第35話 魔法学院

「じゃ~ん!!」


「うおおおおおっ!?」


「かわいいです! かわいいですっ!!」


 グレーのベストに白いラインの入った同色のスカート。

 黒いボレロジャケットを羽織り、裏地が紅いマントが風にたなびく。

 すらりとした脚を包むのは、白い編み上げブーツ。


「えいっ♪」


 樫の木で出来たマジカルスティックから、魔法の光が煌めく。


 魔法学院の制服に身を包んだリーサは、どこからどう見ても完璧な魔法少女だ。


「えへへ、ユウと一緒に通った王国の魔法学校を思い出すね?」


 くるり、と一回転するリーサに昔を思い出す。

 10歳になった俺たちは、宮廷が運営する魔法学校に15歳まで通ったのだ。

 ……魔法の才能があまりなかった俺は、よくサボって騎士団の所に入り浸ってたけど。


「くすっ、実は魔法学校の女の子たちにユウは人気だったんだよ?」


「マジで?

 俺はリーサしか見てなかったから気づかなかったわ」


「はうっ!?」


「はいはい、ごちそうさまです♪」


 時空を超えたのろけを披露する俺とリーサに苦笑いのフェリナ。

 本日はリーサの留学手続きを兼ね、俺たちも魔法学院に来ている。


「こんにちは」


「はじめまして、日本から来たリーサです」


 廊下を行きかう学院生徒から挨拶されるリーサ。


 犬耳であったり少し尖った耳であったり……やはり亜人族の子が多いようだ。

 年齢は小学生~高校生くらい。

 全体的に若い子が多いので、リーサもすぐになじめそうだ。



「それでは、本格的な授業は明日からになります。

 とはいっても、リーサさんは”ソーサリークラス”の研究生ですので、自由に授業を選択していただいて構いません」


「はいっ」


 ソーサリークラスを担当する壮年の女性に挨拶を終えたリーサが、俺たちの元に戻ってくる。


「そういえば、ブレンダおねーちゃんがお部屋に来てねと言ってたけど……。

 いまからなら大丈夫だって」


 スマホに届いたメッセージを見せてくれるリーサ。


 ブレンダ・ウィンストン。


 昨日俺たちに話しかけてきた少女の名前だ。

 彼女も魔法学院に在籍している生徒で、年齢は16歳。


 魔法学院が出来た時からの初期メンバーで、イギリスにおける魔法研究の権威、らしい。


「”魔のブレンダ”、ですか。

 イギリス随一のダンジョンバスターと言われるウィンストン卿の娘で、魔法の盛んな異世界からの転生者らしいですね」


 ……なんかどこかで聞いた話だな?


「むふふ~、元の世界ではパパとどんな関係だったのか聞いちゃお~。

 ブレンダおねーちゃん、クールっぽく振舞ってたけど絶対パパにメロメロな恋する乙女だよ~」


 にしし、と悪い笑みを浮かべるリーサ。

 ……ほどほどにしとこうな?


 がやがやと話しながら俺たちは校舎の裏手に向かう。

 そこにはゴシック様式の校舎とは打って変わって、近代的な鉄筋コンクリートでできた二階建ての建物がある。


 ここがウィンストン卿が運営する魔法研究所らしい。



「ふ~む、またマナの流れが強くなってる?」


 建物の二階、これまた最新式のセキュリティゲートを通り抜けた俺たちは、二階の奥にあるというブレンダの研究室に向かう。


「ブレンダ・ウィンストン……ここだな」


 近代的な建物の中に似つかわしくない、樫の木でできた重厚な扉。

 扉に掲げられたネームプレートを確認した俺は、黒猫を形どったドアノッカーでノックをする。


「昨日会ったユウ アカシだ」

「こんにちは、リーサが来ましたよ?」


「……どうぞ」


 ギイイイイイッ


 応答と共に、扉が自動で開いていく。


「改めまして、ロンドン魔法学院で主席研究員を務めているブレンダ・ウィンストンよ。そちらのソファーに座って。

 お茶を淹れるわ」


 漆黒のローブに身を包んだ少女。

 形の良い唇が、三日月を描く。


「ふわぁ」


「ほお……」


 こちらを見透かすようなその双眸に、思わず釘付けになる俺とリーサなのだった。



 ***  ***


 ヴィイイイイイイインッ


「……って、なにこれえええ!?」


 ソファーに座った途端、部屋の壁に埋め込まれたあるものを目撃して素っ頓狂な叫び声を上げるリーサ。


「オーブ、なのか……?」


 壁の一部が円形にくりぬかれ、様々な機械が取り付けられている。

 その中心に浮いているのは、直径15センチほどの銀色の玉。


 ダンジョンの中で見かける”オーブ”に似ている。

 まさか?


「信じられません……噂は本当だったんですね」


「え?」


「あら、さすがにノーツの秘蔵っ子はご存じだったわね。

 御父上マクライドはお元気?」


「まあ、いつも通りですが」


「ノーツ研は大事なビジネスパートナーだけれど。

 しょっちゅうウチのサーバーにハッキングを仕掛けてくるの、やめるように言って下さらない?」


「上の意向については、わたくし存じませんが……できるだけ善処します」


「……日本語って便利ね」


「ちょ、ちょっとまった! それより!」


 会うなりバチバチと火花を飛ばし始めたフェリナとブレンダも気になるが、まずはこのオーブである。


「ああそれ? オーブよ。

 オリジナル鉱山マインから拾ってきたの」


「「え、ええええええええええっ!?」」


 こともなげに放たれたブレンダの説明に、大声を上げる俺とリーサなのだった。

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