シンパパ底辺ダンジョン探索者さん、バグでスキルポイント獲得倍率が100倍になってしまう ~愛娘と一緒に最強セレブへと成り上がる~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

第1話 ダンジョンバスター

 ザンッ!


 ロングソードをホブゴブリンに叩きつける。


 グエエエエエッ!?


 光の粒子となって消えるホブゴブリン。


「や、やっと終わった……」


 目の前に広がっていた石造りのダンジョンは消え、何の変哲もない土壁に変わる。


「よっと」


 俺は地面に落ちたICチップを拾い上げ、右手に持ったスマホでスキャンする。


 ピッ


『依頼No:F282941、Fランクダンジョンの消失を確認』

『現金報酬10,000円 スキルポイント報酬:75(獲得倍率0.5)』


「相変わらず安いな……はぁ、帰るか」


 俺はため息一つ、梯子を上って地上に出る。

 小さな工事現場が今日の仕事場だ。


 ダンジョン。

 20年ほど前、突如出現した”災害”。


 地下鉄駅や鉱山、工事現場などあらゆる”穴”に発生し、ゴブリンなどのモンスターを吐き出す厄介もの。

 現代兵器が効かないモンスターに世界中が大混乱に陥ったものの、ほどなくして人間たちの中に奴らを倒せる”スキル”持ちが現れる。


 ボスを倒せば、ダンジョンは消失する。


 その仕組みに気付いた人類は彼らをダンジョンバスター通称ダンバスと呼び、今ではすっかり一般的な職業になっていた。


「ていうかダンバスってブラック労働だよなぁ」


 ダンジョンは24時間365日いつでも出現する。

 過当競争で報酬は安く、身の危険もある。

 最上位であるSSランクのダンバスになれば、年収数億円も夢じゃないけどFランクの俺は日銭を稼ぐので精一杯である。


「魔法や剣技が使えるのは楽しいとはいえ」


 ロマンだけでは飯は食えない……とはいってもダンバス以外に取り立てて特技のない俺は、家族を養うためにこの仕事を続けている。


『報酬が振り込まれました』


 スマホが振動し、通知メッセージが表示される。

 俺はダンジョンバスター総合支援アプリ、通称ダンバスアプリを立ち上げる。


 ======

 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:東兵庫第25ギルド

 ランク:F

 スキルポイント残高:275(+75)

 スキルポイント獲得倍率:0.5

 口座残高:123,500円(+6000)


 ■ステータス

 HP  :10/30

 MP  :0/10

 攻撃力 :10

 防御力 :10

 素早さ :10

 魔力  :5

 運の良さ:5


 ■装備/スキル

 武器:ショートソード(使用回数0)

 防具:皮の鎧(使用回数0)

 特殊スキル:ヒールLV1(使用回数0)

