第53話 二度目の案件動画も身内だった件 その3
「少し勝てるようになってきました。
やっぱり格ゲーはチマチマと削るに限りますね」
「だー…。ハメ殺しやめてくださいよぉ…。
……あれ?先生、もしかして結構ゲームやってた?」
「嫁たちに付き合わされてました。
地区大会にも出たことありますよ。
その地区大会、逃げてきた銀行強盗が押し入ってきて中止になりましたけど」
「やだ。作品も地獄だしリアルも地獄」
コメント:探偵ものの主人公かな?
コメント:↑両親の職業的に転がり込まれる家の方だぞ。
コメント:こんな地獄見てきたら、そら普通のクソ重境遇の地獄じゃ満足せんわ。
コメント:だからってあの鬼畜展開の連続は無いと思うの…。
コメント:先生、操作に慣れてきたら結構上手いんやな。
コメント:途中でコンボ途切れてたぞ。
コメント:ハメるなら隙与えんな。
コメント:あのハメ技、何フレに見えた?ワイは2フレ。
コメント:ワイは2フレ。
コメント:3フレ。
コメント:3フレ派。
コメント:2フレ。
コメント:↑キャラゲー案件にガチっぽい格ゲーマー湧いてて草。
ランク対戦とかあるのかな、これ。
あの漫画に格付け制度みたいなの無かったけど、どうするんだろうか、などと思いつつ、僕はキャラ選択画面へと戻る。
時間的にも一時間半は過ぎているし、あと30分くらいしたら配信を切り上げようか。
流石に、延々とキャラの紹介と格ゲーをこなしていくのも疲れてきた。
「次、どうします?
私はやっぱり…、ラスハンと言えば、コイツがいなきゃ始まらないだろー!
『もう殺してやれ』の代名詞、主人公のジョーカーくん!!」
「言い得て妙ですね。
絶対に死ねない立場なのに」
「そういうメタ的な意見どうなんです?」
「いえ、物語の主人公云々じゃなくて。
元々は殺す予定だったらしいんですけど、『生かしといたほうが苦しむか』と判断されて生かされた主人公ですしねぇ」
コメント:コイツ、惚れた女全員死んでるからな。
コメント:なんなら、親友になったやつも片っ端から死んでる。
コメント:いまい先生の癖が全部詰まったキャラとか言われるだけある…。
コメント:これだけ身近な人に死なれて、心ブッ壊れないのすごいよ…。
コメント:いまい先生、生き地獄作るの上手すぎない?
コメント:↑そりゃ、リアルの生き地獄見てた人だし。
死んだほうがマシなことって、マジにあるからな。
嫁と義妹はまだ、家族という逃げ道があったから良かった。
常連の奴も、歌という逃げ道があった。
その逃げ道がないのなら、もう死ぬしかない。
本気でそう思えてしまう人がいるということを、僕は嫌というほど知っている。
…少しブルーな気分になってしまった。
僕は気持ちを切り替えるように、使い古されたような縦ロールのキャラクターを選ぶ。
「コッテコテの縦ロールですね。
名前は確か、『フレス』でしたっけ。
妹にしては珍しいキャラデザですね。
キャラ被りが起きやすいデザインは避けてるそうなんですが、なんでこうなったんでしたっけ…」
「モデルになった人が『わたくしをモデルにするのなら、縦ロールにしてくださいまし!』って主張したそうですよ」
「アイツのことだから、要望あっても半端なくダダこねそうなもんですけど」
うずま いまい:兄ちゃん、もうちょっと気を遣って。私のイメージ崩れる。
コメント:↑本人来てて草。
コメント:公式垢ほんま草。
コメント:忘れてるみたいだからいうけど、これ案件だからな?
コメント:ハッ…!?
コメント:忘れてた…。
コメント:むしろ来ないわけがなかったわ。
コメント:そんな中で妹の黒歴史を容赦なく暴露してくスタイルなのホンマすこ。
ネットでもそのままの性格を晒してるのに、今更なんのイメージが崩れるというのか。
編集さんの意見フル無視して描いてるの、知ってるんだからな。
そんなことを思いつつ、僕は記憶を探る。
お嬢様口調で妹にそんなことを頼むのは、1人しか思い浮かばない。
「モデル、義弟の妹ですね。
蝶よ花よと可愛がられた結果、あり得ないほど高飛車になっちゃった、歩く承認欲求です。フタリさんの姪っ子でもありますよ」
「……えーっと、家庭環境が複雑すぎてよくわかんない…」
「義弟の家族構成をざっくり説明すると、元ヤクザ、それと結婚したフタリさんのお姉さん、拾われた義弟、夫婦の間に生まれたその子の4人家族ですね」
「先生の妹さん、その家庭に嫁入りしたんですよね?胃もたれしそう」
「僕でも盛りすぎだと思います」
「先生が1番言っちゃダメな気がする」
うずま いまい:そこに私のお腹にいる赤ちゃんが入るわけだね。
コメント:ファっ!?!?
コメント:先生のご家庭は地獄の大渋滞だけど、こっちは属性の大渋滞だぁ…。
コメント:いまい先生、妊娠してんのに週刊連載抱えてんの…?
コメント:頼むから産休入って…。
コメント:妊娠してるのに短編で子供が悲惨な最期を遂げる話を描くの、はっきり言って人の心がないと思うの。
そんな話描いてたのか。ここ最近は読んでなかったから知らなかった。
…僕ら夫婦にもそれなりにダメージあるな。
次に会ったら文句を言ってやろう。
そんなことを思いつつ、僕らは対戦画面へと進んだ。
「……なんというか、先生って起業しても大成功しそうな人脈ありますよね」
「ただでさえいっぱいいっぱいな僕を更に危機に巻き込みたいと?」
「ごめんなさい」
迂闊な発言はしないほうがいいぞ。
見ろ。今のでコメント欄がちょっと荒れてるし。
その後、コトバさんのSNSが少し荒れたのは、言うまでもない。
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