第十二話〈羞恥に震える〉
監視とはどういう意味だ――?
疑問の言葉を発する前に、英心が話しの続きを喋りだした。
「私は帝より直接命を受けた故、貴方を私の屋敷に連れ帰ります」
「帝が?」
「な、何故ですか!? 英心様!」
「詳しくは申し上げられません。千景殿に泰正殿の私物をまとめて頂き、泰正殿は私と共に来てください」
「はあっ!? 事情も教えないであんまりじゃないですか!?」
「千景、やめよ」
「――っでも」
声を荒げる弟子に泰正は諌めるが、この子の性分を理解しているので気持ちはわかる。このような理不尽さには到底承諾できないのだろう。
泰正とて気持ちは同じだが、今は帝の命に従わねば。
――千景を守るためにもな。
泰正は起き上がり、背筋を伸ばすと英心を見据えて深々と頷いた。
「承知した。千景はどうなる?」
「私の式神が見張らせて頂きます、何もしなければ危害など決して加えません。ご安心を」
「泰正様! 私も連れて行ってください!」
涙を零す千景に、泰正は微笑んで頭を撫でて囁く。
「心配するな。必ず戻る」
「わ、私もいきます……!」
嗚咽を漏らす千景を宥めたあと、泰正は英心に本堂から連れ出され、神泉苑を後にした。
泰正は前に英心、後ろに彼の式神である結縁に挟まれた形で、町中を歩いていく。
祭りの熱がまだ冷めやらぬ人々の興奮の感情が、そのまま己等に注がれている。
まるで囚人のようなていたらくに、泰正は内心でため息をついた。
それよりも、こんな心身不安定な状態で英心に監視される事に、嫌な予感がして胸が疼く。
屋敷に連れて来られると、すぐに奥の座敷に閉じ込められてしまう。
程なくして英心がやって来て、まずは狩衣を脱ぐようにと指示をしてきた。
「それは構わないが、着替えがないが。私物は千景が持ってきてくれる筈だが」
「ええ、だから脱ぐだけです」
「……まさか裸になれという訳では」
「身につけているものや、身体を確認する為なので、さっさと脱いでください」
「お、お前がするのか!?」
「当然です」
「……っ」
英心の表情は真面目過ぎて、狼狽える泰正が恥ずかしくなってきた。
それでも、まさか想い人に裸を見られるだなんて、到底受け入れられない。
少しの沈黙の後に、そっとたずねる。
「お前の式神に、代われないか」
英心は首を横に振った。
泰正はため息をついて、ならば勝手に前を隠せば良いと意を決する。
英心に背を向けて衣服を脱ぎ捨てた。
長い息を吐き出して、とりあえず指貫で下半身を隠していると、英心が前に回り込んで来て、突然指貫を取り上げられてしまい、真っ裸を見られて声を上げてしまう。
「あああああっ」
「……服には異変はないな、どれ」
「ひっ」
ペタペタと全身くまなく肌に直接触られまくり、泰正は硬直し、最後にはずるずるとその場にへたばり、荒い息を整えるので精一杯だった。
――よ、よく、声を我慢した、己よ……!
「特に問題はないな……ふむ」
やけに冷静な変態に向かって、泰正は声を荒げる。
「ど、どういうつもりだっ、こんな真似が許されると」
「はい? 何か勘違いをされてるようだが、たんなる確認です」
「だ、だから何のだ!」
「……風呂を沸かせてます、どうぞ」
「おい!」
言い捨てて去っていった英心に、まだまだ文句はあるが、目眩がして動けず、畳の上に寝転がって顔を両手でおおった。
「な、なんという羞恥……」
嘆いたら涙まで出てきて、そのまま消えたく無った。
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