第69話









◇◇◇



「大変お待たせ致しました」



 シドナは数十分で戻ってきた。その時に2人のスタッフを引き連れていた。多分1人で持ち切れなかったんだろう。黒いボードを2人のスタッフが持っている。そしてシドナが席に座るとレインたちの前に並べるよう指示した。


 レインの前には10本のブレスレットが並ぶ。細い金色の糸で編まれたような物や黒い革のベルトに黒い宝石が当て嵌められた物、ピンク色の宝石が付いてる物や銀色の物など違う種類を用意してくれたみたいだ。



 レインは黒い物を取ろうとするが、その手を止める。これを身につけるのはレインではなくエリスだ。


 あの子は優しいから何を貰っても嬉しいと言いそうだし、実際何を身につけても可愛いことに変わりはないがそういう問題ではない!!



「ステラ……エリスに似合いそうなのは何だと思う?」


「レインさんが考えている通り何を身につけても似合うと思いますが……私が選んでいいんですか?」


 この人は天才ではなく人の心を読めるようだ。もしかして神覚者なんじゃないだろうか。エリスの事になると頭が悪くなるレインはどれが似合うか必死に考えた。


 ただエリスの可愛さはブレスレットなど身につける物で変わるものではないという謎の自信から選べない。ぶっちゃけ何でもいい。だって何でも似合うから。



「……使われている魔法石は同じような物ですか?」



「はい!これらは当店で用意できる最高峰の魔法石です。これ以上の物となるとAランクの中でも上位に位置するダンジョン内にある状態の良い魔法石を買い付ける必要がありますね」


 ちょうど大量に持ってる。



「……そうですか。これとか使えます?」



 レインは机の上に傷付けないように魔法石を置く。レインには見ただけでその品質がどうなのかは分からない。



「次元収納スキル……ですね。とても珍しいスキルだと聞いております。それにこの魔法石……これはどこで?」



「さっきAランクダンジョンをクリアしてきました。ただ俺には品質が分かりません」



「これは……とんでもない品質です。このレベルの魔法石は強度が高過ぎて我々には加工が難しいんです。申し訳ございません」



「そんな謝らなくてもいいですよ。これは触っても良いですか?」



「もちろんです!どうぞ触って選んでください」



 シドナの許可も得たのでブレスレットに触れる。とりあえず真っ先に目に入った黒いブレスレットを持つ。



 ほのかに魔力を放っている。レインが触れた事でレインの持つ魔力と共鳴している。レインは密かに傀儡を送り込んでみる。


 とりあえずBランク相当の上位剣士だ。傀儡はレインの手を伝ってブレスレットに移った。そしてブレスレットの宝石、つまり魔法石の部分から黒い魔力が溢れて出る。



 強度的も問題なさそうだ。それでも上位騎士で試してみないと安心は出来ない。



「これはいくらですか?」



「そちらは480万Zelになります」



 シドナは微笑みを絶やさずに答えた。



「たッ」



 思わず声に出てしまった。レインは当然アクセサリーの価値を知らない。これが500万近くするのか?

 


「…………た?」



「……た…逞しい金額ですね」


 レインは咄嗟に誤魔化す。自分でも誤魔化せたとは思っていない。


「……ぶふッ」



 横のステラが吹き出した。レインは横目で睨む。ステラは1回だけ咳払いをして黙った。



「じゃあとりあえずこれを貰います」


「ありがとうございます。お預かり致します」

 

 そう言ってレインはシャーロット王女から貰っていたカードを渡す。それをシドナは両手で受け取り、そのままスタッフへ渡した。

 やはり対応が慣れている。王族や貴族でしか持たないカードのはずなのに。多分これまでもそういった階級の人たちを相手にして来たんだろう。



「何かに包みましょうか?それともこのまま……」


「このままで大丈夫です。少しやってみたい事があって……」


「やってみたい事?」



「ええ」



 レインはブレスレットに傀儡を送り込む。黒いブレスレットか。エリスは黒髪だから何となく似合うと思う。何を身につけても似合う前提の話だ。



 レインは傀儡、その中でも上位騎士を1体、また1体と送り込む。



 "アイツらは1体でAランク覚醒者ぐらいの強さがある。10体くらい居れば問題ないはず。……あとアメリアたちにも渡すし……全部に10体ずつ入れとくか。エリスが1人で外に出る事はないはずだから……何とかなるよな"



 ブレスレットに10体の傀儡を送り込んだ。魔法石が砕けてしまうかと思ったがそんな事はなかった。

 最初送り込む時に溢れていた黒い魔力も内部に浸透したのか小さく光るのみとなった。これならエリスたちに余計な影響は出ないだろう。



 あと人数分揃えるだけだ。



「じゃあ……阿頼耶とステラも選んで。ステラはアメリアとクレアの分も」



「え?!私たちもですか?」

「私はこれで」



 阿頼耶はすぐに黄色っぽい色の魔法石が嵌め込まれたブレスレットを指差した。


 すぐにステラも3つすぐに選んだ。別にここでは急いでる訳じゃないからちゃんと選んでほしい。


 アメリアには赤色、クレアは緑色、ステラは青色のブレスレットにしたようだ。


 その全てに傀儡たちを送り込む。阿頼耶には必要ないかもしれないが何かあってからでは遅い。


 傀儡たちを送り込む事で魔法石の色が変わってしまう事も考えたがそんな事はなかった。あと予備として紫色の魔法石が嵌め込まれたブレスレットも買って傀儡を送り込んだ。


 あとは家の庭とか屋敷内の各地点に騎士たちを配置する予定だ。Aランク覚醒者相当の傀儡たちが100体以上警護する屋敷だ。


 どの国の屋敷よりも警備は厳重だろう。それに傀儡だ。侵入者に対しては容赦がない。もし何かあったとしても守れるし、2度と帰ることもできない。そうすれば確実にそんな奴は減っていく。



 ブレスレットを6つ買って店を出る。合計で3000万くらい使った。実際にお金を持っていた訳じゃないが、ハラハラした。一回でここまでの大金を使う経験がない為、変な汗をかく。


 ただこれで目的は達成された。次はいよいよ『ハイレン』へ行く。もう少しでレインの目的が達成される。



 まだ出発まで時間はあるがそれまでただ待っているだけなんてあり得ない。少しでも強くあらなければならない。



「……帰るか」



 でもそれは明日でいい。早くエリスに会いたい。レインたちは急ぎ足で帰路に着いた。

 

 

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