第101話









「ステラ!!」


 あの速度に反応できたのはニーナやサミュエルだけだろう。そして反応してから動けるのはニーナだけだ。


 だがレインにも反応できたし、1番ステラから近い位置にいたのもレインだ。



 レインはステラを突き飛ばして人型モンスターの爪を剣で受け止めた。ステラを突き飛ばした先にはサミュエルがいる。きっと受け止めてくれるの信じてかなり強く突き飛ばした。


 おそらくかなりの衝撃と痛みだったと思うし、怪我もしただろう。でもそれはステラを守る為だと分かってほしいと願った。



 レインが構える刀剣にモンスターの爪が触れた。



 "重ッ!!"



 この細い腕と身体のどこにこれほどの力があるのか分からない。ただコイツがずっとエリスを苦しめていた元凶なのは確定だ。


 こんないきなり人の頭を狙うような気色の悪い奴と可憐で優しいエリスが関係している訳がない。



 コイツに取り憑かれたせいでエリスが病気になった、そうレインは自分の中で確定させる。そして何としてもコイツを殺すと誓った。



 "だけど……ここでは戦えない。コイツの純粋な力は俺と並ぶ。サミュエルやニーナならともかくアメリアたちを危険に晒すことは出来ない"



 レインとモンスターの力は拮抗しその場に停滞する。しかし巻き添えを恐れて本気で戦えないレインは徐々に押され始めた。



「レインさん!!」



 剣と鋭爪の拮抗が続く中、まず動いたのはニーナだった。持っていた予備の太刀を抜いて後ろからモンスターの首に斬りかかる。



 バキンッ――しかしモンスターの首は斬れず、ニーナの太刀が折れた。



「え?!」



 ニーナの斬撃を受けたモンスターは左腕の先を丸めた。

 すると先程まで鋭利な爪だったのが、一瞬にして形を変えて小さな戦鎚のような物に変わった。



 そしてレインの方を向きながら人間ではあり得ない角度で左腕を真後ろに回してニーナを殴り付けようとする。



 ニーナは〈神速〉を用いて後ろへ少し下がって回避する。しかしモンスターが振った腕の風でテーブルや椅子が舞い上がり壁にぶつかる。部屋の中はめちゃくちゃだ。



 "駄目だ!このままじゃみんなが危ない。だったら……"



 レインは敢えて力を抜いた。当然一気に押し込まれ背中を壁に打ち付ける。それでもモンスターはレインへと突き進む。壁がミシミシと音を立てるのが分かる。



「レイン様!!」



「コイツは俺が倒します!ただ街へ被害が出るかもしれません!!住民を避難させて下さッ」



 ドガァンッ!!!――モンスターはさらに力を込めてレインを壁に押し込んだ。

 とうとう屋敷の壁は耐えきれずに一部が崩壊した。レインはモンスターと共に外へ飛び出す。



 他の家への被害が出ないように力を入れ直して飛んだ。



「お前は俺だけ見てろ。絶対に殺してやるからよ」



 レインとモンスターはすぐに街の中心へと移動した。



◇◇◇



「レインさん!」



 ニーナはレインを追いかけようと空いた穴から飛び出そうとする。



「待て!!」



 しかしサミュエルがそれを止める。サミュエルは受け止めたステラをゆっくりと床に寝かせる。


 いくらBランクといえど神覚者であるレインの体当たりを受けて無傷では済まない。すぐに阿頼耶が来て回復スキルを使った。



「マスター?!なぜ止めるんですか?!レインさんを助けに行かないと!」


 ニーナは納得できず反論する。


「いえ……サミュエルさんが正しいです」


 しかしシャーロットもサミュエルに賛同する。


「シャーロット様?何故ですか!」



「貴方のその折れた剣で何が出来るのですか?そのままレイン様を追いかけても足手まといとなるだけです。

 それよりもサミュエルさん!あのモンスターの強さはどの程度と予想できますか?」



「そうだな。……彼は力だけならば世界屈指だ。彼がどこまで本気なのかは分からないが、あのモンスターが格下ならば組み伏せるか剣で両断できたはず。

 それが出来ずにこうなっているという事はあのモンスターは力のみであればSランク以上だ」



「ならば王家として対応せねばなりませんね。サミュエルさん……イグニス王国第1王女シャーロット・イニエル・ディール・イグニスとして要請いたします。

 『黒龍』ギルドの覚醒者たちを動員し、この街の住民の避難、レイン・エタニア様の援護などをお願いします」



「承知した!!」



 サミュエルはシャーロットの要請に即答する。そしてすぐにこの場にいるSランクを見渡して話す。



「まずはロージア!ここに残りみんなを守れ。また戻ってくる可能性もある!彼がどれだけ強くても身体は一つしかない。あのモンスターがどんな手を打っても対応できるよう対策せよ」



「かしこまりました」



「次にリグド!お前は『黒龍』本部へ向かえ!そこにいる覚醒者を全て動員して住民の避難だ。決して戦うなよ?Sランク以外は死ぬだけだ。本部を解放する事を許可する。全て招き入れろ!」



「了解です」



「最後にニーナだ!お前はすぐにフル装備に着替えてこい。その後、俺と合流し、エタニアと協力してあのモンスターを討つ!」



「その命令を待っていました。私は先に行かせていただきます!」



 そう言ってニーナは消えた。〈神速〉を使って部屋に空いた大穴から飛び出してメイン装備がある本部へと向かった。



 それを追いかけるようにリグドも飛び出す。ロージアは阿頼耶や回復したステラに強化支援魔法を付与する。



 そして壁に穴が空いた音を聞いた兵士たちが一斉に部屋の中に飛び込んできた。シャーロットが外で待たせていた護衛の兵士たちだ。



「シャーロット様!ご無事ですか!」


 兵士たちはいつでも剣を抜ける状態、臨戦態勢だ。


「私は無事です。それよりも緊急事態です」


 シャーロットは入ってきた兵士たちを見渡し、状況を伝えて命令を下す。



「現在、『テルセロ』内にSランク相当のモンスターが侵入しました。神覚者レイン様が単騎にて迎撃しております。この街の中での戦闘が予想されます。

 すぐに動ける全ての兵士を動員して『黒龍』ギルド本部か王城へ避難するように国民へ伝えなさい。モンスターが侵入した事も伝えて下さい。

 多少の混乱はあるかと思いますが、無闇に安心させて巻き添えになるくらいなら、混乱してでも逃げ延びてもらえた方がずっといい。すぐに行動しなさい」



「「「ハッ!!!」」」



 数十名の兵士たちも一斉に部屋を飛び出して行った。



「レイン様……こちらの事はお任せ下さい。なので気兼ねなくその宿敵を……」


 

 シャーロットは崩れた壁から外をただ眺めていた。

 


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