第26話 喧嘩するほど仲が……どうだろう

  パラケスより少し離れた森の中、アイナとランは距離を取り向かい合っていた。


「……」

「……」


 二人の間に会話は無く他人が見ても緊迫しているのが分かる。

 そこから少し離れたところにリントと途中で合流したセラがいた。


「どう思うゴーレム。まともに戦った場合どっちが勝つか」

「不明。アイナ氏の実力は見させて貰いましたが、ラン氏の実力が未知数です。弱いという事は無いでしょうが」

「まあそうなるか。……さてそろそろ始めるか」


 リントは二人に近づきこの対決の簡単な説明をする。


「二人ともいいな。説明したが治せないような傷を負わせない事、そして負けても遺恨を残さない事。それを守れば後は自由にやれ」

「はい」

「分かってる」


 リントの説明が終わるタイミングで二人は自分自身のコピーを作り出し構える。

 その目には明らかに相手しか映っていないようである。

 その様子にリントはため息を吐きながらも開始の合図を始める。


「はぁ。では……始め!!」


 その声が聞こえると同時に飛び出したのはランであった。

 まるで飛ぶように一気に距離を詰めると身の丈以上の槍を突き出す。

 常人であれば何が起こったかさえ分からないであろう一撃、それをアイナは見事に反応して見せた。

 繰り出される突きを剣で防ぎ逸らすとすぐさまその隙を狙い剣を振り上げる。


「っ!!」


 必殺となりかねないその一撃をランは槍を突きと同様凄まじいスピードで引き戻し防いでみせる。


「!!」


 その反応には驚いたのかアイナは一度距離を取る。

 ランも追いかけるような事はせず二人は再びにらみ合う。


「ほう……」


 リントが感嘆するような声を上げる横でセラは冷静に分析していた。


「推定。現時点ではテクニックはアイナ氏、スピードはラン氏といったところでしょうか」

「そうだな。これはそう簡単に決着は付きそうにないな」


 しばらくにらみ合いが続く両者であったが場を動かしたのは先ほどと同じくランであった。


「ハァ!!」


 一撃では不利と感じたのか今度は連続の突きを繰り出していく。

 その凄まじい突きは残像も含めまるで何十本も槍があるように見える。


「っ!」


 それに対しアイナは冷静に迫り来る突きを一つ一つ弾いていく。

 セラにスピードでランに分があると評されたアイナであったが、負けず劣らずの速度、そして技術で弾きその身には傷の一つも無い。


「! そこ!!」


 そしてランの一瞬の隙を狙い今度はアイナが責め立てる。

 距離を詰めるとお返しとばかりに剣撃の嵐をお見舞いする。


「やばっ!」


 思わずそんな声が漏れてしまったランであったが剣撃の嵐を槍で防いでいく。

 だがアイナと違い小回りの利かない槍である為かその体に軽度であるが傷が付き始めてきた。


「このぉ!!」


 大きく吼えたランは一度大きく剣を弾くとまるで棒高跳びの状態になる。


「なっ!?」


 アイナが動揺しながら剣を振るうがランは槍を持ったまま遠くに飛び距離を離す事に成功する。


「……曲芸師みたいな事を」

「褒めてくれてありがとう」


 二人はそう言うと再び黙り込み武器を構え睨み合う。


「予想。二人の実力は伯仲しているように見えます。……止めた方がいいのではリント氏」

「止めてどうなる。また同じことが繰り返されるだけだぞ」


 セラとリントはそう言い合いつつ戦っている二人から距離を離す。


「一度思いっきりやり合った方がお互いスッキリするだろう」

「疑問。……決着はどうなると思いますか」


 セラの質問に対しリントは鼻で笑う。


「それが分かれば苦労はしない」



「「ハァ……ハァ……」」


 それからの時間はセラの予想通り、実力伯仲な戦いが繰り広げられる事となった。

 ランが手数で攻めればアイナは手堅く守り隙を見つければそこから反撃をする。

 アイナが攻めればランはアクロバティックな行動をしつつ大きく距離を取る。

 その事が何度も繰り返されており二人からは疲労が見えてきた。


「推定。傷の数で言えばラン氏が不利と言えます、ですが疲労度で言えばアイナ氏が若干上のように感じます」

「だな。さてこの攻防が何時まで続くか」


 セラとリントがそう話していると突然ランが槍を構え直す。

 その構えは明らかに一撃を意識したものであった。


「ねぇ。いい加減決着を付けない?今自分が出来る最高の一撃でさ」

「……そうですね。そうしましょう」


 アイナはランの提案に乗ると防御の構えを捨て、同じく一撃必殺の構えを取る。

 ランはそれを見て一瞬笑みを浮かべるがすぐに戦士の顔になり姿勢を低くする。

 それはまるで引き金を引く前の銃のような緊張感でありランの本気が窺える。


「……」


 アイナもそれに答えるように自らの分身に自らの魔力を送り込む。

 すると剣は輝き出し既に夕方であったがそこだけ光が溢れていた。


「ゴーレム」

「了解。何時でも動けます」


 二人の本気がぶつかり合うのを感じリントとセラの二人も万が一を防ぐために何時でも動けるようにする。


「……」

「……」


 しばらく沈黙が包み緊張感が極限に達する中で先に動いたのはやはりランであった。

 初撃とは比べようにならないスピードでの突進とそこから繰り出される突き。

 それは正しく夜空を駆ける流星のようであった。


「シューティング・スター!」


 迫り来る高速の突きに対しアイナは自らの分身を振るう。

 自らの魔力を吸った聖剣の切れ味は力が制限されているとは言え歴代で見てもトップクラスであろう。

 アイナはその光輝く剣をただ突きに合わせて振るう。

 本来は放出して使う技ではあったがアイナはその技名を叫ぶ。


「セイクリッド! ブレイカー!!」


 聖剣の斬撃と聖槍の突き。

 両者の懇親の技がぶつかり合い衝撃波が広がる。

 無論それはリントとセラにも襲い掛かった。


「ちぃ!」

「防御」


 二人ともガードしたため大した被害は受けてはいないが舞い上がった土煙のためにアイナとランを見失う。


「邪魔だ!」

「兵装召喚。バスターブレード」


 リントとセラはそれぞれの方法で土煙を吹き飛ばすとそこには、壊れた自らの分身を持ったアイナとランが大の字に倒れていた。


「いや~。戦った戦った! 聖剣と聖槍が本気でやり合うなんて歴史的な戦いじゃない?」

「フフ、そうですね。……そのラン、ごめんなさい。きつく当たってしまって」

「いいよ別に。こっちも挑発したところもあるし。あ、でもお兄ちゃん呼びは止めないから」

「構わないですよ。……私をお姉ちゃんと呼ぶのなら」

「それは嫌かな~。別に恋愛感情が無いとは言ってないし」

「む」


 ランの言葉に一瞬アイナが反応するがやがて二人は揃って笑いあう。


「やれやれ一件落着という所か」

「肯定。少なくともまた戦いに移行する様子は見られません」


 リントは呆れながらも疲労困憊であろう二人を運ぶためセラと共に二人に寄るのであった。



 散々に荒れた森の惨状から目を逸らしながら。

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