第118話 調査隊、出撃
「ではこれより班を三つに分けます。それぞれ島の中央と両岸を進んでいき。対岸にて合流します」
とストラによる班分けが決まったのが今より一時間ほど前。
それぞれの班は暑さの原因を探るために行動を開始していた。
「……で。今回も俺は中央の森ルート」
「文句を言うな主」
与人のボヤキに対して呆れたように窘めるのは先陣を切っているリントであった。
眼下に広がる木や草を普段は隠している尻尾で薙ぎ払いながら突き進むリントの背中を見ながら、与人は何度目か分からない森にため息を吐きそうになる。
「警告。マスターの気分が下降傾向です。大丈夫ですか?」
「ほっときなさいよ。一々気にしてたらこっちが持たないわよ」
与人の心配をするセラに対し、ライアはどうでもいいと言わんばかりの態度であった。
実際与人としても別に構ってもらおうとは考えていないためそれでも良かった。
「ですが主殿の身を考えればこの場所はかなり不安が残ります。気を付けなければなりません」
「旦那様の身の安全の為にこのメンバーな訳ですし、このメンバーならば大抵のアクシデントには対応できると思いますよユフィさん」
森というフィールドに対して不安を口にするユフィに、カナデがそれをかき消す言葉を口にする。
以上六名が中央である森を突破するルートのメンバーであった。
どのような状況であろうと対応できるだけの能力をもったメンバーが選出されていた。
この選出に文句(主にアイナ)も出たが、ストラの口に勝てる訳もなく受け入れたのであった。
(……とりあえずアイナには後でフォローをしておこう)
今も文句を言い続けてるに違いないアイナと、それを宥めているメンバーに後で何かしてあげようと与人が考えていると先陣を切り開いているリントが立ち止まる。
「一度休憩だ。戦術本からこまめに休憩は取るようにと指示が出ているからな。それでいいか? 主」
「勿論。いくら魔法で涼しいからって言っても体力は消耗するしな」
そう言っているとそれぞれに休憩を取り始める。
この辺りにもモンスターはいるはずではあったが、リントたちとの力の差を感じ取ってか近づくものはいなかった。
「楽器。いまの所は何も無いんだな?」
「はい。生き物の息遣いは聞こえますけど、いずれも原因とは思えません」
「疑問。そもそもこれだけの熱気を出せる要因とはいったい何なのでしょう」
休憩を利用して報告をしあっているが、未だ原因は分からずであった。
するとライアが手を叩いて中断させ、注目させる。
「分からない事言い合っても埒が明かないでしょ。他の班だって調べてるわけだし、こっちはこっちで仕事するわよ」
「同意します。今は情報を収集する事に集中しましょう」
「……そうだな。まだ少ししか調べてない訳だし、議論するには早いよな」
ライアの意見にユフィが同意し、与人もそう言いだしたため報告会は一気にお流れとなった。
するとリントが何かを思い出したように口を開く。
「おおそうだ。主にこれを機会に聞いておきたい事があった」
「ん? 何?」
「主は結局どんな女が好きなんだ?」
「「「「ブッ!?」」」」
リントのとんでもない質問に対して、与人だけではなくライアやカナデたちも飲んでいた水を吹き出す。
唯一反応を示さなかったセラも、その表情は驚愕に包まれていた。
「な、なな! アンタいきなり何聞いてるのよ!」
「そう驚く事か? 主も何も木から生まれた訳でもあるまい。好みの一つや二つぐらいあるだろう」
「そ、そうかも知れませんが。タイミングというものを考えてください」
口に出して文句を言い出すライアやカナデ。
ユフィも口にはしてないが、目で苦情を叩きつけていた。
だがリントは気にした様子もなく、逆に質問し始める。
「じゃあお前らは主の好み、気にならない訳だな」
「「「「……」」」」
「え? そこで皆で黙るの?」
突然黙り込む全員に困惑を隠しきれない与人。
裏切られた気分になりつつ、与人は脳内を駆使してこの場から脱出する術を考える。
好みのカミングアウトなど、与人には耐えきれそうになかったからだ。
無言の圧が強まっていく中、とにかく時間稼ぎをしようと与人が口を開こうとした時であった。
何かの雄たけびが全員の耳に轟いたのは。
「! カナデ!」
「大型のモンスターのものです! それ以外は雑音が酷くて」
「どうやらここが当たりだったようだな。この先だ、進むぞ」
再びリントが先頭に立ち、声がした方に向かっていく一同。
そんな中で与人は、声の主に心の中で感謝したのであった。
あとがき
今回はここまでとなります。
多くの学校が夏休みに入り、社会人にも夏休みが欲しいと常々思う日々です。
最近になって少しづつですがSNS活動を再開し始めたので、よければ覗いてみてください。
ではまた次回にて、よろしくお願いいたします。
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