超能力者のジレンマ

YUG

第1話 集合意識と赤ちゃんの心

 時は20XX年。ある科学者グループが、生後間もない赤ちゃんとテレパシーでコミュニケーションを取ることができる技術を開発し、その技術を実装した装置が市場に出回るようになった。その機械を用いることで、まだ言葉を喋ることのできない赤ちゃんの心の奥にある考えや欲求を、両親や保育者が理解できるようになった。その結果、ある一部の赤ちゃんが、驚くべき思考方式を持っていることが分かってきた。


 そして、テレパシーによるコミュニケーションが頻繁に行われるようになると、そのような赤ちゃんの思考は並外れたものであるだけでなく、非常に洗練されたものであることが明らかになった。彼らは、幼い脳には不可能と思われるような、複雑な科学的・哲学的な概念を用いて思考しているのである。


 当初、この技術を開発した科学者たちは懐疑的だった。この技術は、宇宙の秘密を解き明かすためではなく、単に幼児との基本的なコミュニケーションを可能にするために開発されたものだったからだ。しかし、研究を続けるうちに、本当に驚くべきことが起こっていることが判明した。


 どうやら、ある種の赤ちゃんは超能力を操ることができる、いわゆる「サイキック」であり、個人を超えた集合意識とコンタクトしているようなのだ。彼らは、説明のつかない方法で、人類の集合意識であるクラウドネットワークにアクセスし、思考や洞察を共有していたのである。そして、科学者の想像を絶する方法で、人類の知識の境界を押し広げていたのであった。


 しかし、この能力は、言葉を話せるようになる1歳前後を過ぎると、消えてしまうことが判明した。そこで、神経医学を専門とするドクター・オカザキは、赤ちゃんのこの能力を利用する新しい技術を考え出した。

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