第21話







「ガッ……カハッ…す、すみません」



「ちょっと!何を?!」



 彼の仲間が助けに入ろうとするが、阿頼耶の魔力と威圧の視線に気圧されて動けない。


「そんな言葉で許されると思っているのか?これから貴様が行うのは謝罪して少しでも楽に死ぬか……拒否して苦しみと絶望の中で死ぬか…このどち……」 



 ――バゴッ!



 レインは咄嗟に飛び出して阿頼耶の頭をそこそこの力でど突いた。その拍子に阿頼耶は手を離してアラムは床に落下した。



「……痛いです」



 阿頼耶は不服そうにこちらを見る。なぜこちらが悪い雰囲気なのだろう。



「そう思うように殴ったからな」


 阿頼耶は全身武器だ。首を掴んでいる指先の先端が刃物に変わればアラムは死んでしまう。こんな所で死亡事件なんてごめんだ。



「……ゲホッ…ゴホッ…」



「大丈夫か?阿頼耶がすまない事をした。……悪気があった訳じゃないんだ。俺たちの関係は訳ありなんだよ。どうか理解してくれ」



「い、いえ……ゴホッゴホッ…私も貴方に対して失礼な……事を言いました。ランクだけで……人を決めるのは良くないと…学んだばかりだったのに」



 こいつもこいつで何かあったんだな。……はぁー阿頼耶が手を出してしまったからには協力しないわけにはいかない。



「……あーもし君たちが良ければそのBランクダンジョンに連れて行ってもらえないか?俺の報酬は考えなくてもいいが……阿頼耶に関しては平等に考えてくれ」



「……いえ…アラヤさんはレインさんとパーティーを組んでいるんですよね?レインさんにはランクに縛られない何かがあるのだと思います。報酬はこのメンバーでしっかり分けます。……ですのでよろしくお願いします」



 一悶着あったがレインは立ち上がったアラムと握手する。Bランクダンジョンか。荷物持ち時代から考えても行くのは初めてだ。



 今の力がどの程度通用するのか。どんなモンスターが出てくるのか。とても楽しみだ。



「……では明日の朝に西門に集合しましょう。場所はここから近いのですが、来ていただけそうなAランクやBランクの覚醒者にお会い出来なかったので日数が経過してしまってます。

 先に言っておくべきでしたが……ようやく見つけた御方でしたので……すいません」


「別に構わないよ。明日だな?よろしく頼みます」


 そこでアラムたちとは別れた。といってもまだ夜にもなってない。


「もう1箇所……Dランクでもいいから行こうか」


「…………お供します」


 そこから近場に絞ってダンジョンを探してもらい向かう事にした。




◇◇◇



 

「……やっぱり手応えがないな」


 このDランクダンジョンはアンデッドの集団だった。しかしスケルトンという最下級のアンデッド集団だった。

 一応革の鎧や剣、盾を持っているが連携も取れてないし何より耐久力がない。

 その辺の石を本気で投げたら何体か貫通して倒せる。こんなのを兵士にしても魔力の無駄遣いだから傀儡にもしない。


 Cランクの番犬だけで事足りる。今は剣士たちを手伝いながら魔法石を壁から引き剥がしている。


 それよりも気になるのが……。


「………………」


「阿頼耶」


「………………」


「阿頼耶!」



「はい!申し訳ありません!如何なさいましたか?」


 アラムたちと別れてから阿頼耶に元気がない。体調不良か?……いや阿頼耶は人間じゃないからそんなことも……あるのか?分からん。


「集中出来てないな?さっきスケルトンに殴られそうになっただろ?もし体調が悪いとかなら後ろで休め」


「そのような事はありません!……ただ」


 やはり何を言いたいみたいだが、抵抗があるようだ。

 

「お前が主人と仰ぐ俺からの命令だ。気になる事があるなら言え。そのままの方が後々支障を来たす。俺への不満なら直す努力もする。ただ黙っていられる方が俺としては困る」


「ご主人様への不満などあるはずがありません!!……ただ私はあの者が許せないのです。ご主人様の本当の力も見抜けずランクという人間が作ったつまらない階級に当てはめ見下したあの者が!

 ご主人様は気にされないのかもしれません!しかし私にとっては魔神の使役から解放され、ようやく私の意志でお仕えしたいと思った初めての御方なのです。その御方を見下し愚弄したあの者を……許す事など到底出来ません!」


 …………ここまで阿頼耶が話したのは初めてかもしれない。


 "そこまで俺の事を想ってくれていたなんて"


 その想いを目立ちたくないという理由で無碍にしたレインにも責任がある。胸が少し締め付けられるような感じがした。


「……分かった。だが殺すのはダメだ。……そうだな、明日のBランクダンジョンで俺の力を見せつけようか」


「しかし……それではご主人様の計画に支障が出てしまいます」


「計画?」


「はい。可能な限りそのお力を隠すと仰っていました」


 その通りだ。変に力を誇示すると拒否できない立場の者から依頼を受ける事になるかもしれない。国王とか来ると本当に面倒だ。

 王家直属の『王立護衛隊』なんて出て来られたら対処できなくなる。


「……そうだったな。本当はもう少し力を付けてから公表したい。でもそれは俺が面倒な事にならないようにする為ってだけだ。阿頼耶の感情を無視してまで遂行する必要はない。明日のBランクダンジョンは俺の力だけで攻略しよう」


「そんな!私如きの為に」


 阿頼耶は自分の事を悪くいう癖がある。普通に優秀だし助かってるのにそんな態度を取られると悲しくなる。


 「何度も言ってるが自分を卑下するなよ?……次やったらお前を仲間としても武器としても扱わない。これは命令だ、分かったか?」


「か…かしこまりました」


 少し厳しく言ってしまったが仕方ない事だと言い聞かせる。


「分かったならいい。アイツらに見せつけてやるさ。この国で最初の神覚者の力を」



"私、魔王なんだけどね。魔覚者のが正しいんじゃない?……でも語呂が悪いか"



「明日に備えてさっさとクリアするぞ」



 "お?無視かい?"



「かしこまりました。私が番犬と共に殲滅して参ります。少々お待ち下さい!!」



 阿頼耶も元気になったようだ。表情が明るくなったし、行動も……なんか浮き足立ってる。


 別の理由で怪我とかしないでくれよ?一応少し後ろから見ておこうか。そう思い歩き出した。


 


 

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