第15話
今、僕はかつて無いほど危機的な状況に晒されている。
僕の視線の先には白い肌を露出させてタオルを体に巻いた瑠璃が立っていて、僕は自分の心臓の音が大きくなっていくのを感じる。
「ちょ、ちょっと?!!なんで入ってきたの?!」
「以前は一緒に入っていたではありませんか。今日も私はお兄様と一緒に入りたいのです。」
「い、以前って、5年前でしょ!?とりあえず後ろ向いて!!!」
「もう仕方ないですね。」
なんで僕が呆れられてるんだろう。瑠璃は5年前よりも随分とスタイルがよくなっているので本当に目のやり場に困ってしまう。それより今は早く瑠璃を浴室から出そう。
「瑠璃、いいかい、僕らはもう成長した兄弟なんだ。そんな二人が一緒にお風呂に入ったらまずいってことくらいわかるよね?それに———」
考えれば考えるほど僕の口からは建前がスラスラっと出てくる。
「————ってことで僕は出るからね!」
「ダメですよ。お兄様は疲れているのです。ゆっくり私と一緒に入って癒されてください。」
癒されるどころか脳がショートするんだけど!?
え、ちょっ、おかしいなぁ....瑠璃は浴槽に浸かっている僕の肩に軽く手を置いている。
全く力を込めているように見えないのに立ち上がることすらできないんだけど...。本当にびくともしないんだけど?!そんな細い腕してるのに見た目からは想像できないほど強い力が強いのか。
「じゃあ、私も入りますね。」
本当に入ってきた!?
「……ふわぁ…これは気持ちがいいですね。」
本当に入ってきた?!待って!抱きついてこないで!折角肩から手がいなくなって出れると思ったのに!や、焼き切れてしまいそうだ。落ち着け、僕、とりあえず頭を落ち着かせよう。そうだ、素数を数えよう。
2.3...5....7...11......。
「……んっ…」
そんな声出さないで!?せっかく落ち着いてきてたのに精神が崩壊寸前になるから!
瑠璃は湯船に髪がつからないように後ろで髪をまとめる。そして再び抱き締めている。な、何かここを脱出する案を考えないと...。
あっ!!
「ぼ、僕ちょっと体洗いたいから湯船から出たいなぁ。抱きついている手を離してほしいなぁ、なんて思うんだけど。」
「それなら仕方ないですね...。」
完璧だ。体を洗っていれば密着することはないし、洗っている間は意識を自分に向けれる。残念そうに俯く瑠璃には少し申し訳ないがここは我慢してもらおう、でないと僕が死んでしまう。
「では次は洗いあいましょう。」
oh......僕には救いがなかったようだ。
こうして僕は精神が焼き切れんばかりの長い地獄の沙汰を耐え、ようやく風呂場から帰還した。何故か戦いから帰ってきた勇者の気分でお風呂に入る前より疲れている点を除けば、普通の人からしたらご褒美なのだろうか。
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あとがき
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次回からダンジョン回ですっ。
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