第22話 丘頭桃子警部の捜査(その6)
高校1年生の椋と中学を卒業したときの椋の写真二枚をじっと見ていた。
そのことと、何故、鳥井唯が舛上椋と佐音綱紀の赤ん坊の写真を残したか? を考えていた。
佐音綱紀の住民登録は出生時から変わっていなかったが所在不明。今だと33歳になるはずだった。小学校、中学校のどこにも佐音綱紀の名前は見つからなかったと調書には記載されている。
しかし、今回の捜査で17年前だから姫香殺人事件の2年後、浅草鴨井高校の新入生名簿の中にその名前を見つけたが、本人の現在の所在も分からないし、一度も会えていなかったので是非会いたいとも思った。
海陽の事件から2週間が過ぎていた。
綱紀の情報を伝えるために浅草の有名店の串団子を手土産に持って一心の探偵事務所を訪ねる。
事務所の中は静かで人のいる気配がなかった。
「こんちわ~」事務所の奥の自宅に通ずるドアを開けて叫んでみた。
「へ~い」静の声が遠くに聞こえた。
「丘頭よ~ 皆出かけてるの~?」叫ぶと、静が三階から下りてきて「へえ、佐音綱紀はんを探しに学校とか各自思い思いに走り回っとります」と言う。
「そうか、警察も綱紀を探そうとしてるんだけど」
写真を応接テーブルに並べる。
「これは、浅草鴨井高校に入学したときの綱紀の写真と、こっちは舛上椋が浅草橋第七高校に入学したときの写真なんだ」
さらに写真をバッグから出して並べる。
「それと、これが中学3年生の舛上椋の写真」
「あら、中学生の椋はんと高校生の綱紀はん、同じ人にみえますな……どういうこっちゃろ?」
「それで、以前、誘拐事件の時美紗が高速通路の監視システムの映像と、手元にあった写真とを照合して容疑者を見つけたでしょ。そのシステムでこの二枚の写真を照合してみて貰えないかと思って来たんだけど」
「ええけど、でも名前違うし別人やろと思うけど、美紗に話してみますわ」
静はちょっと席を立って自室に姿を消し、程無く戻ってきた。
「桃子はん、美紗がやってみるけどシステムの修正が必要なのでちょっと時間がかかると言っとりますがよろしおすか?」
「あ~、頼むわ。人がなんぼ同じじゃないかと言っても根拠にならないから、そういう実績のあるシステムだと上層部も信用するのよ」
「せやけど、高校生の綱紀はんが中学生の椋はんと同一人っていうことは、どういうことになるんでっしゃろ?」
「さぁ……そうそう、いつもの串団子食べましょ」丘頭警部はソファに置きっぱなしにしていた団子を応接テーブルに置くと、静がお茶を用意する。
二人でぱくついていると、美紗が帰って来た。
「こんちわ~、やぁ~疲れた。佐音綱紀なんて何処にもいないわ。丘頭警部さんの依頼の方を先にしようと思って帰ってきた」
美紗は素早く串団子を銜えている。静はスッと立ち上がりお茶を用意した。
「サンキュ。この二枚の写真を照合すれば良いんだな?」そう言って写真を手にし、丘頭警部の顔を見ながら呟く。
「時間、かかりそう?」
「ん~、照合ポイントを何処にするかと、子供は成長するから同じように見えて少しは大きくなっていると思うんだ。だから、その比をどう設定するか部分的にその比も違ってくるからさ。結構難しいんだ」
とは言うものの、難題好きの美紗は嬉しそうに見える。そして団子を銜えニコニコしながら写真を持って自室へと姿を消した。
「桃子はん、綱紀はんが中学まで何処にもいーへんという事は、海外へ行きやしたか、別名で暮らしはっていやしたかやおまへんか?」
「そうねぇ、日本国内にいて監禁でもされていない限り学校へ行かないなんて考えられないもんねぇ。未就学児がいたら役所などで把握し、私らにその情報は伝わってくるはずなのよ」
「別の名前で海外にでたらどうでっしゃろ?」
「舛上椋という赤ん坊が二人いて、片方はパスポートを取得していたら海外へ行きっぱなしってこともあり得るかもだけど、どうしたらそうなるのか考えられないわ」
「それにしても、美味しい団子どすなぁ」
「でしょう、お土産だけど自分が食べたいから買っちゃうのよ、ふふふ」
「いつもこうてもろうばかりで、すまんこっちゃ」
「それにしても、今回の殺人事件の容疑者が多過ぎるのに、輪をかけて分からないことも多過ぎる。静のとこの力借りんとホント解決難しいわ」
「あらあら、いつも元気な桃子はんが珍しいどすなぁ。それだけ難解な事件ちゅうこってすかいなぁ。桃子はん、おきばりやす。あてらもできるだけのことはしますさかい、な」
「あ~、ありがとう。静と喋ったら何か元気になった気がするわ」
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