第45話不穏ですね
冬コミ開催日。東京ビックリサイト内で企業ブースで準備を進めて行くエル・アラメス・プロダクション一同。
「ふおっ。懐かしいこの雰囲気。性癖と性癖のぶつかり合いを感じる……」
「なにアホなこというとんねん。はよ、準備しいや!」
えるしぃちゃんは以前夏コミに二次元変換枠(ダンボール製)を使用し参戦していた。その時に世紀のゲロインとして不名誉な称号得てしまったのだが、えるしぃちゃん的には思い出したくもない黒歴史だ。
冬コミの準備の様子も【えるしぃちゃんねる】で生配信しており、注目度はとても高い。
:今年はゲロインにならなければいいな……
:まさか、連続で不審者でないよな
:あの加護をもう一度!
:温泉旅行行ったって? なぜ配信をしないんだ……
「社員のおっぱいはわたしの物だッ! ――ぷにぷにしてて最高でしたよ……」
手をワキワキさせながらリスナー達を煽り倒す。あの温泉以降お風呂に一緒に入っているようだ。後頭部に感じる感触は病みつきになります――と犯人は供述しており……。
その配信の様子を横目に社員は真面目に仕事をこなしていく。結構な量のグッズを用意しており搬入が大変な作業となっているからだ。もちろん応援を呼んでおり多くの業者が協力してくれている。
ダンボールが次々と山積みにされていく。中身はえるしぃちゃん冬コミ限定グッズやきららコスプレ写真集等いろいろ詰め込まれている。カメ子やウィザー丼のえちちグッズも漏れなく入っていた。
「ああ、この同人誌も並べるんだね……離れとこう……」
もちろんその中には『神聖★傲慢ツンツンハイエルフ触手調教わからせ物語~クソ雑魚ナメクジなえるふちゃんをめっこめこにしちゃうゾ セカンドシーズン』と書かれた同人誌が存在していた。
瘴気を放つ怪しい同人誌から距離を取るエルフ。まぁ、執筆作業に携わっているが今回は売り子をする事は無い。
まもなくイベントの開催時間だ。もちろん、コミュ障エルフは一番後方で笑顔で手を振る係だ。握手会の一件を重く見て今回はお客さんとの触れ合いは無しである。
「えるしぃちゃんはわたしの膝に座ってニコニコしているだけでいいアル」
わきの下をヒョイと持ち上げられ膝の上に乗せられた。鈴ちゃんのむちむちな太ももの感触は最近のえるしぃちゃんの一番のお気に入りだ。
「むふぅ。このフィット感が最高なので大人しくしてるですよ~」
:あっ、鈴の姐さんの膝……
:てぇてぇのう
:エル・アラメス美人しかいないよな
:ああ、ムチムチやん……
『ただいまより冬のコミックマーケットを開催します。入場の際は走らずにゆっくりとご入場下さい』
会場内が拍手で包まれた。入口の方からドドドドッ!! と人の行軍の音が聞こえて来る。
「お、始まったやんッ! ――ほれほれ、ガンガン売ってしまうでッ!!」
企業ブースのえるしぃちゃんグッズに前は速攻でお客さんで埋め尽くされる。
純粋なえるしぃちゃんの可愛さでファンになった者もいれば、グッズのご利益を目当てで買いに来るお客さんもいるようだ。
えるしぃちゃんが加護を掛けているのでご利益があるのは間違いないが……。
「えるしぃちゃんグッズとは神社のお守りみたいなもんやろか……確かに効果抜群やからな」
「私達は巫女さんですか?」
「間違いではないアル……。わたし達はえるしぃちゃんの三巫女ネ」
購入する際に二拍手してからえるしぃちゃんを拝んで行くお客が殆どだ。なんだか、性の祭典の一角にあるエル・アラメスの企業ブースが神殿のような扱いだ。
一緒に並べられている蓮ちゃんの同人誌や、ウィザー丼のハイエルフ物の同人ゲームを購入すると天に掲げながら大事そうに持って帰っている。
ハイエルフちゃんを拝んだ帰りに購入する事が背徳感を煽り、最高のシチュエーションなんだそうな。
:神聖背徳本
:なんて巧妙な売り方だ
:清い気持ちで拝んで背徳感に塗れる……
:通信販売希望!
