第十話 ~謁見の間でリーベルト国王の前で愛妻の紹介をすることになった~

 第十話





 扉を開けて謁見の間に入ると、王座には国王のリーベルト様が鎮座していた。そして、その隣には王妃のサファイア様が寄り添っていた。


 夫婦仲は良好との話の通り。仲睦まじい距離感だと思えた。


 リーベルト国王は非常にやり手の人間で、彼がその座に着いてからの国の景気は非常に良好。

 また、関係が悪化していた隣国との関係も改善するなど、功績を数えたらキリのないレベルの人だ。


 そんな国王からの呼び出し。

 一体何を話されるんだろうな。


 まずは『世間話』から始めるとするかな。


 国王の前まで歩いて行った俺は、軽く一礼だけした。


 堅苦しい挨拶や、礼を嫌う国王。この程度の済ませて欲しいとは兼ねてより言われていたからだ。


 俺はそういった行為は全て省いた上で彼にそう話しかけた。


「リーベルト国王におかれましては、壮健そうで何よりです。夫婦仲も相も変わらずで安心しました」

「ははは。ありがとうベルフォード。それと、突然呼び出して悪かったな」

「いえ、お気になさらずに。冒険者を引退した身でございますので時間だけは持て余しております」


 俺が軽く冗談を交えてそう言うと、リーベルト国王は笑ってくれた。

 そして、俺は以前国王から頂いた緑茶のお礼をすることにした。


「以前頂いた隣国特産の緑茶は美味しく頂いておりますよ。ありがとうございます」


「そうか。それは良かったよ。ちなみに私が君に渡した緑茶を使って女性を口説いていた。という話が耳に入ってきているが、それは本当かなベルフォード?」


『今の話はどういう意味ですか?ベルフォード。詳しく話をしてください!!私は今冷静さを欠こうとしていますよ!!』

『ははは。そんな変な話じゃないから安心してくれよ、ツキ。自宅に来たミソラとリーファにお茶を出しただけだよ』


 頭の中でかなり声を荒らげているツキに、俺は少しだけ苦笑い混じりに言葉を返す。

 ただ、俺は冗談で国王がそう言ったというのがわかっていたので、こちらもその意思で言葉を返すことにした。


「そうですね。リーベルト国王から頂いた緑茶のお陰で結婚活動が上手くいったと言っても過言ではありませんね」

「ははは!!婚活のために冒険者を引退した。と聞いているが、どうやらそれは本当のようだ」


 まぁ……それだけが目的じゃないんだけどな……


 そう思っている俺に、リーベルト国王は言葉を続けた。


「それで、ベルフォード。結婚相手は決まったのかね?」

「はい。お陰様で『二人の女性』から結婚の打診を頂くことが出来ました。ガルム王国では重婚を認めていただいている。そのことを感謝したのは、三十五年の人生の中で初めての経験ですね」


 俺がそう答えると、リーベルト国王は軽く目を見開いた。

 ……国王がこうして感情を表に出すのは非常に珍しい。


「……二人の女性。一人は君のパーティメンバーで、秒読みとも言われていたリーフレット・アストレアで間違いないだろうね」

「そうですね。秒読みという話は初めて聞きましたが。昨日。彼女と結婚を決意しました」


 俺がそう答えると、リーベルト国王は少しだけ思案しながらもう一人の名前を口に出した。


「そうすると……もう一人はうちの娘のスフィアが勇気を出したのかね?」

「スフィア王女ですか?いえ、違いますよ」


 なんで彼女の名前が出るのだろうか?


 嫌われてはいないとは思っている。

 そう、兄のように慕われているという感じだろうな。

 俺にとってもスフィは『可愛い妹』のような感じだからだ。


 ……手のかかる妹の間違いかもしれないが。


「そ、そうだったのか。そうすると相手がわからないな。ベルフォードよ。差支えが無いなら教えてくれないか?堅物の君を落としたもう一人の女性を」


 なるほど。ここまで言われたのなら仕方ないな。

 リーベルト国王の人柄なら、ツキの事を言いふらすようなことも無いだろうし。


『なぁ、ツキ。人としての姿になってくれないか?お前を俺の『妻』として紹介したい』


『婚約者』では無く『妻』と表現したのは意図的だ。

 彼女はきっとそう呼ばないと拗ねてしまうと思ったからだ。

 それに、俺としてもツキと結婚することは確定事項だしな。


『はい!!私はベルフォードの妻ですからね!!夫の為なら何でもします!!』

『ははは……ありがとうツキ』


 そんなやり取りを経て、ツキは人の姿になることを了承してくれた。


「もう一人の妻ですが、もう既にここに連れて来ています」

「ど、どういう意味かね、ベルフォード?」


 俺の言葉に、リーベルト国王は驚いた表情を浮かべる。

 ははは。国王には悪いけど、もう少し驚いてもらおうかな。


「ツキ、出ておいで」

『はい!!』


 ツキはそう返事をすると、刀の姿から人の姿へと変えた。


「お初にお目にかかりますリーベルト国王。ベルフォード・ラドクリフの妻のツキと申します。以後よろしくお願いします」


 ツキはそう言うと、目を見開いているリーベルト国王に向かって恭しく礼をした。


 さぁ、どうやって説明していこうかな。


 俺は心の中でそう思いながら、この後のことを考えていった。

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