第20話 仕事は順調です
「C工区第三換気口にCランクダンジョン×2か……」
「ウチのギルドにも出動要請です。 行きましょう!」
「了解!」
日本トップのダンジョンバスターであるシローさんとレミリアさんと思わぬ邂逅を果たしてから数日後、俺たちは本格的に業務を開始していた。
朝10時に事務棟に顔を出すと、昨日出現したダンジョンの情報が1階に設置された巨大モニターに表示されている。
D~Fランクのダンジョンはコモンクラス(要は下請けだ)のダンジョンバスターたちが退治するのだが、Cランク以上のダンジョンは厳重な封印処理が施された後、俺達チーフクラスが個別に対処する。
「ふむ……ユウ君たちが報告したという、ダンジョン内から”外部”に影響を及ぼすオリジナルモンスター。 ソイツへの対策と言う事だね」
「あ、あはは……」
先日の企業案件で遭遇した”サンダートロール”。
そういう事もあるかもしれない、くらいのノリで報告したはずなのだが、いつの間にか大ごとになっているようだ。
「その功績もあってユウっちがこの案件のチーフクラスに指名されたらしいよ?」
「はい、ウチのラボも注目しています」
「なるほどね、天下のノーツ研が注目する逸材とはユウ君の事だったか」
いやなんか、持ち上げられすぎですよ?
俺なんか数か月前まで万年Fランクだったのに。
「むふ~(どやっ)」
「そうですね(ふぁさっ)」
そしてリーサもフェリナもドヤ顔しすぎ!
「ユウなら……当然だね!」
……ちなみにリーサは夏休み中で、本日は学園の登校日。
授業は1限だけだったので、学園から直接現場に連れてきたのだが……。
「むっは~~っ!
リーサたんの制服ランドセル!?!?
これはもう……ふぎゅっ!?」
当然のごとくかわいさが限界突破したリーサにレミリアさんが飛びついて来て、シローさんの裏拳で床に沈められている。
「つんつん」
床に伸びたレミリアさんをつつくリーサ。
「はうっ!? ヘブン状態!!」
「……アホなことやってないでC工区第三掘削点に行くぞ。
Aランクダンジョンの出現報告だ」
「しゅたっ! じゃあリーサたん、あとでね~っ!
オネエサンが昼ごはんおごったげる♪」
一瞬で復活したレミリアさんは、シローさんと一緒に工事現場の最前線に行ってしまった。
……まさか今から2時間でAランクダンジョンを退治するんですか?
「ふふっ、なかなか面白い方ですよね?」
面白すぎると思う。
「ケーキたのしみ! わたしたちも早く行こう?」
「ああ」
「ですね」
Cランクダンジョンか。オリジナルボスが出現するかもしれないしな。
俺たちは気合を入れなおし、指定された場所へ向かうのだった。
*** ***
「くらえっ!」
ザンッ!
俺の一撃が、キメラの頭を切り落とす。
「とどめ! ファイアLV3!」
ゴオオオオッ
リーサの爆炎魔法が、再生の間を与えずキメラを焼き尽くす。
『Cランクダンジョンの消失を確認……お疲れ様でした』
「ふぅ……」
額に浮かんだ汗をぬぐう。
「はい、タオル!」
背負ったままのランドセルから汗拭きタオルを取り出し、手渡してくれるリーサ。
彼女が丹精込めて洗濯してくれたタオルはいつでもふわふわだ。
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■個人情報
明石 優(アカシ ユウ)
年齢:25歳 性別:男
所属:F・ノーツギルド
ランク:C
スキルポイント残高:59,700(+15,500)
スキルポイント獲得倍率:350%
口座残高:2,910,800円
称号:ドラゴンスレイヤー
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「斬撃と爆炎魔法の組み合わせで倍率が+200%、想定通りだな」
「ぶいっ!」
ここ最近、俺とリーサはスキルポイント獲得倍率を意識した戦い方をしている。
リーサが作ってくれたアプリは進化しており、モンスターに対する行動からスキルポイント獲得倍率を予測してくれるまでになっている。
上位ランクのダンジョンを安全に攻略するためにも、なによりたっぷり残っているローンを返すためにもスキルポイントはいくらでも欲しい。
「ふふっ、10倍までとはいえスキルポイント獲得倍率の変化を予測できるなんて……ラボの研究者も驚いてましたよ?」
「にひひ~、リーサは転生者ですから!」
「…………」
リーサが転生者と言うことはフェリナも知っているが、彼女が向こうの世界で大魔導士と呼ばれていて、”魔法”の構成言語であるルーン文字の一部を思い出した事は誰にも言っていない。
なぜなら……。
*** ***
「ユウ! みてみて!!」
「ん~? どうした?」
新居に引っ越してから数日、庭から聞こえたリーサの歓声に、ローンの繰り上げ返済計画に頭を悩ませていた俺は気分転換がてら庭に出る。
「ホーノオ♪ ミーズ♪」
「!!!!」
目の前の光景に、思わず立ち尽くす。
リーサの右手の先には小さな炎が。
左手の先には渦巻く清水が。
「リーサ……魔法が?」
「えへへ~……知識を思い出せたから、もしかしてって思ったんだ~♪」
「…………」
ぴょんぴょん飛び跳ねるリーサはとてもかわいいが、
正直ありえない事である。
ダンジョンの中で魔法を使えるのは、ダンジョン内は一種の仮想世界であるから。
スキルポイントと呼ばれるダンジョン内に適応した
いつか読んだ論文を思い出す。
こちらの世界には精霊もおらずマナも存在しない。
リーサが理論を思い出したとしても実際に魔法を使えるはずがないのだ。
「リーサ、”魔法”は他の人の前で見せちゃダメだぞ?」
「ほえ?」
*** ***
フェリナの事は信用しているが、背後にいるノーツ家の研究所について、最近うさん臭さを感じる。
たまにフェリナのオフィスにラボの研究者がやってくるのだが、彼らの俺達を見る目が……実験動物を見るようなのだ。
(俺に発現した”ユニーク”に合わせるようにしてリーサの魔法が復活した……)
たまたまだ、と言い切るには判断材料が不足している。
この事実はもう少し隠しておいた方がいいと俺は判断していた。
「そろそろお昼ですし、事務棟に戻りましょうか」
「昼ご飯わくわく!」
「ふふっ、ここのごはんは美味しいですよね!」
「……フェリナお姉ちゃんはなんにでもマヨネーズ掛けるの直した方がいいと思う。
太るよ?」
「むあっ!?」
坑内移動用のカートに乗り込みながら俺は思案に沈む。
正直、まだまだ分からないことだらけだ。
だが、事務棟に戻った俺達を待ち受けていたのは、驚きの知らせだった。
「シローさんたちと、連絡が取れないだって?」
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