第58話
「ご主人様……夜分に申し訳ありません」
「別に大丈夫だよ。どうした?」
レインはベッドの上であぐらをかいたまま話す。別に畏まらなくても大丈夫だろう。
「……ご主人様、これは黙っているようにと言われておりましたが心配ですのでお伝えしようと思いました」
アメリアから不穏な空気が流れる。
「どうした?」
「エリス様が寂しさから……でしょうか。泣いておられます。現在はクレアが話し相手をしておりますが、この状態が続くのはエリス様にとっても良くないかと」
「エリスが?!」
「はい。私がご主人様をお呼びする事を提案しましたが、疲れているだろうし迷惑をかけたくないと。
この屋敷はあまりにも広すぎます。エリス様は特に孤独を感じてしまうかもしれません」
「そうか。俺は……考えが至らない事ばかりか。俺が寂しいって言ってエリスの元へ行けばいいだろうか?」
「ご主人様にお任せ致します。私もクレアの時に経験しました」
「経験?」
「はい、ここでご主人様がエリス様の元へ行けば寂しさは免れるでしょう。
しかしながら今後、ご主人様はこの屋敷を離れる事が増えると思います。その時のために……エリス様の成長のために我慢するという手もございます。
ここに来ておいて矛盾しているかもしれませんが……この2つの選択の中で私は後者を選びました」
「……そうか。そういう考えもあるのか。今までの俺には無かった考え方だな」
「出過ぎた真似をして申し訳ありません」
「いや謝らないでくれ。やっぱりアメリアたちと出会えて良かった。これからもエリスを頼む。あと……数日後には『ハイレン』へ行かないといけない」
「『ハイレン』……ですか?あの治癒の国と呼ばれる?」
「そうだ。そこにエリスを治す為のポーションがある。そこで開催される『決闘』っていう大会があるらしい。その優勝商品がそれだ。だからしばらく留守にする」
アメリアには今後の予定を全て伝えた方がいいだろう。
「それをエリス様は?」
「知ってるよ。アメリアには今後の予定を伝えておくよ。我が家のメイド長?でいいかな?エリスを治した後は国王からの依頼で『メルクーア』に行く事も決まってる」
「メイド長……承りました。妹たちと協力してお2人をお支え致します。……ご主人様はお忙しいのですね」
「それが神覚者って事だからな。ただ俺の行動は全てエリスの為だと思ってる。寂しい思いをさせてしまうのは悪いと思ってるが……」
「大丈夫です。エリス様も分かっていらっしゃると思います」
「それなら良かった。エリスを頼みます。後はこれを渡しておきます。忘れそうなんで」
「……これは?」
レインはシャーロットからもらっているカードを3枚手渡した。これは神覚者の従者である証明書兼身分証明書と同時に買い物でお金を持たずに使える王家や貴族専用のカードだ。写真もつけられているから他の人は使えない。
エリスや自分達にとって必要だと思ったら好きに使って、何でも買っていいと言ってある。
これがあればレインの財産が全て無くならない限りは買い物ができる。かと言って何でも使いまくったら無くなるから出発までの間でダンジョンを数カ所は回りたいな。
「何から何まで……本当にありがとうございます。私はご主人様に出会えて幸せです」
「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ。……俺はやる事を思い出した。何度も言いますがエリスを頼みます」
「かしこまりました。それでは失礼します」
アメリアは丁寧にお辞儀をして部屋を出る。レインがやる事はこの屋敷の警護のことだ。ステラや門番を信用していないわけじゃない。ただ阿頼耶も常にここに置くわけにもいかない。
だから普段は姿を見せずこの屋敷と住人に危険が迫れば展開させる疲れも知らない兵士が必要だ。レインはそれを可能とするスキルがある。
傀儡の兵士をレインから切り離し、別の場所や人に移すことは可能なんだろうか?
「……アルティ」
"あー……出来ない訳じゃないよ。でも人じゃなくて物に配置した方がいいのとそれ自体オススメはしないって感じかな?"
「それは……なんで?」
"傀儡にも魔力があるからね。それも魔王の力だ。覚醒者でも影響を受けちゃうから魔法石とかに付けとけばいいと思う。
あと当然だけど傀儡はレインが扱う事で強くなる。他所に付けてレインとの距離が離れれば離れるほど回復が遅くなるし、魔力も消費する"
「それは弱くなるって事?」
"違う。強さは同じだけど、効率が悪くなる。例えばアンタの傀儡の上位剣士だっけ?アイツが完全に破壊された時に消費する魔力が1だとするよ?それが離れてると3とか4くらいになる。つまりは魔力が余分に消費される。あと付け加えるなら切り離すとすぐには呼び戻せなくなる。護衛につける傀儡はよく選べって事だね"
「出来るんだな。ならそれでいい。傀儡の兵士による警護は万が一の備えだ。…明日、ダンジョンを回るか」
"任せるよ"
『決闘』までの目標を決めてその日は眠りについた。
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