第73話 vs黒騎士

 俺の前に立ち塞がる黒い鎧の騎士。


 レベル55——≪黒騎士≫は、上級ダンジョン十戒に出てくる最初のモンスター、≪白騎士≫の変異版……強化版とも言える固体だ。


 レベルを見ればわかるとおり、黒騎士はあらゆる能力値が白騎士より高い。もちろん、攻撃パターンも似てるがちょこちょこ変わっていたりする。


 だが、黒騎士がこのダンジョンの真骨頂と言われる所以……それは、黒騎士が持つ能力に由来する。


 というのも、黒騎士の攻撃には≪呪い≫と呼ばれる状態異常を誘発する固有スキルが宿っている。


 ——一撃でも喰らえばアウト!


 とまでは言わないが、さまざまな状態異常を低確率で付与してくる黒騎士に何度も殺されたというプレイヤーは多い。俺もその内のひとりだ。




「お前には、ずいぶんとお世話になったよ、ほんとに」


 恐怖。不安。困惑。


 胸中を占めるマイナスイメージが、あと一歩という短い距離を歩かせない。目の前に巨大な壁でもあるかのように体が動かなかった。


 確実に勝てる保障はない。もう少しレベルを上げてから挑んだほうがいい。そうだろう。間違いない。


 黒騎士は白騎士以上に厄介な敵だ。仮に状態異常の中でもっとも危険と言われる≪麻痺≫に陥れば……いまの俺のレベルでも数発で黒騎士の刃に倒れるだろう。


 この世界に蘇生手段はない。


 ゲームではないのだから、ロードもなにもない。死んだらやり直せるわけではない。


「…………それでも、やっぱり……」


 グッとこみ上げてくる恐怖を、拳を握ることで振り払う。額にじんわりとかいた汗を拭い、キッと瞳を細めて覚悟を決めた。




 やっぱり俺は、せっかくこの世界に来れたのだから強くなりたい。


 これほどまでに焦がれた世界に転生しておいて、前世みたいに簡単に折れるわけにはいかなかった。


 一歩、前に踏み出す。




 その瞬間、黒騎士の瞳に明確な殺意が宿る。




「ッ————!?」


 向けられた強烈な殺気。


 ゆっくりと剣を抜いて構える黒騎士を眺めながら、俺はさらに一歩、二歩と前に出る。


 やがてお互いの距離は縮まっていき、それが五メートルほどになると、俺も黒騎士のように剣を構えた。


 それが合図となる。


 黒騎士の体が、白騎士のように塵となって消えた。次に現れたのは、俺の背後だ。白騎士の時より、移動から攻撃までのラグが短い。


 回避は不可能だと判断した俺は、剣を背中に回してガードを試みる。


 鉄同士がぶつかり合い、甲高い音が建物の中に響く。


 筋力ステータスで黒騎士に劣る俺のほうがわずかに前に押されるが、吹き飛ばされることはなかった。


 次いで、俺が一歩前に出ると、逆に黒騎士は一歩後ろへ下がった。互いに剣による攻撃範囲を調整し、ほぼ同時に武器を打ちつけ合う。


 やはり腕力差があるせいか、剣による打ち合いは俺のほうが不利だ。しかし、前世の記憶を現実の体にフィードバックするまでの時間がかかる。


 俺の予想より、黒騎士の能力が高かったせいだ。


 加えて、黒騎士の攻撃に当たってはいけない、という脅迫概念にも似た意識が、咄嗟に回避ではなく安全なガードをとらせてくる。


 ——このままだとちょっと危ないな……。


 そう考えた俺は、何度目の打ち合いの末に後ろへ大きく飛んだ。黒騎士との距離が空き、それを活かして魔法をぶちこむ。


 属性はやはり相性のいい神聖属性。他にも黒騎士は水属性にも弱い。あの高速移動からの連撃は厄介だが、相手も距離を離せば魔法が飛んでくるためかなり戦いにくいだろう。


 前に戦ったキマイラと違って、黒騎士は遠距離攻撃を一切もっていない。高速移動にさえ気をつけていれば、距離を離して魔法を連射するのも楽な倒し方ではある。ゲームだと、十分にレベルを上げてから殴ったほうが、周回効率はもちろんいいが。


 しかし今回は初見。


 相手の動きを完璧に体に馴染ませるために、俺は時間をかけて黒騎士と戦う。




 剣を振る。


 剣を振られる。


 受け止める。


 避ける。


 距離を離す。


 魔法を打ち込む。


 徐々に一定のペースで同じ動作が繰り返される中、俺の体が黒騎士の動きになれていった。ガードより回避の頻度が増える。


「ふっ……!」


 上段からの斬り落としを紙一重でかわし、がら空きになった懐へ強化された俺の剣撃が吸い込まれる。


 かなりのダメージを蓄積した黒騎士は、どこか苦しそうに、それでいて機械的に反撃をくり出す。


 剣を盾にしてガードすると、これまでと違って相手の力を利用して後ろへと飛んだ。攻撃が交差する瞬間に後ろへ飛べば、さらに飛距離が稼げる。


 これで、自傷する可能性が減って遠慮なく魔法をぶち込める。


 戦いながらもどんどん最適な倒し方を探していく。




 そのすえに、俺の実験体となった黒騎士のHPがゼロになる。


 最後に水属性魔法の攻撃を受け、とうとう黒騎士が膝をついて倒れた。全身が武装ごと粉々に砕け散ると、砕けた体が紫色の煙となって消えていく。


 だが、残されたものもある。


 それを見つけた途端、これまでの疲労など吹き飛んだ。


 まさかまさかと思って叫んでしまう。




「れ、レアドロップきたぁあああ————!?」


———————————————————————

あとがき。


最近、急に☆とかPVとか増えたなあ……。

なんでだろう?

泣きそうなくらい嬉しいけど!

みんな応援してね☆(すぐ調子にのる)


しかも長期連載を望むギフトまで……⁉︎

わ、わざわざそこまでしなくても続けるよ?

ありがとうございます(土下座)。

いまはもう三章書いてるよ〜。


貰ったものを返せるくらいには書きたいなあ。

もちろん、毎日更新でね。

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