第8話 なんでもありの力
「ところで……ミルカさん。ここはどこの何て言う国なんです?」
「え? ここがどこの国かも分からないのですか?」
再び、ミルカに驚いた顔をされてしまった。
慌てて言い訳した。
「い、いや、それがもう本当に名前以外に何も思い出せなくて……思い出そうとすると頭痛が……うっ、頭が……!! あー、頭が割れるぅ!! うおー!」
「ああ、ご無理はなさらないでください!」
我ながら下手くそな演技だったが、ミルカはわりと本気で心配してくれた。
「ここはタカマキ王国という国なのですよ、セイヤ様」
「タカマキ王国……? あれ? 確かミルカさんの名前はタカマキでしたよね?」
「そうです。わたしはこの国の女王です」
「……ん? 女王? 女王ってことは……一番偉い人ですか? 王様の娘ってことではなく?」
「はい、今はわたしが女王です。3年前に両親が共に亡くなって、急遽わたしが王位を継ぐことになったので」
「……」
わーお。
どうやらさっそく野生の女王様とエンカウントしてしまったようだ。
いかにも〝姫騎士〟という雰囲気ではあったが……姫どころか女王だったようだ。
と、内心で驚きつつも、同時に疑問も感じた。
なぜ女王様がこんなところにいて、自らあんな化け物と戦っていたのか――という疑問だ。普通、一番偉い人がこんなところで戦ってるわけないと思うんだけどな……?
「ぐっ……ッ!」
そんなことを考えていると、シーレが急に腕を押さえた。
ミルカが慌てたような顔をした。
「ど、どうしたのシーレ?」
「いえ、お気になさらないでください。さきほどドラゴンに腕に噛みつかれたのですが……大した傷ではありません」
「ドラゴンに腕を!? あなたそれをずっと我慢してたの!?」
「食いちぎられたわけではないですから。出血も大したことはありません。腕に歯形がついただけです」
シーレの腕をよく見たら、確かにそれらしき歯形がついていた。
……いや、めっちゃ歯形ついてるやん?
絶対痛いでしょ、これ……?
「すぐに傷口を見せなさい! ドラゴンの傷を侮ってはいけません!」
「いえ、ですが本当に大したことは……」
「いいから見せなさい!」
「わ、分かりました」
ミルカにぴしゃりと言われて、シーレは少し慌てた様子を見せた。まるで親に叱られた子供みたいだ。
……すごいな。シーレはとても気の強そうな、どんなことをされても絶対にお前たちには屈しないぞという感じの女騎士なのだが、どうやらミルカには逆らえないようだ。さすが女王様である。
ミルカが手早く腕の袖をめくると、シーレの腕に生々しい傷痕が残っていた。
確かに出血は少なかったが、見事に歯形が残っていた。
う、うわぁ……見るからに痛そうなんだけど……大丈夫か、これ……? やっぱ鎧とかあった方がいいんじゃないの? さっきはあると重いだけとか言ってたけど……。
「これはひどいわ……すぐにでもポーションで治療しないと……でも、いまわたしたちの手元にポーションは無いしどうすれば……」
「これぐらいならば普通の傷と大差ありません。瘴気に侵されてはいないと思いますし」
「でも……」
ミルカは本当に心配そうだった。
確かに、今はまだ怪我そのものが大したことなくても、ちゃんと消毒とかしないと後で怪我が悪化するかもしれない。そうなったら、最悪腕を切り落とすなんてこともあるだろう。この世界の医療技術がどんなものか知らないけど、まぁ僕がいた現代世界とは比べものにはならないだろうし。
とはいえ、これはさすがに僕でもどうしようもない。
と、思っていたら、
(――おい、聞こえてるか?)
「!?」
急に〝声〟がした。
驚いてバッと顔を上げてしまった。
ミルカとシーレに驚いた顔をされた。
「ど、どうかしましたか?」
「あ、い、いえ、なんでもありません」
ひとまず誤魔化したが……すぐにまた〝声〟がした。
(ああ、声に出して返事はしなくていいぜ)
と、〝声〟は言った。明らかにニグレドの声だった。
こ、こいつ脳内に直接……!?
(ちゃんと声が聞こえてるなら心の中だけで返事してくれりゃあいい。聞こえてるか?)
(――ファミチ〇ください)
(ふぁみ……なんだって?)
どうやらちゃんとこちらの声は届いたようだ。
僕はそれとなく二人に背を向けた。
(てめぇいまどこだ!? 人を無理矢理放りだしておいて隠れてんじゃねーぞ!?)
(別に隠れてるつもりはねえよ。そもそもオレ様は、今のところお前以外の人間には知覚不能だからな。隠れる必要もねえのさ)
(え? そうなの?)
(ああ。まぁ今はひとまず馬車の屋根に乗ってるが……まぁんなこたぁ今はどうでもいいんだ。それより、そのシーレって女の腕にちょっと触れてみろ)
(え? なんで?)
(いいからいいから。そんで、傷が治るように頭の中で念じてみろ。そうすりゃさらに面白――いや、状況は良い方に転がっていくはずだ)
(いま面白くなるって言おうとした???? 言おうとしたよね????)
(では幸運を祈るw)
ぶちっ、と一方的に会話が切られた。
いやお前絶対に僕の幸運とか祈ってねーだろ!?
しかも最後ちょっと笑ってたじゃねーか! なに
あ、あのクソ猫ぉ……猫好きの僕でもさすがに殺意が芽生えてきた。
……だけど、今の言葉はどういう意味だ?
もしかして、あいつからもらった〝力〟ってやつで傷が治せたりするのだろうか?
あいつと契約したことで、いまの僕は魔法が使えるようになっているらしい。自覚はないが、さっきもその魔法のおかげで助かったのだ。
ただ、いきなり魔法が使えるようになったと言われても、何をどうしたらいいのかさっぱり分からない。さっきの魔法だって使おうと思って使ったわけじゃない。なんだか分からないうちに勝手に手からなんか出たのだ。
「すいませんシーレさん、ちょっと腕に触れてもいいですか?」
「え? 構いませんが……」
「失礼します」
……まぁでも、ちょっと試してみたくはあった。
いや、だって……そりゃねえ? 魔法が使えるって言われたら使いたくなるじゃん?
僕はそっと彼女の腕に触れて、言われたとおり傷が治るように念じてみることにした。
……と言っても、念じるってどう念じればいいのだろう?
ええと……痛いの痛いの、飛んでけー!
みたいな?
なんて、これじゃダメだよね。あはは。
ピカー!
「……え?」
なんか手元が光った。
「な!? き、傷が治った!?」
「すごい、本当だわ!?」
あっという間に傷が完治した。
ミルカとシーレが驚愕していた。
多分、僕も似たような顔をしていたと思う。
……はは、もうなんでもアリじゃねーか、これ。
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