意味分かんねぇんだよぉぉぉ!! 言ってる事も! 何もかもがよぉぉぉ!!!」


 男は走り来る少年に銃を向けた。この時の男の絶叫は怒りの感情だけではなくなっていた筈だ。訳の分からぬ存在に出会ってしまった事への混乱と恐怖に焦り、様々な感情が綯ない交ぜになった絶叫だったろう。


「このクソガキッ!! バケモノがぁッ!!!」


 いや、違う。少年は決してバケモノではない。


 少年は……


「お前はいったい何者なんだぁぁぁぁ!!」


 男の感情の爆発と共に銃が火を吹いた。一発、二発、と弾丸が放たれる。


 しかし、

「フンッ!!」

 少年はその弾丸を大剣を一振りしていっぺんに消滅させた。『消滅させた』という言葉だけでは意味が分からないだろう。だが、その言葉通りなのだから仕方がない。少年が大剣を振ると男が放った弾丸は粉々になって塵となり消えたのだから。


「ッッッッ!!!」


 男はその光景を歯軋りをしながら見た。見たと言っても一瞬の出来事であるから、男の目がとらえた光景が脳には伝わってはいない。だが、今起きた現象を理解する前に本能が働いたのだろう、危険を察知した男はまた弾丸を放った。


 一発……二発……カチ、カチ……


 銃の弾倉には弾が無くなった。


「ち……ちくしょう!!」


「ハァッ!!!」

 少年がまた大剣を振り、放たれた弾丸が消える。


「俺か……俺はッ!!」


「はぅ………ひぃぃい……」

 男は慌ててジャケットの右ポケットに右手を突っ込んだ。ガチャガチャと音が鳴る。どうやら、弾丸のストックがそこに入っているようだ。


 でも、男が弾倉に弾丸を籠める時間はない。少年が男の目の前に立ったのだ。


「正義の心でぁくを斬るッ!!」


 少年は啖呵を切るような口調で叫びながら、大剣を左から右へ振り上げ、剣先で男が持つ銃をその手から弾き飛ばした。


 男は「あっ……」と声を漏らして、宙を舞う銃を見た。


 その隙に少年は、素早く左腕を自分の胸の前に持ってきて腕時計の文字盤を少し右側に傾く形に構えると、右手に持つ大剣からパッと素早く手を離し、一瞬にして逆手に持ち変えた。

 そして、大剣の剣先を文字盤に当てると、目映い光を放ちながら文字盤が開いた。すると、またまた不思議な現象が起こった。巨大な大剣がスルスルと文字盤の中に消えていったのだ。


 少年が大剣の柄まで仕舞い終わると、再び文字盤は閉じた。


 しかし、男は今目の前で起こった出来事に気付いてはいない。何故なら、全ては一瞬の出来事だったから。男はまだ飛ばされた自分の銃を目で追っている。今はまだ、男の銃が地面に落ちようとしているところ。


 カラン………


 今やっと、銃は地面へと落ちた。


 その時、少年は左手で男の胸倉を掴んでいた。その事にも男は気付いていない。ただ地面に落ちた銃を唖然とした表情で見詰めるだけ。

だから少年の動きに反応出来ない。


 少年は男の胸倉を掴むと、『グッ!!』と自分の体の方へ引き寄せた。男の顔の位置を自分の狙いが定まる場所へと持ってくる為だ。


「赤い正義ッッ!!!」


 そして、男の顔が絶好の位置までくると少年は男の胸倉からすぐに左手を離し、右手で拳を作った。そのまま右上半身を大きく仰け反らせて、今から豪速球を投げるかの様に拳を振り上げる。


 ここからは更に一瞬だった。


 少年は『ダンッ!!』と地面を鳴らして左足を一歩前に踏み込むと、拳を男の顔面目掛けて振り下ろした。

 少年の拳は風を切って飛んでいく。


「あ………!」


 胸ぐらを掴まれた事にようやく気付いた男は反射的に正面を見た。だが、気付いた時にはもう遅い。男の視界に入ったのは猛スピードで向かってくる少年の拳。それはまるで砲丸だ。




 ドゴンッ!!




「ガキセイギッッッッッ!!!!!」


 強烈な一撃が男の顔面にメリ込んだ。


「ッッッッッ!!!!!」


 男は言葉を発する事も出来なかった。

 一発KOでフッ飛んだ男は、背後の壁にぶつかり、膝をついて前のめりに倒れた。


「それが俺の、戦う時の名前だよ」


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