糸森の木

その木 か細く長く垂れる糸

しかし根づき伸びる高き老樹ろうじゅ


振りかぶりし木こりの豪腕うで

風音 枯れ葉が鳴らし舞う


老樹は木こりが得物えものに頬杖し

得物が境遇をかく憂う

掠れ声にも満たぬ声

木こりはそれあざけりと 怒風どふう起こす


得物が問う

なぜ振るうと

得物が問う

我が片刃つがい何処いずこかと


我ら双刃そうじん合わされば

木こりが宿命さだめも解かれようと

得物が己が主人に

幾度も問う


木こりは振るう

豪腕これしか知らぬ

これしか知らね

振り抜くこれだけしか知らぬ


老樹は憂う

おのまなこひらけねば

己が手じわを認めねば

老樹を糸と認めねば

そのまま灰に帰すだろう


得物が願う

我が双刃にて

老樹を抱けと


木こりの豪腕かて

風音を奏でる



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