第20話 料理

「美味しいですわね美味しいですわね」


「いい食いっぷりだなぁ!どんどん食ってくださいっ」


 メラリーは、村人たちに勧められるままに、皿に盛り付けられた料理をパクパクと食べていた。


「いやぁ若い人にこんなに美味しそうに食べてもらえるなんてうれしいね、このお肉オレが狩ってきたんだよ」


 1人の村人が干し肉を齧りながら自慢してきた。からだには生々しい傷跡があるワイルドな男だった。


 メラリーは、干し肉を手に取りまじまじと見つめた。


「狩りですか、私もお父様の付き合いでハンティングに行ったことがありますがあまり面白さはわかりませんでしたわ」


「へへっそうかい?まー面白さっつーか食うためだからな俺たちのは」


「ちげぇねえや!がははは!」


 男たちの豪快な笑い声が、鼓膜をいじめてくる。顔をしかめながら、メラリーは干し肉をしゃぶった。

 

 口の中に、肉の旨みがひろがってくる。はじめて食べる味だった。


「これはお酒が合いますわね……」


「おう、いける口かい?チーピで作ったワインもあるぜ」


 村人によって、グラスにとぷとぷと注がれるピンク色の液体。メラリーはグラスを揺らし、香りを楽しんだ。


「いい香りですわね」


「ああ、甘いからお嬢さんでもクイっといけるはずだぜ」


 メラリーはグラスを傾ける。甘い口当たりで、するすると喉を通っていき、パァァァァァっとからだが熱くなる。


「これはなかなか良いですわね。屋敷でも飲んだことがありませんわ」


「ははは、村の外には出回らないからなぁ」


「何人かで集まって趣味で作ってるだけだしな!俺んちでも作ってるんだぜ」


 メラリーが料理に舌鼓をうっていると、奥の方からリーファが戻ってきた。


「すみませんメラリー様、台所にあいさつにいったらお料理手伝わされちゃって。いま焼いた川魚が届きますよ」


「あらお魚も獲れるのですかこの村は」


「ええ、川が流れてるとこ通りましたよね、あそこで釣れるんです」


「………」


 メラリーはボンヤリとした記憶を探るが、思い出せなかった。村の案内をしてもらったものの、彼女にはすべて同じような景色に思えてどこも印象づかなかったのだ。


 リーファは、メラリーの隣の席に腰を下ろす。


「どうですか、村の料理は」


「ええ、美味しいですわねただ……いえ」


 メラリーは喉から出かかった言葉を飲み込む。そして誤魔化すようにお酒を流し込んだ。


「メラリー様?……おっとっと?」


 からだが熱くなったメラリーは、からだをリーファに預ける。まだ少女であるため、実は酒には慣れておらず、すぐに酔ってしまったのだった。


 メラリーのまぶたは半分閉じかかっていた。


「あらら、ここからはもう大人の時間ですね」


 リーファは、メラリーを支えて立ち上がる。


「ん?もう帰るのかい?ありゃお眠りになったのか」


「ええ、ここらへんでお暇させてもらいますね。えーとでも最後に挨拶くらいはしとかないとな……ゴホン」


 リーファは喉の調子を整えて、声をはりあげる。


「えー!本日はメラリー様の歓迎会を開いていただきありがとうございました!今後とも村の振興のために頑張っていきますので宜しくお願いします!」


 パチパチパチパチと拍手が鳴り響く。メラリーは朦朧とした意識の中、からだがどこかに運ばれていくのを感じる。


 ガチャ、と扉が開く音がした直後、メラリーの肌を冷たい風が撫でる。ぶるっとからだを震わせて少しだけ意識が戻る。


「あら、帰るのですね……」


「ええ、お布団用意してますから今日はもう眠りましょう。……どうでしたか?村のひとたちはいいひとたちでしたか?」


「ええ、それはもう……料理も……おいしく……」


 口をつぐむメラリー。言いたいことを隠してるようだった。リーファは、体勢を整えて、メラリーのことをおんぶする。


「誰も聞いてませんよ」


「……料理は、美味しかったですわ。ただ素材の味を活かしたものが多いというか……技巧に富んだものはなく……その」


「…………」


「貴族の食事パーティで出るようなものには及びませんでしたわ」


「そう、ですか……」


 メラリーは、弁解するように付け加える。


「でもおいしくはありましたのよ。普段食べる食事としては平均レベルが高くて。私考えていましたの。もしかしたらこの村のグルメでひとを呼び込むことなどもできないかと。名の知れた料理人を呼び込むのはいかがかしら……」


「ふふっ村のために考えてくれていたんですね」


 リーファは、真っ暗な夜道を歩く。街灯なんてなく、からだに染みついた道のりに沿って自宅へ足を動かしていく。


「この村を……ひとが溢れるような村にすることが……私の使命ですの……でもこの村は……田舎で……ひとを呼び込むのは難しくて……」


 やがて、家に辿り着く頃には、メラリーの思考は途切れ途切れになっていた。考えがまとまらず、言葉が口から垂れ流しにされている。


 リーファは愛おしそうに、そんな彼女を抱きながら、布団へと優しく運んだ。


「大変な道のりになるかと思いますが、一緒に頑張りましょうね、メラリーさま」


「さま、なんてよしてくれまし……メラリーちゃんでも……よろしくってよ」


 カクンッと、意識が途絶えるメラリー。リーファは、そんな彼女の頭を撫でた。


「おやすみなさい、メラリーちゃん」


 メラリーを寝かしつけたリーファは、自室へ行き、蝋燭に火を灯すと、眠くなるまで本を読んで過ごした。

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