:現地に行きたかったなぁ
「わたしはご神体と言う名の置物なのでリスナー共と仲良くしているね~」
鈴ちゃん椅子の上で殿様気分のエルフ。リスナー共からは怨嗟の念が届いて来る。
:なんて、なんて羨ましいエルフ
:美少女×艶やか美女
:絵面は最高なんだがエルフが小生意気
:姐さんの口黒子が魅惑的
「まぁ、まぁ、そう僻むでないぞ? ――ほれ、わたしたちのてぇてぇを見るがいい!!」
身体の向きをかえて鈴ちゃんに抱き着いてしまう。ぽよよん、とたわわなお胸がえるしぃちゃんのお顔を弾く。
ウェブカメラには『てぇてぇ』よりも、『てめぇッ!』のコメントが多い気がするが気のせいだろう。
:はい、処す処す
:鈴ちゃんファンになります
:えるしぃファン辞めました
:通報しました
「アホな事やっとらんでお客さんに手を振っとれ」
ペチンと頭を叩かれテへペロとふざけるも、もう二発喰らってようやく反省したようだ。
◇
大量に用意したグッズも午前中には売り切れてしまいすでに片づけを始めている。カメ子やウィザー丼、爺婆も各々の目的の為に散らばっていく。
カメ子の同人誌やウィザー丼のエロゲも完売したらしく。『布教に成功したようです』とニコニコ笑顔だった。
蓮、きらら、鈴は用意していたコスプレに着替え始めている。日曜日の朝に放映している『ドッキュン☆マジカルフロンティア』というキャラクターのコスプレだ。
宇宙を漂う魔導艦が新天地を目指し航行する中で様々なトラブルが発生する。宇宙艦に所属している精鋭の魔導少女隊が活躍する物語だ。
恰好は定番の魔法少女の様だが使用されている装備が超未来技術の塊であり、可愛い装備の各所に蛍光色のラインが走っている。
「えるしぃちゃんはこの子の衣装な。まぁ、アニメのキャラであるこの子は数話で死んでしまうけどな」
「え゛!? アニメまだ見てないのに……ッ!! 蓮ちゃんはアニメファンに対して許されざる大罪を犯したのだ……」
フリフリのゴスロリ(黒を基調としたゴシックとロリータファッションの融合、日本特有の文化らしい)にとんがりの魔女帽子をかぶっている。SFチックな魔導杖を振り回してプンスコ怒り始めた。
「でもそのキャラクター実はまだ生きていそうなんですよね。――実は黒幕だったり的な展開が予想されていますよ?」
きららちゃんは怒っているえるしぃちゃんを宥めている。その服装は胸が強調されている派手な甘ロリ(可愛らしさと甘さを含んだロリータファッションの一部)の格好だ。色調はパステルピンクをメインにしている。
「そうなんや? てっきり、えるしぃちゃんもアニメ見とるかと思ったんや。ごめんな~」
「もういいよぅ。この黒いフリフリが可愛いし……」
更衣室で着替えをしているので配信は一先ず終了している。コスプレの写真集もプロダクションから販売される予定なので忘れずに宣伝も行っている。
「ほら、抱っこしてあげるから機嫌をなおすネ。――むふふ、抱っこ係を独占するのはわたしネ」
「あ、鈴ちゃんばっかり抱っこしとるやん! ウチだってしたいのに」
「今回『も』残念アル。えるしぃちゃんを悲しませる秘書さんは置いといて会場に行くネ」
抱っこされてご満悦のエルフが鈴ちゃんに運ばれていく。悔しがる蓮ちゃんをきららちゃんが宥めるパターンが定番化しているようだ。
去年刃物を振り回していた不審者がいたので今回は警備員や警察官が多めに巡回している。
コスプレ会場では沢山の人で賑わっており、背中に抱っこされているえるしぃちゃんの服を握る手に力が入る。
「まだ、人込みは苦手アルネ? ちょっと、離れたところで撮影するネ」
「――うん。ありがとう」
気遣いのできる大人な鈴ちゃんは背中を優しく撫でる。
最初に出会った変態娘はどこに行ったのであろうか。だが、心のリビドーが表に出ていないだけで、鈴ちゃんの妄想で抱っこされているエルフはぐっちょぐっちょにされている。
遅れてやって来た蓮ちゃんときららちゃんで早速撮影会の準備を始める。そこへカメ子が大きなプロ用のカメラを担いでやって来る。
「皆さん目立つのですぐに見つけれましたよ~。ささっ、簡単にメイクをチェックするのでこっちへ来て下さい~」
パタパタと頬をなでるメイク道具にくすぐったそうに身体を捩るエルフ。『動かないで下さい』とガンギマリな目でカメ子に言われると動かなくなる。仕事モードの時のカメ子には逆らってはいけないのだ。
