第52話
「ありがとう。これからもよろしくお願いします」
国王は席を立ち頭を下げた。王女様もそれを見て同じ動きをした。もう後悔しても遅い。というかこの選択が間違っていたなんて思いたくない。変化させないと現状は変わらない。
今のままでエリスを幸せには絶対に出来ない。自分の強さも大事だが周りの環境を整えることも必要だな。
「……ではシャーロットさん早速家の件でお願いがあるのですが」
「何なりとお申し付け下さい。私が責任を持って対応致します」
王女様は優しく微笑みレインの横に再度腰掛ける。
「今は妹と2人で組合から倒壊寸前の小屋みたいな家を借りてる状態です。そこから引っ越したいと思ってます。どこかいい家を探してくれませんか?」
「分かりました。……そうですね。では私の私邸の向かい側にしましょう。レイン様に相応しい屋敷だと思いますし、近くに兵士の詰所もありますので防犯面でも優れています。
いつでも貸出が出来るように家具は揃えていますし、掃除などの手入れも定期的にさせていたんです。
ただ私の家の向かい側のせいか誰も来てくれなかったんです。ちょうど良かった」
なんか予想よりすごい家だと感じたがそこにしようと思う。もうこの際使えるもんは何でも使う。
「それはいつから入れますか?」
「明日の正午にでも。すぐに鍵の手配や寝具の調達、食器類などを揃えさせますので。これから拝見されますか?ここからそう遠くはありませんよ?」
レインは時間を確認する。まだ明るい。日暮れまでには帰りたいけど、時間はいけそうだ。もう今日はエリスと出掛けるのは難しいだろう。あのバカ王子……もし道端で会ったらもう2、3回刺してやる。
「お願いします」
「かしこまりました。今日は天気もいいですし歩いて行きましょう!」
「え?……まあ任せます」
王女様は勢いよく立ち上がる。王女様って歩いて行くとかいう考えを持つんだな。基本馬車とかでしか移動しないもんだと思っていた。
「シャ、シャーロットよ。せめて護衛の兵だけでも連れて行きなさい」
「あら?お父様。私はレイン様と一緒に行くのよ?この国でレイン様以上に心強い御方などおりませんわ。……もし何かあれば守ってくださいますわよね?」
王女様はレインの左側に寄り添うように近付く。そして腕を絡めて密着する。ここでレインの弱点が発動してしまう。
パニックになり咄嗟に振り払おうとするが、理性がそれを全力で止めようとする。王女様は覚醒者じゃない。〈上位強化〉のスキルを常に発動させているレインが咄嗟に取った行動は力の加減が出来ていない状態だ。
それは王女様に怪我を負わせてしまうには十分な威力となる。
しかし腕に当たる柔らかな感触と国王からの真顔の視線が重なり合いどうしていいか分からなくなった。その結果動けなくなった。
「あら?……ふふふ、レイン様にも弱点があったのね?では行きましょうか!こちらです」
王女様はそのまま部屋の外へ歩いて行く。外へ出ると多く使用人が近づいて来た。多分要件を聞こうとしたんだろう。
しかしレインとシャーロットの姿を確認するや否やニヤニヤしながらその場を去って行った。これは完全に誤解されている。
「あのシャーロットさん、少し離れて下さい。歩きづらいです」
「離れて欲しい理由は歩きづらいから……ですか?」
王女様は顔近付けてレインの顔を覗き込む。
「え!?……あ、ああ…もちろん」
平静を装いきれない変な声が出た。
「……ふふ…今回はそういう事にしておきますね」
そう言ってようやく王女様はレインから離れた。そしてそのまま王城を出る。王女様と2人だけで歩き、そのまま外へ出ようとする行為を誰かが止めるだろうと思っていたが誰も声をかけなかった。
王女様とレインを見ると作業を止めてお辞儀だけしてそのまま作業に戻って行った。
"これが普通なのか?この国の第1王女だろ?俺が一緒だとはいえ護衛が必要かどうかも聞かないなんて"
"だからね?……アンタは…って聞いてた?"
ずっとボソボソ何かを話していたアルティがようやく我に返ったようだ。ちなみにほとんど聞いていない。
"ああ、聞いてたよ。俺はエリスのために動くよ。頼まれた事が結果としてエリスの為になるのなら何だってやるさ"
"……聞いてないじゃん"
"え?"
"もういい!一旦口聞かないから!3日は聞いてやらないから覚悟しとけよ!ふて寝だ、ふて寝ぇ!"
そう言ってアルティは何も話さなくなった。とりあえず静かになったので気にしないでおく。そして結局誰にも声をかけられず王城を出る事が出来た。
王女様がレインがいるとはいえ1人で外に出るなんて不用心だな。
「…………ん?」
「どうされました?」
王城の入り口……そこを過ぎた先にも建物が並ぶ。その建物の1つの壁にもたれ掛かる見覚えのある人がいた。
「……阿頼耶?」
「アラヤ……さん?」
レインは小さく呟いただけだった。王女様には聴こえて当然だが阿頼耶も反応したようだ。こちらを見て少し怪訝そうな顔をしながら向かってくる。
「レインさん……ご無事でしたか」
「何でここにいるんだ?」
阿頼耶にはエリスを見ているように言っていたはず。その阿頼耶がここにいるということはエリスは今1人という事だ。
エリスをやむ得ず1人にする事はあったが進んでしたいとは思っていない。
「レインさんの帰りが遅くエリスさんが心配していました。そのエリスさんのお願いで迎えに来た次第です。エリスさんには私を付けているので何かあっても対応は可能です」
そうか。エリスの頼みから仕方ないな。余計な心配をかけさせてしまったか。
「ところで……レインさん、そちらの方は?」
阿頼耶の怪訝な表情の理由は王女様だった。まあ知らない人が近くにいたら警戒するよな。
「これは申し遅れました。私はシャーロット・イニエル・ディール・イグニス、この国の第1王女です。貴方は何者ですか?レイン様とはどういった関係ですか?」
「私は阿頼耶だ。レインさま…ぁんとはパーティーを組んでいる」
………今なんて言った?コイツ本当にちょこちょこボロを出すよな。お前はもっと知的なタイプなはずなんだけど。
「アラヤさん……そうなのですね。……レイン様とパーティーを。なるほど、ランクと
阿頼耶の
「Aランクだ。
阿頼耶は腰から短剣を取り出した。多分、今作ったんだろうな。鞘がないからどうやって保管してたんだよってなる。
「そうなのですね。最近覚醒者になられたのですか?Aランク以上の覚醒者の方々は全員記憶しているつもりでしたのに。アラヤさんというお名前は初めてお伺いしましたので」
「そうだ。私はレインさ……んに命を救われた身だ。レインさんが私の力を見抜いて鍛えて下さった。だから私はその恩に報いる為に行動を共にしている」
今もちょっと危なかったな。
「まあ!そうだったのですね!」
何かを理解し、納得したように王女様は阿頼耶の手を握る。阿頼耶は怪訝な顔を隠すことなく受け入れた。とりあえずその顔やめろ。
「レイン様に対して邪な考えを持つ者でしたら何とかしないといけませんでしたが、レイン様を敬い仰ぐ者はみんなお仲間です!アラヤさん!これからも仲良くして下さいね!」
両手を包まれブンブンと振られる阿頼耶がこっちを見た。助けて下さいと言わんばかりの悲壮な表情をしている。
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