第17話
秀蔵は一人自然が溢れ心地よい木漏れ日が照らす山道を歩いていた。向かっているのは瀬戸に紹介状をもらった中級剣聖、東條玲那の棲家だ。
かれこれ二時間、無人の駅を出てひたすら歩き続ける。
舗装された道から外れライフラインすら通ってない。もはや人が住んでいるとは思えない。
しかしそんな先に東條玲奈の家は確かにあった。
小さな畑と年季を感じさせる木造の家。
表札はなく、秀蔵はガタついた扉を叩いた。
「ごめんください。東條玲那さんはご在宅でしょうか?」
家の中には二人分の剣気を感じている。片方は今まで出会ったことのないほど澄んだ美しい剣気。もう片方は剣気に鋭敏な秀蔵でも感じ取るのが難しいほど小さく静かな剣気。
前者の剣気が移動し向かってくる。
「……」
「突然すみません。俺は望月秀蔵と申します。瀬戸雄二さんの紹介で東條玲那さんに会いにきました」
「……」
現れた少女は一切声を発さない。しかし身振りで迎え入れている様だった。
「失礼します」
ギシギシと、鶯造だとかではなく単なる劣化から鳴る床。
建物自体は古いがよく手入れされてるため綺麗な空間だった。
通された先の部屋、秀蔵は目の前の女性が東條玲那だと確信する。
「初めまして、望月秀蔵と申します。東條玲那さんとお見受けします。この度はお会いできる機会を頂けて光栄です」
「……へぇ、目が見えないのに私が東條玲那だと確信しているね。何故だい?」
どこか面白がるような声音で女性は尋ねる。
「この場に感じるのはお二人の剣気だけ。俺を出迎えてくれた方は今までにないくらい澄んだ美しい剣気を。貴方は小さくまとまった剣気をしていました」
「剣気を感じ取る感覚に優れている。そう話は聞いていたが、本当の様だね。で? 何故小さい剣気しかもたない私が剣聖だと?」
「大きさが小さいだけで濃度が桁違いだからです。膨大な剣気を小さく圧縮してまとめ上げた。例えるなら湖を一滴の雫にしてしまうかの様な無茶、剣聖でもなければできないでしょう」
そこまで聞いた女性はパンッと膝を叩いた。雰囲気は幾分か柔らかくなり秀蔵を歓迎する様な雰囲気を発する。
「いい、お前の眼はなかなか使えそうだ。お前を弟子として認めよう。私の事は玲那さん、または師匠と呼びな」
「……たったこれだけで良いのですか?」
もっと模擬戦をしたり面接をしたりだとかがあるものだと思っていた秀蔵は拍子抜けする。
「いいか秀蔵。師匠である私がいいと言ったらいいんだ。くだらんことに疑問を持つな」
「……はい!」
玲那の正彦や海堂より厳しく律する言葉。
その言葉は秀蔵にこれからの修行は厳しいものになると期待させる。
しかしそれは別の意味で狂わされた。
「お前は今から剣気を感じ取る感覚を一切使うな」
「え?」
今や秀蔵にとって剣気とは目の代わりだ。それを使うなと。常に目を瞑った状態でどう生きろというのだ。
「二度目だ。くだらんことに疑問を持つなと言ったはずだ!」
「っ!?」
玲那が唐突に放った一撃。辛うじて察知し受けることができた。ただ完全に止めることは出来ず壁を突き破り外まで飛ばされてしまったが。
多分に加減された一振り。その加減された一振りに秀蔵は冷や汗を流す。当たっていれば骨が折れていた。
「早速私の言いつけを破ったな?」
「あっ」
今の一撃は玲奈の剣気の揺れで気づいた。だから受け止められた。しかし同時に玲那の言葉に反する行動だった。
そんな秀蔵に向けられるのは先ほどよりも強い一撃。危険を感じ無意識に剣気を感じ取ってしまう。
「またか。あぁまただ。よっぽど私の言葉を受け入れられない様だなぁ。ほら、そろそろやめないと死ぬぞ?」
「ぃっ、あぅ……ぐぁっ!?」
玲那の攻撃は徐々に威力を増していく。その度に本能が危険を避けようと剣気を感じ取る。そしてさらに威力が増し。
「気を失ったか。軟弱な」
秀蔵が耐えきれず気を失うまでその拷問と言える行為は続いた。
地面に伏してぴくりともしない秀蔵。そんな秀蔵にオロオロと慌てふためく少女。
「客間に寝かせてやってくれ」
「……」
コクコクと頷き引きずる様に少女は秀蔵を運んでいく。
玲那は先ほどの折檻を思い返す。
「基礎は最低限できているが、自分の強みを殺しているな。指導していたのはちょっと前に剣豪になったやつと下級剣客だったやつの父親」
瀬戸から聞いた秀蔵に関する情報、評価。
「確かに剣聖に届く器だ」
これからを思い玲那はどう扱いてやろうかとサディスティックに笑った。
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