第230話






◇◇◇



「………傀儡召喚」


 レインは赤い女性と武器を交えた状態で傀儡を召喚する。女性の背後から剣豪と聖騎士を筆頭に傀儡たちが一斉に出現する。傀儡たちは武器を使わず女性に殴りかかる。さっきも言った通りローフェンはいない。正式な試合でもないのに殺すのはマズイと心の中では分かっていた。


「はっ!そんな雑魚に私がやられるか!本気で掛かってこいよ!!」


 女性は長剣と斧を身体を回転させて振り回す。技術なんてものは皆無だ。ただ身体能力で武器を振り回しているだけ。つまりレインと同じだ。


 しかしその力が圧倒的に強い。その振り回しでレインも傀儡たちも吹き飛ばされた。


 傀儡たちは闘技場の壁に直撃する。一方、レインの身体は誰かによって優しく受け止められた。


「………………なんだ?」


「ふはははは!!レインよ!苦戦していッ」


 自分の顔のすぐ横に白髪で髭のおっさんの顔があった。カトレアがよくしてくるレベルの距離だ。これまでの人生で1番驚いたと言っても過言ではない。本気で命の危機を感じたレインは咄嗟に渾身の力で殴ろうとした。


「うおおおおお!!何でここにバケモンが?!」

 

 しかし別の手がそれを受け止める。レインの拳と別の手がぶつかった事で周囲に雷が放たれる。


「気持ちはとてもよく分かるが落ち着け」


「シリウスと………チッ…お前かよ」


「んん?何か差別的なものを感じるぞ?……まあ良い。助けはいるか?」


「どっちでもいいけど……アイツは誰なんだ?なんで攻撃をやめない?カトレアが変な魔法でも掛けたのか?」


 レインの疑問に2人は怪訝な顔をする。なぜそんな表情をするのかレインには理解できない。知っていないとおかしいくらいの有名人だったのなら謝ろう。

 

「アイツとお前は血縁関係にあるんじゃないのか?」


「………………は?」


 血縁関係?って事は家族って事か?もしくは親戚的な?そんな奴はいない。レインにとって血縁関係という意味での家族はエリスだけだ。


「違うのか?」


「違……って来てるぞ。助けは……まあピンチになったら援護してくれ。かなり強いから本気で殺す気でやらないとな」


 レインはシリウスを避ける様に前に進む。そしてこちらへ斧を振り上げて突っ込んできた女の攻撃を受け止める。やはり物凄い力だ。攻撃を正面から受ける度に地面が抉れる。


「おいおい……助けてもらわなくていいのか!お前みたいな雑魚は群れないと勝てないだろ?」


「………………………………」


「ったく言葉も話せないのか?そう言えばさっきの魔道士ウィザードの女もお前の事を適当に馬鹿にしたら戦術がガタガタになったなぁ!なんでお前みたいなのに好意を抱いているのか分からん!

 お前に仕えている使用人もなんでお前みたいな無能に仕えるんだ?主人のお前が無能ならお前の家族も使用人も無能って事ッ」


 その言葉を言い切り前に赤い女性は吹き飛ばされる。闘技場の半分ほどの距離を移動させられた。


「…………なん…だ」


 女性の両手は激しく痙攣する。持っていた武器に受けた衝撃が強すぎた。女性が顔を上げるとすぐ目の前にレインの刀剣が向かってきている。


「……ぐ!」


 それを長剣で辛うじて受け止める。が、その力に耐えられず女性はもう一度吹き飛ばされた。そして次は闘技場の壁に背中を打ち付けるくらいに飛ばされた。


「…………クッソ……いってぇな」


 女性が背中に受けた衝撃に苦悶の表情を浮かべる。しかし休息の時間は与えない。レインは既に斬り掛かっている。


「チッ!」

 

 女性は地面を転がる様にしてレインの斬撃を回避する。その女性がいた場所はその斬撃で真っ二つになる。魔法石で強化されているはずの闘技場の壁は崩壊する。


「や、やるじゃねえか」


 立ち上がった女性の顔に冷や汗が浮かび上がる。対するレインの感情は読み取れない。ただ剣を向けて歩いて来ている。


「お前も頭が悪いようだから教えておいてやる。俺のことはどう言おうと構わないが、俺の家族の事を悪く言うならそれ相応の目に遭ってもらう事にしている。俺について来てくれる使用人たちも俺の家族だ。

 今、降参するなら決闘の決勝戦で殺してやるが、どうする?今ここで死ぬか?ローフェンはカトレアの治療でここを離れている。お前は復活できず、本当に死ぬ事になるぞ」


「舐めるんじゃねえぞ!!」


 目の前に迫るレインに対して女性は斧を振るった。レインは脚に力を入れて斧を受け止める。


 "最初は衝撃に驚いたけど……慣れればいけるな。ただカトレアやアメリア達のことを悪く言ったんだ。降参しなくても死なない程度に殴る。シャーロットさんからの依頼もあるから神話級ポーションは手に入らないといけないし"


「……そうか、降参するなら言えよ?死にたくないならな。そうすれば決勝戦で真面目に戦ってやる」


「調子に乗るんじゃねえよ!!…………って…何だよ?今良いところなんだから邪魔するなよ。……あん?いやまだ分かんねえだろ?」



 レインと女性が再度ぶつかろうとした時だった。女性の様子がおかしくなる。何かと話しているようだが、周辺には会話をしているような人は誰もいない。レインの目と耳に悟られずに会話するというのはかなり難易度が高いはず。


「………………ふぅー…」


「お前……さっきから何を言って……」


「では……決勝でお会いしましょう、レイン・エタニアさん?棄権なんて許しませんよ?」


 女性は斧を地面に突き刺し手放した。すると斧は砂のように崩れて風に乗って消えてしまった。


 さらに女性の雰囲気が明らかに変わった。先程までとは別人だ。モンスターみたいな性格をしていたのに今ではアメリアを彷彿とさせるような優しい笑みを浮かべている。


「は?……お、おい!」


「ではまたお会いしましょうね?」


 それだけを言い残して女性は反対側のゲートへ帰って行った。


 

 

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