最終話 決戦・魔獣大氾濫から王都を救え その⑨

 最終話 その⑨





『いつまでくっ付いてるつもりですかミソラ!!さっさとベルフォードから離れなさい!!』

「ふふふ。ツキさんの言葉は聞こえないけど、何を言ってるかは手に取るようにわかるわ」

「そう思ってるなら離れてくれないかな……」



 ホーンラビットの群れを倒したあと、俺たちは最大規模の魔獣の群れが確認出来た場所へと向かっていた。


 ミソラが遠見の魔法で魔獣の群れを確認したあと、減った魔力を補充する。という名目で俺の腕を抱きしめたまま歩いていた。


『リーファが居ないからと言って油断をしていました!!やはりこの女も警戒しなければならなかった!!一生の不覚です!!』

「……あはは。本当に、こんなんで大丈夫なのかな」

「ふぅ……これで少しは回復したわね。それじゃあここから魔法を放つわね」


 ミソラはそう言うと、俺の腕を解放した後少し離れた位置で魔法杖を構える。


『……え?こんな場所から魔法を撃つんですか?まだ対象まではかなり距離がありますよ』

「このくらい離れてないとミソラの魔法の余波が危険だからな」

『……い、一体どんな威力で魔法を撃つつもりなんですか』


 まぁ、見てればわかるよ。

 俺はその言葉を飲み込んで、ミソラの足元に描かれた巨大な魔方陣に視線を送る。


 古代魔法 『神の怒り』


 全ての魔力を込めて放たれるその魔法は、ミソラの家系に代々受け継がれた魔法だ。

 彼女はこんな危険なものはもう継承するつもりは無い。と言っているので見納めかもしれないな。


 そんなことを考えながら彼女を見ていると、魔法の詠唱が終わったようで彼女の杖から膨大な魔力が解き放たれる。


「吹き飛びなさい!!古代魔法 神の怒り」

『んなああああああああああああぁぁ!!!???』


 ここから五キロは離れている場所で炸裂した魔法の余波が、俺たちの居る場所まで届いてきた。


『な、なんでこんな女が人間やってるんですか……』

「あはは……」

「はぁ……本当に疲れたわ。遠見の魔法具で確認したけど殲滅は完了したわ」


 魔法具で確認したミソラはそう言うと、俺の身体をギュッと抱きしめる。


「後はよろしく頼んだわよ、ベル」

「了解だ。寝てて構わないぞ、ミソラ」

『ふん。まぁ……今回だけは特別ですよ』


 これで俺たちの役目は終わりかな。なんて思っていた時だった。


 俺たちの目の前に、転移の魔法陣が描かれた。


「転移の魔法陣!!??」

「この魔力の質からして人間のものでは無い!!」

『き、来ます!!最大限に警戒していきます!!』


 警戒レベルを一気に最大まで引き上げた俺達の目の前に、魔法陣から一人の女性型の魔族が姿を現した。


『……ふむ。スタンピードの結果が芳しく無かったからな。様子を見に来て正解だった』


 深紅の髪の毛を腰まで伸ばした女性型の魔族は、俺とミソラを見て小さく笑った。


『なるほど。貴様が剣聖ラドクリフ。そして隣に居るのが殲滅の魔道士ミソラだな』

「俺たちのことを知ってるのか……」

「殲滅の魔道士なんて呼び名は久しぶりに聞いたわよ」


 その言葉を受けた魔族は笑みを浮かべたまま言葉を返す。


『人間界でも有力な個体は警戒するようにしている。中でもお前たちは我々の中でも上位のレベルだ』

「喜んでいいのかわからないな」

『くくく。剣聖ラドクリフよ誇るが良い。我々が名前を覚えるのは相当な事だぞ』


 魔族はそう言うと、腰に携えた剣を引き抜いた。

 この魔族は……剣士か。


『我が名はサリン。剣聖ラドクリフよ手合わせ願おうか』

「良いだろう。俺が勝ったら王都から手を引いて貰えないかな?」


 俺がそう言葉を返すと、サリンと名乗った魔族は首を縦に振った。


『構わない。それでは剣聖ラドクリフの剣。私に見せてみろ!!』

『ベルフォード!!この女はかなり強いです!!それに、手にしている剣もかなりの業物です!!』

「わかってる!!最初から全力だ!!」


 俺は鞘から月光を引き抜くと、そのまま終の型を発動させる。

 狂い月の夜を使わずに戦えるような相手では無い!!