四人のメイクが終わりカメラの三脚を立てて撮影準備をするカメ子。
「は~い。では並んでください。まずは好きなポーズをひとりづつ撮っていきますね~」
撮影会が始まりバシバシ撮っていくカメ子。さすがプロの仕事だなと四人組は思う。指定されたポーズをとっていくとなぜか気分が乗って来るのだ。『可愛いですね~』『最高です!』『う~んセクシー』と人を乗せるのがとってもうまい。
えるしぃちゃんなんか褒められ過ぎてデレデレの状態だ。そして四人でアニメのキメポーズをしていた時に、物々しい集団がそこへやって来た。
責任者らしき者が前に出て来ると令状らしき紙をえるしぃちゃんに突きつけた。
「田中菊次郎だな? 今はエルシィ・エル・エーテリアを名乗っているらしいが……国際連合理事会へ出頭要請だ。――これは連合に加盟している国の総意である。拒否する事はできんぞ? もし、拒否するのであれば貴様の設立した事務所は解体されることになる」
かつての名前を呼ばれ固まるえるしぃちゃん。
支払いの名義などは全て田中で通している為、公的には間違いない。その事実はプロダクションの人間は知っているが事情を深くは聞いていない。
プロダクションを盾に無理やりな要求を突きつけて来る連中に蓮ちゃんが怒りだしてしまう。
「なんやねんワレは。わざわざイベントの日に来るとか嫌がらせかいな? 国連ちゅー組織はクソみたいなやつらやな!!」
戦闘能力を持つ鈴ちゃんが懐にある武器を掴みながら威圧し始める。
「とっとと帰るネ? ――死にたいアルカ?」
一触即発の事態だ。きららちゃんは状況を飲み込めずあわあわしている。そこに他の社員が駆け付けて来る。
国連の連中が提示している書類を確認すると軍神は雷蔵に問いかけた。
「どういうことだい雷蔵君? 日本政府は裏切ったのかい?」
「いや、聞いてねえぞ。退魔士協会に報告は上がっていねぇ」
雷蔵も軍神もまったくの寝耳に水のようだ。その様子を黙って見ていたえるしぃちゃんが前に出る。
「――別に捕まって牢屋に入るわけじゃないんでしょ? プロダクションを盾に取る行動は気に障るけど。わたし出頭するよ? だけど――――――舐めた態度を取った対価を支払う事を後悔するなよ? ――あ゛ぁん?」
数十人の国連の職員共が地に押しつぶされる。トコトコと連中の近くへ歩み出し、責任者の頭を足で踏みつけると地面に押し付けた。
グリグリと足を捻じり甚振り始めるえるしぃちゃん、大層ご立腹のようだ。
「国連組織に出頭はするが――貴様らがこの世に生きている時間は我が証言するまでじゃ。――≪呪詛刻印≫ッ!!」
地に伏せる全員に顔面には禍々しい文様が浮かび上がった。激しい熱と痛みを感じうめき声を上げる。
踏みつけていた頭から足を離すと少し機嫌を直した様子で社員達へ話しかける。
「ほれ、はよう案内せえ。――社員のみんなに迷惑かけてごめんね。冬コミの後片付けをお願いするけどいい?」
「うん。待っとるで? はよう帰って来てな?」
「チッ! えるしぃちゃんに舐めた態度を取ったから呪い殺してやりたいアル。でも、すでに罰は受けているネ………――えるしぃちゃん。とっとと国連の連中をぶっ殺して帰って来るアルネ」
国連組織の集団は身体の数か所に骨折を負う怪我するもえるしぃちゃんに案内させられていく。
強気な態度が彼女に通用するわけないのだ。見た目が幼い彼女に舐めた態度を取るととんでもない事になることを国連組織は学べていないようだ。
この呪いを刻まれた職員たちが丁重に扱うようにすぐに国連へ報告を上げた。もし、人質やプロダクションを追い込むと――我々が呪い殺されてしまうと。
後日、解呪の為に高価な呪符や神聖術を使用するも一切解ける様子が無い呪いの文様。
その事実に国連組織一同は相当焦った。国連の重要人物がいる前に彼女を出しても大丈夫だろうか、と。
鉄で囲われた冷たい護送車に入っていくえるしぃちゃん。それを心配そうに見つめる社員達。
彼女を守るには国連に真っ向から逆らわなくてはならない。
プロダクションは彼女の帰って来る場所になりつつある。だが、彼女を守るには力が足りなさ過ぎたのだ。
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