第12話 栄枯盛衰

「話を聞いただけでは実感しにくい部分があるでしょうから、少し一緒に村を歩きませんか?」


 フレアの提案で、ガーレットはアシナ村を案内されることとなった。


 村役場を出たところで、フレアはさっそく左右を指差す。


「この役場がある通りが、村の公共サービスを担う施設が並んでいます。村人たちは役所通りと呼んでいますね」


「へぇ……ここは整備されていますのね」


 役所通りの建物は、比較的きれいなものが多かった。ガーレットがそのことについて尋ねると、公共のものなので、ダンジョンが閉鎖したあとも修繕に予算が出たのだと、フレアは答えた。


 ただし、役所通りから一本道を逸れると、もう廃墟のような建物がズラリと並んでいた。


「ここの通りは昔は商店街だったんですよ。マイル商会が仕切っていて、たくさんの買い物客で賑わっていたんです」


 看板の落ちた八百屋が目に入り、さすがのガーレットも哀愁を感じた。


「いまはマイル商会はどうなさったのです?」


「村から撤退しました。買い物客が減少して採算が取れないとのことで。それによりこの辺のお店はほとんど閉店することとなってしまいました」


 フレアはグッと拳を握りしめた。


 フレアは現在20歳。この通りにひとが溢れていた時代を経験しているがゆえに、思うところがあるのだろうとガーレットは推察した。


 この後ガーレットは、冒険者が集っていた酒場通り、宿屋街、そして馬の停留所などを案内された。


 どこも共通して、栄えていたころの名残りを感じるものの、いまはもう取り返しがつかない様子だった。


 最後は村の中心にある広場に来た。広い空間にベンチがいくつか置かれているものの、座っているものはおろか、あたりを歩いているひともいなかった。


「この広場も昔は子供たちの遊び場だったんです。いまは……子どももずいぶん減っちゃいましたけど。それで、どうでしたか村を歩いてみた印象は」


「そう、ですわね……」


 フレアに尋ねられて、ガーレットは思案した。


 お世辞でも褒めるべきか、思ったことをそのまま口に出すべきか。


 しばらく逡巡したのに、ガーレットはあえてフレアと目を合わせてこう答えた。


「終わってますわ、この村は」


 フレアは固く口を閉ざして、ガーレットを見つめ返してくる。


 張り詰めた空気が数秒続いたのち、フレアは、大きなため息をついた。


「はぁぁぁ……ですよねぇー」


「無礼な発言をしてしまい、申し訳ございませんわ」


「いえいえ、正直に言ってもらえたほうがこちらも気が楽なんで」


 フレアは苦笑いしていた。ガーレットは怒らせずに済んだことをホッと安堵した。


 そこで、ガーレットは踏み込んだ質問をする。


「私はお父様からこの村の課題を解決してこいと言いつけられましたわ。つまり、この村の抱えている問題とは……」


 フレアは頷く。


「はい、この寂れてしまった村に、かつての賑わいを取り戻す手伝いをしてもらえないでしょうか」


 ガーレットは、これはずいぶんと骨が折れる試練だと認識した。

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