第8話:七種先輩と一緒にお昼ご飯を食べていく

 あれから数日が経過した。


 今は午前中の授業が全て終わり昼休みに入っている。 今日は生徒会の打ち合わせがあるので、俺は生徒会室でご飯を食べている最中なのだけど、若干の緊張感があった。 何故なら……


「……(モグモグ)」

「……(モグモグ)」


 俺の隣の椅子に七種先輩が座っているからだ。 今現在、生徒会室にいるのは俺と七種先輩の2人だけだ。 先輩も生徒会の打ち合わせ前に生徒会室に来てお弁当を食べていた。


 七種先輩と二人きりなんて全男子からしたら誰もが羨む光景だろうけど、でも俺からしたらそんな憧れの先輩と2人きりの状況とかメチャクチャ緊張するんだが。


 そりゃあ七種先輩とは1年以上も生徒会の付き合いがある訳だから、そこら辺の男子よりもある程度は友好関係は築けているとは思うよ? でも緊張しないでいるのは絶対に無理だから。 もちろんこんな状況で七種先輩と上手く喋れる自信など一切無い。 某脳筋ゴリラ先輩にこれ相談したら“童貞脳乙www”って100%煽られてるだろうな。


「はぁ……」

「ん?」


 そんな事を考えていると、隣に座っている七種先輩がため息をついてきた。 いつも明るい先輩なのでそれはちょっと珍しい光景だった。


「どうしました先輩? 大きなため息でしたよ?」

「え? あ、ごめんね、うるさかった?」

「い、いえ、そんなことはないです。 でも一体どうしたんですか? 何かあったんですか?」

「あ、えーっと、その、ね……」

「ん?」


 俺は七種先輩がため息を付いている理由を尋ねてみた。 するとその理由はとても意外なものだった。


「いや実はね……ここ最近、告白が続いてるんだ」

「ぶはっ!?」


 そんな全男子の憧れの先輩からまさかすぎる回答が飛んできて俺は弁当のご飯を噴き出しそうになった。


「だ、大丈夫?」

「ごほっごほっ! す、すいません……」


 七種先輩は心配そうに俺の背中をさすってくれた。 これ他の男子に見られたらとてもヤバイ光景だな……いや今はそんな事考えてる場合じゃないっ! もっとヤバイ発言が飛んできたのだから。


「ふ、ふぅ……も、もう大丈夫です。 すいません先輩」

「そ、そう? それならよかったけど」


 俺は呼吸を整えて、先ほどの七種先輩の発言をもう一度聞き直した。


「い、いえ、そ、それで? こ、告白って……だ、誰かとお付き合いされる感じなんですか……?」

「え? あぁいや、告白は告白なんだけどさ、別に付き合ってほしいっていう告白じゃないんだ。 告白というよりも報告? みたいな感じだね」

「え、報告?」

「うん。 ほら、私ってもう三年生だし、近い内に卒業するでしょ? だから、最後の思いで作りって訳じゃないんだろうけど、“一年の頃から好きでした、お互いに受験頑張りましょう!” っていう……なんだか報告じみた告白がここ最近ずっと続いてるんだ」

「そ、そうなんですか、なるほど」


 七種先輩はメチャクチャモテるのはもちろん知っている。 だって去年の文化祭のミスコンで1位を取った時は尋常じゃない数の告白を受けていたのを俺も遠くから見ていたし。


「という事で最近は記念受験みたいな軽いノリで私に告白してくる男子がちょっと多くてね、ちょっと疲れちゃった」

「そ、それはその……お、お疲れ様です?」


 モテた事が無い俺からしたら天上人のような悩み事であった。 もちろん俺はこれに対する正解の返し方なんてわからないので、とりあえず労いの言葉を送る事にした。


「あはは、ありがと。 でもなぁ、もっと本気で告白してくれれば私も嬉しいんだけどなぁ……」

「え? で、でも、本気で告白したとしても、七種先輩はお付き合いはされないんですよね?」


 先輩の七不思議の1つにこんなものがあった。


―― 七種千紗子は誰とも付き合わない ――


 これは七種先輩が入学してから現在まで、どんなイケメンからの告白でも受け入れた事が1度も無いという逸話から生まれたものだ。 だから軽い感じの告白ばかりになってしまうのも何となくわかる。