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 悲しいほどに低いステータスだがそれには理由がある。


 ダンジョンの中は異世界であり、そこでは毎回”スキルポイント”を各ステータスに割り振って戦う。

 武器や防具、魔法はスキルポイントを支払って使用回数を購入する仕組みだ。

 ゲームのようにレベルという概念はない。


「達人はスキルポイントを節約しながら戦うらしいけど」


 底辺な俺にはとても無理な話で、大抵が攻撃力で押し切る脳筋スタイルだ。


『残りのステータスを清算し、スキルポイント10が返却されました』


「げ、結局スキルポイントは赤字か……」


 このダンジョン攻略にはスキルポイント150を割り当て、獲得スキルポイントは85。

 赤字も赤字、大赤字である。


「ていうか、”スキルポイント獲得倍率:0.5”ってのがなぁ……」


 基本的に可変なステータスのうち、数少ないがこの”スキルポイント獲得倍率”である。

 ダンジョンには獲得スキルポイントの「基礎値」が設定されており、その値に獲得倍率を掛けたポイントが手に入る。


「鑑定係のおっちゃん、二度見してたもんな」


 一般的なダンバスで1.2~1.5倍。

 天才と言われる因子持ちで2~5倍。

 倍率1以下というのはダンバスの歴史始まって以来、前代未聞である。


「こんな”ユニーク”いらねぇ……」


 コイツのせいで俺のスキルポイント収支は基本赤字、ダンバスの”ランク”も上がらないのだ。

 ランクが上がらないと購入できる武器やスキルが増えない→弱いまま、という悪循環だ。


「はぁ」


 電車賃がもったいないので、傍らに止めた自転車にまたがる。


「ていうか、ギルドの取り分が40パーって暴利じゃね?」


 愚痴をこぼしながら、俺はギルドへ帰るのだった。



 ***  ***


「アカシ ユウ。

 今月の成績、Fランク11、Eランク1」


 俺が勤怠報告を終えると、事務員さんが氷のようなまなざしで俺を見てくる。


「これでは到底追加報酬は出せませんね……逆に払ってほしいくらいです。

 お疲れ様でした」


「……お、お疲れ様でした」


 俺は一礼すると、そそくさとギルドの出口へと向かう。


「……なあ、ユウさんってダンバス10年目だよな?」

「それでまだFランクってヤバくね?」


 同僚が俺の陰口をたたいている。

 みな俺より若く、10代の若者だ。


「そういや、こないだ経営を先代から引き継いだジンさんだっけ?」

「なんかダンバスの求人を出すって……」


 やばい。

 ここ数年いっこうに上がらないランクに、首のあたりが涼しくなってくる。

 俺は逃げるように事務所から出るのだった。



 ***  ***


「せっかくだから牛肉を……うっ、たかっ!」

「ケーキはマストだよな」


 仕事帰り、いつもより少しだけ高級なスーパーに立ち寄る。

 なぜなら、明日は愛娘の誕生日。

 11歳になる可愛い可愛い娘を養うため、俺は必死に仕事を続けているのだ。


 ぴこん


『迷宮掃除人管理局より当月分の児童手当を振り込みました』

『小計:52……』


 ショートケーキに乗せるイチゴの数をどうすべきか……悲しいほど小市民的な事に悩んでいると、無機質な通知メッセージがスマホの画面に浮かび上がる。


 そうか、今日が支給日だった!

 小さい子供がいるダンバスには、国から児童手当が支給される。

 俺がなんとかダンバスを続けられているのは、正直この手当の存在が大きい。


「……いつもより少し多い?」


 メッセージは見切れているが、いつもと違う数字が見えた。

 もしかしたら、誕生日手当かもしれない。

 そういえば、片親のダンバスに対する支援を手厚くするというニュースを見た。


「ありがたやありがたや」


 俺は夕食のごちそう(当家比)を買い集めると、愛しい娘が待つわが家へ急いだ。



 ***   ***


 ギイイッ


 築50年の2DK。

 風が吹けば吹き飛びそうなボロアパートは外階段を上るたびに異音がする。


 がちゃっ


「パパ、おかえりなさいっ!」


 ドアを開けた途端抱きついてきたのは、ひとりの女の子。

 ふさふさとしたプラチナブロンドに近い銀髪は肩の長さで大きく広がっている。

 まぶたが上下するたびに見え隠れする、くりくりとしたエメラルドグリーンの大きな瞳。

 ふっくらとしたほっぺに、すらりとした体躯。

 某有名私立学園の制服である蒼いブレザーに身を包んだ少女の名前は、アカシ リーサ・レンフィード。


 最愛の一人娘である。


「ただいま、リーサ」


 もふもふの頭を優しく撫でてやる。


「えへへ。

 パパ呼びもアリかと思って……どうかな?」


「さ、最高だ!」


「えへへ~♡」


 ふにゃっ、とはにかむリーサ。

 ああ、この瞬間のために生きていると言っても過言ではない。


「いつもおしごとお疲れさまっ」


 ぎゅうっ……抱きついてくるリーサを優しく抱き上げる。

 また少し背が伸びたかな、娘の成長を感じるのが父の幸せである。


「わたしのために……本当にだいすき。

 なでなで」


 俺の頭をよしよし、してくれるリーサ。

 天使か?

 天使だったわ。


「明日はリーサの誕生日だろ、ケーキもあるぞ!」


「やたっ♪

 これでわたしも11歳……ようやくユウを助けられるねっ」


「……うーん、本当にいいのか?」


 俺を”助ける”ことは、彼女の希望。

 とはいえ、リーサも忙しい私立小学生。

 そんな事をしてもらう暇は……。


 ピリリリリ


 夕食の後、家族会議かな?

 そう考えていた俺のスマホが呼び出し音を立てる。


「迷宮掃除人管理局:内線6721……?」


 知らない番号だ。

 迷宮掃除人管理局とはダンバスを統括している国家機関で、先ほど児童手当をくれた役所だが……。


「……もしもし?」


 役所からの電話となれば、出ないわけにはいかない。

 少々緊張して通話アイコンをタップすると、聞こえてきたのは涼やかな女性の声。


『申し訳ありません、児童手当を誤振り込みしました。 つきましては、隠蔽いんぺいにご協力頂けないでしょうか?』


「……は?」


 思いもよらない申し出に、目が点になった。

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