ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます

SHIRA

プロローグ

0.人間のわたし

 この世に生を受けて20と余年、特に変わったこともない平和な幼少期を過ごし、普通の高校に進学して、まあまあな会社に就職して・・・仕事が辛いと思うこともあったけど、大好きな漫画や小説があって、仲のいい家族がいて自分なりに満足のいく生活を送っていた。




「うわっ、雪積もっちゃてますねー、先輩?」

「先輩って・・・あなた中途なんだから、わたしと数か月しか違わないでしょう?友達みたいに気軽に話してよ」

「無理です! 10か月違いですよ!? 先輩は先輩で、私は後輩です!」


 相変わらず細かいよ、この子は・・・先輩後輩とかじゃなくて、普通にこの子と友達になりたいだけなのに、何度も先輩扱いしないでって・・・名前で呼んでって言ってるのに。


「ほーんとっ、先輩って仕事はしっかり定時にあがるのに、そういうところがルーズというか、マイペースというか・・・」

「今日はあなたのせいで定時に帰れずにいたんだけどね。あんなの全部無視すればよかったのに」


今日は仕事終わりに2人で飲みながら、好きな小説について語らう予定だった。なのに、会社の男達が一緒に行きたいと言い出して、それをこの子が一人一人に丁寧に断っていた。


 全部無視すればいいのに・・・って思うけど、こういう優しいところが彼女のモテる理由なんだろうね。それに、わたしもこの子のそういうところが好きだ。

 彼氏どころか友達が片手で収まる人数しかいないわたしとは大違いだ。人付き合いは大変だ。


「もう、先輩じゃないんですから、そんなことできませんよ。美人が勿体ないですよー? それに、皆さん先輩目当てだと思いますけどねー・・・あっ、ここの坂、凍っちゃてるんでゆっくり下りましょう!」

「あのね、こういう所はあえて走って下った方がいいんだよ。走ろう」


暖かい地域出身の彼女にお手本を見せるべく、わたしは走って坂を下ってみせた。


 うん。恐がらずに勢いで行った方が意外と安全なんだよね。万が一転んだら悲惨だけど。


振り返って坂の上にいる彼女に手招きする。


「もう、ほんと美人がもったいな・・・」


ドコーーン!!!


まだ坂の上にいる彼女の言葉を最後まで聞き終わる前に、私の視界は真っ白になった。


「・・・いっ!」

「せん・いっ!!」

「先輩!!先輩っ・・・うぅ・・」


視界が戻った。さっきまで坂の上にいた彼女が、今まで自分が動かしていたわたしの体を、涙でぐしゃぐしゃになった顔で必死にゆすりながら叫んでいる。


それを上から見下ろしているわたし・・・。

 

 あれ・・・わたし死んだ? 死因は・・・雷? 噓でしょ!?ここはそこまで田舎じゃないし、ちゃんと避雷針だってあるよね!? なんなら、わたし坂の下にいたよ? どうして低所に居たわたしに落ちるかな!?


 ・・・・・・って今更言ったってどうしようもないか。きっと運が悪かったんだ。むしろ、前途有望な後輩に落ちなくて良かった。


 とにかく、死んだのに意識があるってことは、今のわたしって・・・幽霊みたいな感じなの? それにしては自分の腕とか足とかハッキリと見えるし、何だか凄くちっちゃくなってる気がする。


悠長にそんなことを思いながら、震える声で必死にわたしのことを呼び続ける後輩を見下ろしている。それから数十分くらい彼女はずっとわたしのことを呼んでいた。


通行人が呼んだのか彼女が呼んだのか、雪道を慎重に運転してきたであろう救急車がゆっくりと近くに停車した。


「お願いします!先輩を助けてください!!」


彼女が必死に救急隊員に懇願している。


 こんなにわたしのことを慕ってくれていたんだ・・・いい後輩をもったなぁ。将来は孤独死するかも・・・なんて思っていたけど、よかった。彼女には悪いけど、想像していたよりはずっと幸せな死に方で安心している。それに、彼女の眩しいくらいに明るい性格ならこの先も心配いらないだろう。


「やめて・・・私の大切なお友達なの・・・〇〇ちゃん・・戻ってきてよぉ」


彼女がかすれた声でポツリと呟いた。


 ・・・・・っ!

 死にたくないなぁ・・・もっと一緒にいたかった。彼女のこの先が心配だ・・・

 戻りたい!まだ死にたくない!!こんな所で大切な友達を置いて死ぬなんて最悪だ!!


だんだんと意識が上に引っ張られていく。もうここには居られないみたいだ。


 嫌だ!・・・戻して・・・っ!


今まで見ていた景色が下に、下に遠ざかっていく。


死にたくない・・・そう思いながら、わたしはかすれた声でわたしの名前を呼び続ける友達を見下ろしていた。



・・・



「新しい仲間が誕生したわ!!」


気が付くとわたしは巨大な木々が並ぶ森の中で、背中に羽がついている人達に囲まれていた。

どうやら、友達の元には戻れなかったみたいだ。


ドコーーン!!


わたしと友達を引き離した雷の音がまだ耳に残っている。

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