 もしかしたら『その先』の使用も考えないといけないな。


「守護の太刀 月天流 一の型 三日月の舞!!」

『滅殺の太刀 奈落流 じょの型 冥界めいかいへのいざない


 俺の振るった月光とサリンの剣がぶつかり合い、甲高い音が辺りに響く。

 剣速は互角。膂力も終の型を使って互角。

 そして、武具の性能も互角と見た。


『やるな、剣聖。私の一太刀目を防げる者は魔界でもそうは居ない』

「ははは、それは光栄だな」


 俺がそう答えるとサリンは小さく笑みを浮かべる。


『だからこそ惜しい。あと十年早く出会いたかった』

「……え?俺口説かれてるのか?」


 俺の言葉にサリンが笑う。


『ははは!!面白い男だ。今のは『衰える前に』出会いたかったという意味だよ』

『……ベルフォード。貴方は魔族までハーレムに加えるつもりですか?』

「そ、そういうつもりは無いんだけどな」


 冷たい言葉を放つツキに、俺はそう言葉を返す。

 と言うかやっぱり衰えは感じるよな。

 サリンに言われたセリフに、やはり引退して正解だったとは思ってしまうな。


「まぁでもそうだな……歳をとったからこそって部分を見せてあげようかな」

『ふふふ。なるほどそれは興味深いな』


 サリンはそう言うと、再び俺に向かって距離を詰める。

 まさに閃光とも呼べるその速度。

 瞬きすら許されないな。


『滅殺の太刀 奈落流 の型 焦熱地獄しょうねつじごく


 剣に漆黒の炎を纏わせて、サリンは俺に向けて振り下ろした。


「守護の太刀 月天流 八の型 鏡花水月きょうかすいげつ

『……な、何が起きた』



 サリンには漆黒の炎を纏った剣で俺を斬り裂いた。

 そう言う幻影が見えたはずだ。


「それは君が見た『幻』だよ」


 彼女の背後から俺がそう言うと、サリンは驚愕した表情で言葉を放つ。


『ば、バカな……確かに貴様を斬り裂いた手応えがあったぞ』

「それは君が『優れた剣士である』という証明だな。実力が高い剣士ほどこの技にハマる」


 八の型 鏡花水月は刀気を使って幻影を生み出す技。

 相手の刀気の流れを読んで戦う優れた剣士以外には効力を発揮しない技だ。


「さて、これは俺が二年ほど前に生み出した技だ。十年前では使えなかったかな?」

『ははは。先程のセリフは取り消そう、剣聖ラドクリフ。貴様は今でもとても魅力的だよ。魔界で貰ったどんな口説き文句よりも心に来た』

『……困りましたね。またライバルが増えそうです』


 ……魔族にまで手を出そうなんて思ってないから。


『さて、それでは剣聖ラドクリフ。この素体に込めた魔力がそろそろ切れそうだ。決着をつけさせてもらおう』

「……え?」


 素体に込めた魔力?一体何を言ってるんだ。

 だが、そんなことを気にしていられるような状況では無いと本能が告げている。


 目の前のサリンからは、とんでもない量の魔力と刀気が解き放たれる。


『これが私が今出せる全力だ!!奈落流の奥義で持って貴様を殺す!!』

「良いだろう!!俺も奥義で持ってそれに応えよう!!」

『私も全力です!!ベルフォードには傷一つつけませんからね!!』


 そして、俺は終の型の『その先』へと歩みを進める。

 この世に存在する力では無い力。顕現させては行けない物を『外の世界』から引っ張ってくる。


『滅殺の太刀 奈落流 奥義!!阿鼻叫喚地獄!!』

『螳郁ュキ 縺ョ螟ェ蛻 譛亥、ゥ豬 螂・鄒ゥ 螟ゥ貅譛』


 俺の振り下ろした月光は、サリンの剣を紙切れのように切り裂き、その身体も両断した。


『……くくく。外の世界の力か。まさか『あの方』以外にも顕現させる者が居たとは』


 致命傷。喋ることすら出来ないようなキズを負いながらも、サリンは笑みを浮かべながらそう言葉を放つ。


『次会うときはこんな素体では無く、本体でやり合おう。それではさらばだ剣聖ラドクリフ』


 サリンはそう言い残すと、バタリとその身体を地面に倒した。


「はぁ……何とかなったな……」


 サリンの身体から戦闘能力が失われたことを確認した俺は、終の型を解除して小さく息を吐いた。


『お疲れ様でした、ベルフォード。とてもかっこよかったですよ!!』

「あはは……ありがとうツキ」

「ちょっとベル!!最後のアレは何よ!!??」


 ははは。やっぱり見逃してくれなかったな。

 ミソラのセリフに俺は軽く笑いながら答える。


「外の世界の力。この世には現存しない力を無理やり顕現させて行使した感じだな」

「ちょ……ちょっと理解が出来ないわ……」


 ミソラがそう言うと、月光が光り輝きツキの姿へと変化した。


「まぁ、私だからこそ振るえる力でもありますね。ただの武具であの力を行使したら消滅しますから」

「そ、そんなものを使ってたのね……」

「まぁそれほどの相手だったからな……」


 そして、俺は動かなくなったサリンの身体へと近寄る。

 その身を調べてみるとわかる事があった。


 魔族とは何回か戦ったことがあるが、やはりその身体とは違う物だった。


「それに、どうやら向こうは本気じゃなかったみたいだしな。ほら、普通の魔族の身体じゃない。これは作り出された物って感じがする」

「あれで本気じゃないって……本当に魔族はとんでも無いわね……」


 俺は素体と呼ばれていた身体を回収袋にしまい込む。


「さて、色々話したいことは他にもあるけど帰ろうか。ここで話すよりはギルドで話し合うことにしよう」


 そう言って俺たちは王都へと帰った。





 これがただのスタンピードでは無く、王都を襲う数多くの事案の始まりだと言うことをこの時の俺はまだわかっていなかった。





 最終話 決戦・魔獣大氾濫から王都を救え



 ~完~



 エピローグへ続く

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