 七種先輩を攻略する事は不可能なんだと男子は全員そう言っているのだから。 当然俺もそうだと思っているし。



「え、なんで? そんなこと全然無いけど?」


「……え?」



 だから七種先輩のその発言はかなり衝撃的すぎた。


「…………」

「ど、どうしたの? 神木君、急に固まっちゃったけど」

「……え!? あ、い、いやちょっと待ってください、頭が真っ白になって……! あ、ち、ちなみになんですけど、告白を受け入れる条件とかはあるんですか?」


 俺はしどろもどろになりながら先輩に尋ねてみた。


「うん、それはもちろんあるよ。 条件はそうだなぁ……私と趣味が合う人だったら嬉しいかな?」

「趣味が合う人ですか、な、なるほど。 って、あれ? そういえば七種先輩の趣味って一体何なんですか?」


 そういえば七種先輩の趣味って何だろう? 今までそんな話をした事はなかったから気になってきた。


「ふふ、それを簡単に教えちゃったら条件を付ける意味が無いでしょう?」

「あ、ま、まぁそれは確かにそうですよね」


 俺はしょぼんとした顔をしていると、七種先輩は柔和な笑みを俺に向けながら、さらにこう語りかけてきた。


「まずはお友達から初めて、私の事を色々とゆっくり知ってもらってさ。 それで趣味が合ってたら、そこから二人で遊ぶようになっていって、そしてゆくゆくはお付き合いを……っていうのが私の理想なんだ。 だから私の顔だけで告白してくる人はちょっとね」

「な、なるほど」


 七種先輩の理想の出会い方を始めて聞いたけど、美人で大人っぽい先輩にしては少女漫画の主人公っぽい考え方をしているのが少し意外だった。


「まぁそれにさ、私って趣味とかに使う時間の方が多いんだよね。 だから彼氏を作って一緒に遊ぶよりも、趣味のために時間をつぎ込みたい! って思っちゃうタイプなんだよね、えへへ……」


 七種先輩はそう言うと少し照れくさそうに笑った。 やっぱり美人は恥ずかしそうな顔をしても美人だなと思った。 それと……


「……ははっ」

「うん? どうしたの?」


 それと何だか似たような話を少し前にゴリさんとしたなぁって思ったら、少しだけ笑ってしまった。


「あ、い、いえ。 俺の友達も似たような事を言ってたなぁって思い出しただけです」

「へぇ、そうなんだ! あはは、それは何だか嬉しいなー。 神木君のお友達とは話が合いそうだなー」

「う、うーん、どうですかね? あの人と先輩は性格が完全に真逆ですし」

「え、そうなの? 私とは完全に真逆の性格をしてるなんてことある? でもそれはそれで面白そうなお友達だね、ふふ」

「まぁ、そうっすね、面白い友達ではあります。 しょっちゅう喧嘩してますけど」

「あはは、そうなんだ。 でも喧嘩する程仲が良いって言うし良い事なんじゃないかな」

「あはは、そうっすよね」


 そんな感じで、緊張感も解けて先輩と楽しく会話をする事が出来た。 もちろん先輩と話せただけでも十分幸せなんだけど、それでもやっぱり気になる事が一つ残っている。


「でも趣味に時間がかかるのって結構大変ですね。 モノ作りとかそっち系の趣味なんですか?」

「え? うーん、どうだろねぇ? あ、でも……」

「でも……?」

「よく考えたらさ、私、神木君には趣味の話をした事あるわ」

「え!? ま、まじっすか!?」

「うん、まじっすよ。 ボソっと言っただけだから覚えてないかもだけどね」

「え、えっ!? ち、ちなみにヒントとかは?」

「ふふ、頑張って思い出してくださいー」

「そ、そんな……!」


 そんな衝撃的な発言を七種先輩から貰ったお昼休みだった。 もちろんその後の生徒会の打ち合わせはちっとも集中出来なかった事は言うまでもない。

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