灰の境界線

玻璃青丹

序章

 血の匂いの漂う荒野に、少女の泣き声が響き渡る。

 辺り一面、屍で満たされていた――人間と、異形の者達の。

 その中心で、泣き続ける少女を、また別の少女が青褪めた顔で抱いていた。

 泣いているのは、獣のような耳に尻尾、鱗の肌を持った異形。それでも、金の柔らな髪から覗く顔は、あどけない。

 彼女を抱いているのは、まだ若いが、この惨状の中でも己を保つだけの気概があった。

 その気概を支えているのは、悲しみか、怒りか。

 彼女の服は黒き衣――神に仕え、天使の加護を賜り、悪魔を払う、聖職者の出で立ちだった。

 それが、震える手で懐から、聖職者の象徴たる十字架の首飾りを取り出す。


「神よ……これが、貴方の望みなのか」


 己の立場に疑問を抱いたのは、これが初めてではなかった。

 それでも、今日、この惨事は彼女の心に決定的な傷痕を残した。


「これが……こんなものが、貴方の望みだというのなら、私は神など信じない!」


 音を立ててロザリオが引きちぎられる。

 彼女は、それを真っ赤な血だまりに叩きつけた。


 そうして、少女は聖職者であることを辞めた。

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