第308話





「……で、空飛んでるのがウザいな。天使……アイツら叩き落とせるか?」


 レインは自分の頭上数十メートルで浮遊する黒い熾天使に声をかける。人間同士なら会話は不可能だが、傀儡ならばこれで十分通じる。


 約20体のドラゴンの集団はここら周辺で1番強い魔力を放っているレインたちに狙いを定め、まっすぐ向かってきている。


 レインの言葉を受けた熾天使は両手を前に突き出し紫色の魔法陣を展開する。その魔法陣はこちらへ真っ直ぐ向かってくるドラゴンたちの頭上に出現した。

 するとドラゴンたちは一瞬の硬直の後地上へと落下していく。必死で翼を羽ばたかせて飛ぼうとしているが、高度は上がるそのまま地上に激突した。


 少し離れた場所に落下したが、ここからでも分かるくらいの土煙が舞い上がっている。あれだけでも相当なダメージを負っているだろう。



「なんか落ちていくな。何したんだ?」


「おそらく重力系の魔法を使ったのだと思います。飛竜に限らず有翼型のモンスターは身体の一部でもバランスを崩せば飛べなくなります」


「なるほどな。このままあの飛竜たちも戦力に加える。空飛ぶ悪魔にもコイツらで対応できるなら少しはマシになるだろ」


 熾天使の重力魔法により地上に縛り付けられた飛竜たちの前に立つ。受け身を全く取れず硬い地面に激突したせいで既に虫の息だった。

 そんな飛竜たちの首をレインは容赦なく切断した。これによりレインは新たに空の戦力までもをその手中に収めた。

 


◇◇◇



「ねえ、お兄ちゃんやっぱり私もレインくんのいる前線に行きたいんだけど」


「ダメに決まってるだろ。何を言ってるんだ」


 ここはレインがいる黒のゲートより南側、緑のゲートと黒のゲートの中間地点だった。ここには少し大きめの湖があり水と氷の魔道士と神覚者が配置されていた。


 ここは他の巨大ダンジョンからもSランクダンジョンからも離れており湖を天然の要塞と見立てて防壁もレインたちのいる場所より頑丈には造られていない。いくつかある要塞防衛線の防御が手薄な部分に当たる。


 そこに配置されたのはいつも一緒にまとめられるイスベルグ兄妹たちとメルクーア王国軍たちだ。


 他のダンジョンは崩壊して多くの戦線で戦闘が走り、今や激化の一途を辿っている。そんな状態がさまざまな地点で起きているのにメルクーア王国軍の担当する南側は平和そのものだった。


「ここは他のどのダンジョンからも離れてるんだ。戦闘が始まるのが遅くなるのは当然だろ。警戒を怠るなよ?」


「分かってるって……でもアリアもいるしこの湖を超えるのはモンスターでもかなり厳しんじゃないかなぁ。多分ここに最初に到着するのは悪魔種だと思うけど……同情しちゃうよ」


 メルクーア王国軍が守護するこの場所を突破するには湖を越える必要がある。しかし水を操る神覚者であるアリアがいる限りまともに泳いで突破するのは不可能。故にある意味では最も堅牢な防壁となっていた。


「ふむ……ここが1番手薄なんだね」


 そんなレダスのオルガの会話を遮るように別の声が響いた。


「何者だ!!」


 ここに配置されたメルクーア王国軍の誰でもない声。新しい覚醒者が配置されるという報告も受けていない。この声は少なくともレダスたちが知っている味方ではない。


「お兄ちゃん!あそこだ!」


 オルガが指差す先にレダスたち覚醒者や兵士たちの視線が集中する。


「やあ……こんにちは……」


 レダスのたちの前にいたのは瞳を閉じ、優しく微笑む1人の女性だった。白銀の神官服と汚れ1つ見当たらない純白の魔道士のローブを着用している。神官服と同じ白銀色の長い髪が腰の方まで伸びている。その綺麗な白い肌の手には白銀の長杖が握られていた。


 そんな見惚れるほどの美しさを持った女性はレダスたちが立つ防壁を見下ろす高さに浮遊している。


「貴様……こちらの問いに答えろ。何者だ」


「私かい?私は第5厭世の魔法オディウムだ。神の軍勢を滅するためにこの世界に軍を率いてやってきた魔王の一角だよ」


「……っ?!総員攻撃用意!!」


 レダスは直感で理解した。コイツは敵で今すぐに滅ぼさなければ全滅する。突破したモンスターたちはここから大量に侵入し、前線で戦っている覚醒者たちが背後を取られる事になる。何としてでも今この場でこの魔王と名乗る女を殺害しなければならない。


 レダスの大声にその場にいた覚醒者たちが魔法を放とうとする。


「伝令!すぐに本部に報告を!行け!!」


 レダスは自身がすぐに放てる最高威力の魔法を放つ準備をする。


「ふむふむ……指揮系統はちゃんとしてるんだね。人間だと思って舐めてかかると痛い目をみそうだ。と言っても舐めてかかるくらいがちょうどいいのかもしれないね」


 魔王オディウムは指をパチンと鳴らした。すると湖の中や防壁の上空、防壁の内部や湖の周辺など、至る所に白い魔法陣が展開された。


「これは……一体何をしようと……」


「君たちは転移魔法を使って人員や物資を移動させているんだよね?転移門を使って世界を移動する我々が何故同じ事をできたないと思ったんだい?」


 その白い魔法陣からは無数の巨人が大挙として姿を現した。

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