ミツバ

鳴平伝八

第1話 ある冬の日

 季節は十二月。冬。今年は豪雪だとテレビのお天気のお姉さんが言っている。お天気お姉さんってなんだか字面だけ見ると能天気なお姉さんみたいになりかねないな。なんてしょうもないことを考えているのかと、恥ずかしくなって、重なった皿に手を伸ばす。

 妻の日葵(ヒマリ)がそれを見て何か疑問に思ったのか、キッチンに立つ僕の方に振り返る。

「これってさ、毎年言ってるよね?」

 妻が不思議そうに問いかけてくる。妻とは大学の時に出会って、人並みに恋愛関係を築く延長線上で結婚をした。この人以外いないとか、愛してやまない相手というわけではない。しかし、心地が良かった。大学卒業後、すぐに同棲を始めた。一年後には結婚の話になった。同棲を考えていたころから、当たり前だが結婚のことも考えていた。ドラマチックなプロポーズをしたつもりはなかったが、たまに妻から、「あれは素敵なプロポーズだった」と聞かされる。僕の記憶があいまいなのか、妻の記憶が改ざんされているのかはわからない。

「ほんとにね。もしかしたら今シーズンとかじゃなくて、今年の一月二月のことも含めて言ってるんじゃない?」

 洗った皿を水切り台に並べながら答えた。

「あはは、そうかも。今年の初めは雪ひどかったから」

 妻は僕のひねくれた考えも笑って受け入れてくれる。

「もう一つ言うなら、予防線張ってるんじゃない?」

「予防線?」

「今年は降るぞーって言われて降らなかったら、天気予報外れたけど言うほど降らなくて良かったねってなるでしょ?降ったら降ったで天気予報の言うとおりだぁってなる」

「だから予防線」

「そ、どっちに転んでもリスクが少ない。いわばリスクマネジメント」

 気象予報士が素人の考える様なリスクマネジメントをするわけがないが、あながち間違えでもないのではないかという半々の気持ちだ。夫婦間の話なので文句はどうか控えてほしい。僕は人差し指を立てて、さも得意げ風な表情をする。こんな顔をすると妻は決まってこう言う。

「どや顔頂きました」ふっと微笑んで、「その顔は大学生から変わらないわね」

 懐かしむように出た言葉に昔を思い出す。しばし、その時を偲ぶような空気になった。

「そういえばさ……」

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