第33話
◇◇◇
「さて……行くか!」
エリスに豪勢な食事とポーションを用意して家を出る。阿頼耶も一緒に連れて行く。
今日、神覚者になった事を公表する。そして可能ならその日のうちにダンジョンを周り切ってしまいたい。神話級ポーションを手に入れるには60日以内にAランクを5箇所回らないといけない。
アラムたちと攻略したのはBランクとされているからカウントされない。
「はぁー……」
「ご主人様……どうされましたか?先程からため息が多いようですが?」
「……レインと呼べと言っただろ?……いや少し緊張しててな。今日この日から俺の今までの全てが変わると思うと……な」
「失礼致しました。ただ大丈夫だと思います。レインさんの周囲の評価がどうなろうと私たちは変わりません。魔王アルティもエリスさんもそうでしょう」
"だからアンタはいつになったら様を付けるんだ!様を!"
「アルティが様を付けろだってさ。……でもありがとう」
「レインさんの従者として当然のことです」
そんな話をしていると組合本部に着いた。しかしいつもと様子が違う。組合本部の外にも人集りが出来ている。
「これは……物凄い人だな。入れないぞ」
「……私が行って力で排除してきましょッ」
阿頼耶がそれを言い切る前に頭に手刀をお見舞いする。既に周りに人がいるのに普通の音量で話すな――というメッセージを込めての一撃だ。
阿頼耶は――何故?!という表情をしながら頭をさすっている。
「それが分かるようになれば一段階成長したって事なんだけどなぁ」
さらに阿頼耶はレインの発言の意図を本気で考える為に黙った。
"しかしこの人混みはどうしようか。中に入れないと始まらないぞ?"
しかしすぐに人混みは解消していった。解消したというよりはレインと組合本部入り口に道が出来るように覚醒者たちによって整備された。
その人の真ん中を見覚えのある人が歩いて来ている。それはニーナともう1人……知らない男だった。
「おはようございます……いえこの時間ではこんにちは……が正しいですね。レインさん、昨日は休めましたか?」
「は、はい……それよりもニーナさん……この人たちは?」
レインの当然である質問にニーナは困った表情を浮かべる。横にいる男も申し訳なさそうに頭を少し下げた。
「こうなる事を予想しておくべきでした。今、組合本部には『黒龍』ギルドのSランク覚醒者が4人揃っています。マスターは現在他国にダンジョン攻略へ行っているので不在です。この国のSランクは現役が8人ですが、その半分が1つの場所に揃っていれば騒ぎになるのは当然でした」
「何故Sランクが4人もいるんです?」
「それは当然レインさんの護衛のためです。この後、Aランクダンジョンを5ヶ所回られるのであればそれ相応の戦力が必要です。私は『黒龍』ギルドのサブマスターです。当然マスター以外の覚醒者を動員する権限があります。
レインさんにとっては必要のない事かもしれませんが、ダンジョン内では何が起こるか分かりません。確実な遂行の為にはこれくらいしないといけません!」
ニーナは胸を張って自信に満ち溢れたような表情で説明する。……ただレインにとっては必要ないどころか迷惑の領域だった。
「あ……ああ…えーと、そうですか」
しかしエリスを助けるための情報を細かく教えてくれたのはニーナだ。ニーナとの出会いがなければ手に入れる事が出来なかった……出来たとしてもかなり後のことで『決闘』に参加すら出来なかったかもしれない。
そんな恩人が気を遣ってくれたんだ。そんな気遣いを迷惑だと吐き捨てるような人間にはなりたくない。
「ありがとうございます」
「いえいえ!では参りましょう!既にこちらでAランクダンジョンを複数見繕っています。その中からレインさんが選んでいただければと思います」
「ちょっと待って下さい。俺は『黒龍』に所属するつもりはありませんよ?Aランクダンジョンを見繕うって……。それだけの攻略権を買うお金も今の俺にはとても……」
「ご安心下さい!レインさんを勧誘するつもりはありません。……というか神覚者の勧誘は王令で禁止されています。いつか出現した時のために施行されたようですね。神覚者の御方にしつこく勧誘を行い他国へ行ってしまわれたらその国にとっての損失は測り知れないという事でしょう。
それにダンジョンの件も安心して下さい。元々我々がギルドがAランクとBランク覚醒者を訓練する為に確保していたものです。費用もこちらが負担しますので何も気にする必要はありません」
神覚者の勧誘は禁止?それに王令といったら犯せば即死罪で弁明の機会も許されない1番上の規則だ。それほどまでに神覚者を確保したいという気持ちがあるんだろう。要は特別待遇って事か。
Sランクと神覚者の数でその国のランクが決まる。8大国という地位は何としてでも維持したいというのが国王の望みか。
そのためにSランクと神覚者への待遇を厚くしてこの国に居てもらおうという考えだな。別にそこには何も思わない。
ニーナに連れられようやく組合本部に入る事が出来た。中にも人は多く居たが魔力測定機に1番近い席にその者たちは座っていた。
そこだけを避けるように人がいないし魔力の濃さが尋常じゃない。2人が座っていてニーナの後ろに控えていた男が合流した。そのせいでそこだけ別の空間になった。
レインとニーナがそこに行くと魔力感知に長けた者なら気分が悪くなるかもしれない。
レインが入ると周囲にざわめきが起こる。ニーナによってエスコートされ、レインの存在を確認した『黒龍』のSランク覚醒者たちが立ち上がり軽く頭を下げた。
ニーナはレインの事を同じギルドのSランクたちに話していた。しかし周囲はそれを知らない。周囲にとってレインという存在は役に立たない邪魔な荷物持ちだったから。
「レインさん……他の者たちにも見せてやりましょう。あなたが手に入れた神からの祝福を」
"神じゃなくて魔…!"
「分かりました」
レインはもう一度魔力測定器の前に立つ。結果は何となく分かっているが、緊張する。あの時もそうだった。
年齢が10になる前から魔力が見れた。そして期待され組合本部に連れられ結果を見た人たちから幻滅され期待外れだと言われた。
勝手に期待されて努力ではどうにもならない結果に役立たず、落ちこぼれだと言われた。
あの時から周囲から向けられ続けた負の感情を……ここで断ち切ろう。
"そういえば……あの時、誰に連れられて来たんだっけ?"
レインは測定器に触れた。
バンッ!!!!――その瞬間測定器に取り付けられたランクを表す6つの小さな水晶と魔力を測るためにレインが触れた大きな水晶の全てが爆発するように粉々になった。
1つでも割れればSランクと認定される。阿頼耶のようにヒビが入るだけでも大騒ぎだ。
しかしレインがやった事は前代未聞、今後も同じ事を出来る者が出現するのかというレベルのものだった。
魔力測定器そのものがレインの持つ潜在魔力に耐えきれず完全に破壊された。
その事実が何を意味するのか理解できないものはこの場にはいない。
とうとう出現した。この国に住む者たちにとって長年の悲願だった『神覚者』の出現。誰も歓声を上げない。
その場は静まり返る。しかし誰か拍手をした。その小さな音は人から人へ手渡されるように広がっていく。
そして数分後、歓声と共に喜びの感情が組合本部を包み込んだ。
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