第5話








 

「……魔色?」


 レインにとって初めて聞く言葉だった。


「ええ、君は相手が放つ魔力の色を見る事が出来るよね?」



「え、ええ……まあ誰も信じてませんが……。魔力に色なんて無いって」


「私は信じるよ?それはいつからなの?」


「いつ……ですか?ええ…と……生まれ……つきです」



「……へぇ…素晴らしいね」


 黒髪の女性はニヤリと笑った。それが悪い事なのか良い事なのか分からない。今のところは悪い方に傾いている。



「……な、何が?」



「君は適性があるんだよ。私の魔力と力に対するね。たまに居るらしいんだよねぇ!生まれた時から間に何かしらのスキルを持ってる子って」


「適性……ですか?」


「そう……君はさっきの傷で死んでるはずだった。君が魔色の事を言ったからね。適性がある事は分かったから生かそうと思ったんだけど私の力じゃ失った血液までは戻せない。だから私の血を与えたの」


「……血を?」


「……君も勘付いてると思うけど私は人間じゃない。普通の人間が私の血を取り込んだら死んでしまう。……というか触れるだけでもかなり危険だね」


「……………………」


 レインは黙ってその話を聞く。というか口を挟むことなんて誰が出来ようか。



「でも君は私の血をかなり取り込んでも今こうして私と話している。そして魔色も見る事が出来る。これ以上ない適性だね」

 

「…………いいですか?」


 レインは恐る恐る手を上げる。機嫌を少しでも損ねると即座に殺されてしまうかもしれない。

 

「ん?どうぞ?」


「俺の……適性って何ですか?……俺はFランクの中でも最底辺ですよ?力も才能もなくて……ここにも騙されてたどり着いたというか……なんというか」


「才能がない?まともな修業をしてないだけだろ?身体つきは……まあまあかもしれないけど、魔力の扱い方、戦い方、スキルの使い方も知らないよね?

 いくら才能があっても修業もしてないんじゃ意味がないね」


「……でも俺には魔力がほとんど無いんですよ?魔力測定でも最底辺の数値でした。だから才能なしの烙印を押されて……」


「君さぁ…相当やられてたんだね。いいかい?君が放つ魔力はもう人間のそれとは違うものだ。私の血を取り込み適応した事で覚醒している状態だ。もうさっきまでの自分とは思わない事だね。

 その……魔力測定っていうのがどんなのか分からないよ?でもそれだけでその人の全てを決めつけるようなセンスのない事を今の人類はやってるんだね」



「……………………」



「君は強くなるれるよ。私が保証しよう。これまで苦労しただろうけどね。これからは私が君を育てよう。どうだい?やってみないか?」



 女性は優しい目でこちらを真っ直ぐ見る。そして手を差し出した。



「………………俺は守りたい人がいるんです。自分の命なんてどうでも良いくらい大切な家族なんです。あなたの元で修業すれば強くなれますか?」



「約束するよ。君は世界の全てを敵にまわしたとしても余裕で圧倒し全てをぶちのめすくらいの力を得るよ」



 その女性の言葉に嘘はないと直感で分かった。というかこの手を取る以外に選択肢はない。レインはその女性の手を握った。ただ気になった。適性に関しては教えてくれないようだ。


「それでね?力の使い方を教える代わりに私の頼みを聞いてほしいんだけど…いいよね?」



「…………え?」



 レインは咄嗟に手を離そうとしたけど強い力で握られていて解けない。



「た、頼み……ですか?」



「うん!良いよね!」



「内容……聞いてもいいですか?」



「君は神魔大戦を知ってる?」



「え?……まあ…はい。知らない人はいないと思いますよ?」



『神魔大戦』


 まだ人類に国や序列なんてものが存在する前の時代。争いもなくみんなが平和に暮らしていた時代。


 しかし突如として人類に牙を剥くモンスターが一斉に出現した。どこから現れたのかも不明で、何故人間を襲うのかも分からない。圧倒的な力を持つモンスターを相手に人類は瞬く間に蹂躙され絶滅の危機に陥った。

 その状況を嘆いた神々が適性を持った人類を選び覚醒させた。


 覚醒した一部の人類は神に類似した魔力とスキルを得てモンスターと戦った。


 しかし戦力が拮抗してきた段階でモンスターたちの王…魔王が降臨して人類はもう一度窮地に陥った。


 しかし慈悲深き神々は、人類の絶滅を防ぐために自らも地上へと顕現した。


 そして人類を守るために魔王と戦い撤退させ勝利を勝ち取った。

 しかし地上には魔王が率いたモンスターの残党が残っている。だが神々も深く傷付き撤退せざるを得なかった。


 その為、神々は自らの一部を切り分けて人類に魔力とスキルの継承と世代を超えて覚醒する力を与え、地上に残ったモンスターの残党を討伐するようにという神託を降し去っていった。


 人類は降臨した神々を冠する国を建国し現在の8大国と無数の小国に落ち着いた。



「……っていうやつですよね?」


「それって実は違うんだよね。戦争してたのは本当だよ。違うのは神に神王、魔王には魔神といったさらに上の存在がいたんだよ。そいつらが戦争を起こしたんだ。

 私も最初は戦ったんだけどね。本当に終わらなかった。どれだけ敵を殺し続けてもすぐに補充される。気付けば私の手は血塗れだったよ」


「……………………」


「そんな時にね。この終わらない戦争に嫌気がさして私は魔神に言ったんだ。あなたの力をもう少し分けてくれってね。そうしたら必ず勝利を手に入れるって。

 そうしたら魔神は断りやがった。そこで気付いたよ。神王と魔神は結託していたんだ。この戦争は奴らの暇つぶしで私たちはただの道具なんだって」



「……それで…どうしたんですか?」



「向こうの神にも私と同じ思いを持つ奴がいてね。そいつと結託して裏切っちゃった!魔神は殺して神王には致命傷を与えて戦争は終わりーってなったんだよね。でも私たちは裏切った。だからこうして隠れる身となったんだ」



「……それで…その頼みっていうのは?」



「最近ね?感じるんだよ。また戦争が起こる気配がするんだ。でも私は神や他の魔王とは戦えない。あの時に仲間はほとんど失ってしまった。共に裏切った神も何処にいるのか分からないんだ。私だけでは止められないんだよ……だから……」


「俺に……って事ですね」


「そういう事!……もちろん全ての人間を助けてって訳じゃないよ?君がいう大切な人だけでも良い。目標はこの地上が完全に消えてしまう前に戦争を終わらせる事……かな」



「分かりました。俺にどれだけの事が出来るのかはわからないけど……家族を守れる力を手にできるならやってみるよ」 



「ありがとう!契約成立ね!」



「……それでどれくらいの期間でどんな修業をするんですか?」



「そうだねぇ……まずは魔力操作を覚えてもらおうかな?とりあえず……10年くらい?」



「帰ってもいいですか?」


 

 


 

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