第24話 もう逃がさない
「ほら、遠慮せずに入って」
部屋に入れと促される。ドアを開けた先には玄関と廊下が見える。女子高校生の一人暮らしの部屋……入るのを躊躇してしまう。
「早く~」
「……お邪魔します」
そういって足を踏み入れた。玄関はとても綺麗というよりものがほとんどない。少し遅れて月も部屋に入った。
ガチャッという音を立てて扉が閉まる。その後カギを閉める音が鳴った。俺は何か嫌な気配を感じていた。一度入ってしまうともう逃げられないような気がしてならない。
「奥で待ってて」
俺は月の指示に従って廊下の奥に進んでいく。廊下の突き当りに扉があり、その扉を開いて中に入る。
リビングと思しき部屋はかなりきれいに整理整頓されている。白い壁紙と白いカーテンのせいで部屋全体が白く見える。
「荷物はそこらへんに置いていいよ」
「OK」
とりあず荷物を部屋の隅に置いて、床に座る。ジロジロと部屋の中を見回すのも気まずいのでスマホを取り出して画面を見つめる。
「緊張してるの?」
「まぁ…そりゃ…女子の部屋に入るなんてほとんどないし」
「ほとんど?……あぁ、妹ちゃんね」
一瞬、月は眉をひそめたがすぐに納得してくれた。実際、美香の家にも一度行ったことはあるが、それは黙っておくことにした。
「じゃあ…勉強、始めよっか」
以外にも月は静かに勉強していた。話しかけたり、気が散るようなことはせずおとなしく問題集を解いている。たまに飲み物を飲んだりトイレに行ったりしたがほとんど話すこともなく2時間ちょっと経過した。
「ふ~……そろそろ帰ろうかな」
一旦、シャーペンを机に置いて深く息をする。時計を見ると18時30分過ぎ、外は暗くなっていた。
「夕飯食べていきなよ」
「いや…家すぐそこだからそんな…」
「いいから、食べていくよ…ねっ」
俺が言い終わる前に彼女は立ち上がり、首をわずかに傾けながら俺に同意を求めてくる。
「家…近いんでしょ?じゃあ、食べてからでも遅くならないよね」
「あ…あぁ」
いつもより少し強引に引き留められる。家は目の前なので、帰ろうと思えばすぐに帰れる。
「やった~…じゃあ、すぐ準備するね。真は座ってていいから」
「いや…さすがに手伝うよ」
さすがに女子一人に料理を任せて横で待機は気まずい。さっきまで二人で使っていたテーブルから立ち上がり、キッチンの方に向かう。
「ふふふ…なんか夫婦見たい」
「…そうか?」
軽い気持ちで行ったが、そう言われるとなんとなく恥ずかしくなる。しかし、一度吐いた言葉は飲み込めない。そこからすぐに月は慣れた手つきで料理を始めた。
夕食のカレーは30分ほどで出来上がった。料理のほとんどは月が行い、俺は
野菜の皮を剥いたくらいでほぼ仕事をしていない。
月は白米とカレーを二つの皿に盛っていく。
「ほら、これ持って行って」
俺の方に料理を盛った皿を差し出して、俺はそれを持ってさっきまで勉強していたテーブルに持っていく。
「はい、これ」
「お、ありがとう」
銀色のスプーンを差し出され、それを受け取った。特に変わった様子はなかったが前科があるので、一応聞いておく。
「なぁ、変なものとか入ってないよな?…血とか」
「入ってるわけないじゃん。横で見てたでしょ?」
「いや…そうだけど…」
常に俺がいるのに変なものを入れるわけないか?月自身も食べるので、さすがに信用するしかない。
「ほら、早く食べよう」
「あぁ、いただきます」
「いただきます」
カレーと白米の中間をスプーンで掬い取って口に運ぶ。恐る恐るそれを口に入れて顎を動かす。
「…ん」
それは何の変哲もないただのカレーだった。軽くスパイスの効いた中辛のルーと白米がよく合っている。触感にも違和感はなく変なものは入っていないと確信する。
「美味しい?」
「あぁ…うまい」
「よかった~」
そういうと月も俺と同じようにカレーを食べた。俺も二口目を食べるためにスプーンを動かす。
「あっ、そうだ…何か飲む?」
「水で良い」
「OK」
月は立ち上がって再びキッチンに向かって、冷蔵庫を開けて水のペットボトルを取り出した。それを小さなコップに注いでこっちに持って来た。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
それを受け取ると一気に飲み干した。勉強中ほとんど水分を取っていなかったため、だいぶ喉が渇いていた。
「ふ~」
飲み干してからになったコップをテーブルに置いて、一息つく。置いておいたスプーンを持って食べるのを再開する。カレーの辛さからなのか妙に体が熱くなってきているような気がする。
「そういえば、家族には言ったの?」
「あぁ、友達の家でごはん食べるとは言ってある」
料理を作っている合間に母親にはメッセージを送ってある。母親からは了解とだけ返信があった。
「遅くなるって言ったの?」
「いや…ごはん食べてくるとは言ったけど、いつ帰るとは…」
「じゃあ…遅くなっても問題ないね」
「これ食ったら帰るからな」
顔を上げて月の方を見てみると彼女は目を細めて微笑んでいた。その顔を少しだけ恐ろしいと感じ、目があった瞬間に俺は目線を下げた。
「なんか…熱くない?」
「そう?辛い物を食べてるからじゃない?」
「そうか?」
辛い物は好きなので食べ慣れているはずなのだが、それにしても少し熱いと思う。
「水、飲む?」
「あぁ…自分で入れてくる」
そういって立ち上がろうと空のコップを持って立ち上がろうする。
「くっ…え?」
立ち上がろうとした瞬間、目の前の視界が歪む。足に力が入らず床に膝をついてしまう。何故か息が上がって呼吸が荒くなる。瞼が重い…目を閉じないように何度もまばたきを繰り返す。
「…どうしたの?」
「はぁ…はぁ…ちょっと眩暈が…は?」
顔だけを何とか上げて月の方を向くと、彼女の笑顔が目に入った。さっきよりも顔が赤く、まるで興奮しているように息も荒い。
まずい…瞼を開けていられない。目を開けていると少しずつ頭がくらくらしてくる。すぐに目を閉じて楽になりた…
そこで俺の意識は暗闇に落ちた。
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